選手はドキドキ、スタッフはハラハラ、観客は総立ち!奄美大島で初フリーダイビング競技大会レポ

この記事は約8分で読めます。

奄美大島で結成されたフリーダイビングチーム「APNEA AMAMI」が主催する、フリーダイビングプール競技大会「結の島フリーダイビングカップ」が4月末に開催された。奄美大島での記念すべき初のフリーダイビング大会となった本大会だが、果たしてどのような大会になったのか?大会にも選手として出場させていただいたオーシャナ編集部・セリーナが、様子を詳しくお届けしていきたい。

奄美大島でのフリーダイビングは、2年ほど前から普及しはじめ、沖縄県や神奈川県(湘南や真鶴)と比べると意外にも歴史が浅い。奄美大島でのフリーダイビングを島内外の人に知ってもらい、普及させるべく、昨年11月に奄美大島を練習拠点とするフリーダイバーが集まり、奄美大島のフリーダイビングチーム「APNEA AMAMI」が結成された。

奄美大島には最適な練習環境が海にあるため、奄美大島のフリーダイバーはプール競技の練習をあまりしない。とはいえ冬は寒さが増すため、「APNEA AMAMI」のチームメンバーで春頃に島外での大会出場を検討したのだという。しかし「フリーダイビングを島内の多くの方に知ってもらいたい」、「島外の人に奄美大島のフリーダイビングを感じてもらいたい」という想いが強くあり、奄美大島で大会開催を決意し、島内に人を呼び込むきっかけにしようということに。それが本大会開催の発端となった。

会場となったのは、名瀬運動公園屋内プール

大会前々日、他の大会ではほとんど行われない、大会未経験者向け事前講習会が開催された。というのも、本大会には、フリーダイビングを初めて間もない大会未経験者が多く参加するため、細かな競技ルールを最終確認しておかなければ失格してしまう可能性があるからだ。参加者はAIDAマスターインストラクターでアスリートとしても経験豊富な知野見光選手から、ルール説明など受け、本番に備えた。

大会前日は、選手にとっては最終調整日。参加選手は各自泳ぎの感覚を確かめたり、サポート(※)との連携を確認したりした、また、運営側も安全管理手順や判定手順などを慎重にシミュレーションしていた。世界大会を何度も経験している経験豊富な岡本美鈴さんやHANAKOさん、武藤由紀さんなどによる協力もあり、安全管理は徹底され、選手がベストパフォーマンスを発揮できる環境は整った。

セーフティーの連携を確認するHANAKOさん(左)と武藤由紀さん(右)

セーフティーの連携を確認するHANAKOさん(左)と武藤由紀さん(右)

そして、ついに大会当日。島ならではののんびりとした雰囲気で、ピリついた雰囲気もなく、選手たちも和やかな表情。午前9:00、受付を済ませ、いざ会場へ。

本大会で選手は、スタティック種目(STA)(※)とダイナミック種目(DNF/DYNB/DYNのいずれか)(※)に出場する。午前がスタティック種目で午後がダイナミック種目だ。まずは、出番の早い選手たちは早速ウォーミングアップを開始する。

会場の水温は30度ほどで、室温は26度ほど。東京や千葉などで開催される大会は水温が28度前後で体が冷えやすいが、ここのプールはちょうど良く気持ちがいい。会場の規模は、決して大きいわけではないが、選手やスタッフとの距離も近く、声も聞こえるため、むしろ緊張感が和らぐ感じ。窓も多く、開放的な雰囲気がある。

最初はスタティック種目。この種目は、その場で浮かんでどれだけ息を止められるか競う種目で、選手の中には、ダイナミック種目よりも緊張するという選手もいる。しかし、各地の大会に出場したことがある筆者的には、会場のアットホーム感からか、全体的に選手たちはリラックスしているような印象を受けた。
そして、やはりなんといっても、ベストパフォーマンスができた後の選手の笑顔は最高だ。選手の横で声掛けや支えたりするサポートや日頃指導してくださったコーチと喜び合う姿は、フリーダイビングならではのたまらなく嬉しい瞬間。大会初参加の選手も練習の記録を上回る自己ベストを多く更新していた様子。

競技前と競技後のテンションの差が極端すぎるのもフリーダイビングのおもしろいところ。

競技前

競技後

休憩時間を少し挟んで、次はダイナミック種目。ここで感じた本大会ならではの特徴は、他大会では選手が4人各コースに入り同時にスタートするのだが、選手が1人ずつスタートすること。選手としては緊張するかもしれないが、ジャッジ(※)やセーフティー(※)、観客も一人の選手を集中して見ることができる。まさに大会初参加の選手にとっては、安心して臨める大会だったのではないだろうか。

スタート前で集中する選手

スタート前で集中する選手

1人の選手をジャッジ2人体制で見守る

1人の選手をジャッジ2人体制で見守る

もうひとつ驚いたのは観客の多さ。筆者は今までに日本選手権を含む10回ほど大会に出場してきたのだが、その中でも一番多いのではないかと思うほど大会を応援しに来る方がたくさんいた。ダイナミック種目の最後の選手のときは観客も総立ちで応援。きっとこのとき、未来のフリーダイバーが何人か生まれたのではないだろうか。

ホワイトカード獲得後は、観客も一緒になって喜んだ

ホワイトカード獲得後は、観客も一緒になって喜んだ

2種目終わり、緊張感から解き放たれ安堵の様子

2種目終わり、緊張感から解き放たれ安堵の様子

すべての選手がブラックアウトなどすることなく、無事に競技が終了。会場全体が達成感に包まれている。残るは閉会式だ。

閉会式では、運営側からの総評と記録賞・賞品の授与が行われる。事前に、記録が上位の選手や抽選でえらばれた選手には協賛企業から賞品があるとは聞いていたが、なんと贅沢にもマスクやウェットスーツ、ロングフィン、ボートコート、ボート貸切ツアー券などがあるではないか。これには選手たちも大盛り上がり。

最初に発表されたのは、本大会で好記録を残した上位3名(大会未経験者にもチャンスがあるよう日本代表経験者を除く)。1位 長田聖也選手(127.175ポイント)、2位 彦坂未歩選手(115.3ポイント)、3位 加藤智江選手(114.325ポイント)。3名には「TRUEDIVE」のウェットスーツが贈られた。
1位を獲得した長田選手からは「沖縄県石垣島に住んでいるので、普段は海でフリーダイビングをしているのですが、大会には出たことがなくて、いつか出てみたいと思っていました。本大会主催者である川浪さんとも過去に石垣島でトレーニングをしたことがあって、そのときに本大会が大会未経験者でも出やすいと聞いて、出場してみようと思いました。正直とても緊張しました。でも今回の大会をきっかけにプールだけでなく海の大会にも出ようと思います!」と、今後のフリーダイビングのモチベーションに繋がる大会になったようだ。

1位 長田聖也選手

1位 長田聖也選手

2位 彦坂未歩選手

2位 彦坂未歩選手

3位 加藤智江選手

3位 加藤智江選手

3名を表彰し、まだ10点ほどの賞品が残っている。なんとここからは、誰でもチャンスがある抽選だ!名前が見えないよう裏にした記録賞をスタッフがランダムに引く。そこに書かれた名前が当選者となる。その結果、ロングフィンをまだ持っていない選手にHANAKOさんも愛用するロングフィンが当たったり、大会名が入った限定ボートコートが当たったりと、なんとも羨ましい!最後にはボート貸切ツアー券を提供した船長自ら前に出て、じゃんけん勝ち残り形式で当選者を決めるなど、1日の中でも最も湧いた時間となった。

大会名が入った限定ボートコート

HANAKOさんも愛用するロングフィン

大盛り上がりとなった、じゃんけん抽選

抽選で当選しなかった選手にも、ご当地ビールが2本ずつプレゼントされた。筆者もビールをゲット。

そして最後は、スタッフを代表してジャッジを務めた岡本美鈴さんより総括。
「選手の皆さん、スタッフの皆さんのお陰で、いいエネルギーが集まった1日だなと思いました。かなり前から大会主催者の川浪さんから、この大会の話を聞いており、今日までずっと見守らせていただいていましたが、こんなにいろんなスポンサーや地元の方々から応援をいただいて、盛り上がる大会がこの奄美大島で開催されたというのは、フリーダイビング業界にとっても奄美大島にとっても、すごく大きな歴史的な1日になったんじゃないかなと思います。これからも皆さんで安全に楽しんで、日本のフリーダイビングを盛り上げていってもらいたいと思います」と、称賛のお言葉をいただいた。


最後はみんなで記念撮影。大盛り上がりの中、「結の島フリーダイビングカップ」が幕を閉じた。本大会の運営に携わったのは「APNEA AMAMI」のチームメンバーの中から4名、ジャッジやセーフティーとして全国から駆けつけたスタッフは約15名。

運営を代表して川浪淳一さんは「昨年の11月に企画を初めて、資料作成やスタッフへの声かけなど準備を進めてきました。プール大会を主催するのが初めてだったので、わからないことも多く手探り状態でしたが、とても心強かったのは経験豊富なスタッフ陣いてくれたこと。多くの助けのおかげで、想像以上に選手やスタッフの笑顔と盛り上がりがすごかったと思います。楽しくアットホームな雰囲気で、初出場の人もリラックスして出られたのではないでしょうか。想像以上に素晴らしい大会ができたかなと思います」と、ほっとした様子で話した。

他にも「地元の人にフリーダイビングをやってもらいたいという想いが強くありました。いろいろ心配なことが多々ありましたが、助けていただきながら結果としては大成功だったと思います!」と同じく運営で選手として競技にも出場した彦坂未歩さんが話してくれた。

ここまで記事をご覧いただき、来年は私も出たい!と思っている方も少なからずいるのでは多いのではないでしょうか。来年の開催についてはまだ未定だが、何かしら継続してやっていきたいとのこと。第2回プール大会なのか、海洋大会なのか。さらに国内外のフリーダイバーや海に関わる人のワークショップ等を交えたトレーニングウィークなどの企画も考えているという。これからの奄美大島でのフリーダイビングに注目していきたい。

▶︎競技結果はこちら
▶︎大会の様子は「結の島フリーダイビングカップ」公式Instagramからもチェック


ちなみに筆者であるセリーナも出場させていただき、STAは5分47秒、DNFは132mでどちらも自己ベストを更新することができました!大会に出場させていただいたこと、応援していただいたこと、この場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。

※用語説明
STA(スタティック・アプネア):その場で何秒息止めができるか
DNF(ダイナミック・アプネア・ウィズアウトフィン):息を止めて、フィンを使わずに泳ぎ、プールを水平方向に何m泳げるか
DYNB(ダイナミック・アプネア・ウィズバイフィン):息を止めて、2枚のフィンを使って泳ぎ、プールを水平方向に何m泳げるか
DYN(ダイナミック・アプネア・ウィズフィン):息を止めて、1枚の大きなフィンを使って泳ぎ、プールを水平方向に何m泳げるか
サポート:選手がベストパフォーマンスを発揮できるよう寄り添ってきたバディ
セーフティー:水中で選手の安全管理をするダイバー
ジャッジ:競技ルールに基づいて違反がないか確認する審判員

主催:フリーダイビングチームAPNEA AMAMI
協賛:TRUDIVE JAPAN・UMMY・LAZYFISH・ダンデライオン・OCEANZ・結の島ナース・瀬戸内徳洲会病院・名瀬徳洲会病院・笠利病院・名瀬徳洲会病院

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
  • facebook
  • twitter
  • Instagram
  • youtube
FOLLOW