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北の海で研ぎ澄まされたプロの技~北海道潜り歩き・函館の海~閲覧無制限

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トド、クリオネ、佐藤長明

北海道潜り歩き、最後の海は函館の臼尻(うすじり)。


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南三陸町・志津川でダイビングサービスグラントスカルピンを営んでいた佐藤長明さんが、被災後に臼尻店としてオープンしたのがここ臼尻の海です。
※その経緯などは、函館の海の魅力と共に後ほど特集としてご紹介します。

砂地とゴロタの際に大集合するマヒトデ

砂地とゴロタの際に大集合するマヒトデ

潜ってみて最も印象に残ったのは、率直に言って、佐藤長明さん、その人でした。

これは、海の魅力を知って欲しい長明さんとしては本意ではないかもしれません。
また、ファンダイビングというより取材者として数多くのガイドさんと潜ってきている僕や越智カメラマンの特殊な視点かもしれませんが、潜った後の2人の会話の中心はそのガイディングで持ちきりでした。
北海道潜り歩きは、トドから始まり、クリオネと続き、最後は“佐藤長明”に出会ったという感じです。

佐藤長明さん

佐藤長明さん

まず、僕が見とれてしまったのが、水中で泳ぐ姿。
フィンキックのひとかきは、ただひとかき進む推進力のためだけにあり、ヒザを直角に曲げた水平姿勢は、最も抵抗少なく水中を進み、足先に空気を送り保温を高め、バランスを取るための姿勢といった感じで、動きに一切の無駄がありません。
ドライスーツでこれほど美しく動く人を他に知りません。

写真を撮るときは、水平姿勢のまま中層に浮かび、ファインダーをのぞいたままピタッと一切動きません

写真を撮るときは、水平姿勢のまま中層に浮かび、ファインダーをのぞいたままピタッと一切動きません

写真集『不思議可愛いダウンゴウオ』(河出書房新社)など、北の海を撮るカメラマンとしても知られる長明さん。
当然、撮る側に立った見せ方やアドバイスが的確で、撮影のサポートはもちろん、次から次へとリクエスト通りの被写体に案内され、一切無駄な時間を過ごすことなく撮影が進んでいきます。

初めて潜る人が見ても何も見つからない海で次々に被写体を見せるには、当然、そのフィールドを熟知していなくてはいけません。
さらに、ただ見せるだけでなく、年間通じて生物の生態を熟知した上で、理論的かつ熱を舌に乗せて語り、撮ることによって、海にドラマが生まれます。

もちろん、多くのガイドさんもそうであるのでしょうが、長明さんは、その究極に近いところにいるように感じました。

北の海で研ぎ澄まされる技

このプロの技の源泉を考えていたのですが、“北の海”という環境が大きいのではないでしょうか。
やはり、なんだかんだ言っても、南の海に比べて、ダイビングという意味では、北の海は厳しい環境です。

ダイビングの最大の魅力のひとつは、温かい海に軽装で潜る解放感。
透明度と水温が高く、トロピカルフィッシュがそこらじゅうにいる海では、誤解を恐れずに言うならば、海任せでも成り立つことさえあります。
しかし、そうしたわかりやすさのない海では、フィッシュウオッチングなどの価値を高める必要が出てくるわけですが、水温ひとケタの海はその究極と言えるのかもしれません。

エントリー前のシーン

エントリー前のシーン

長明さんの言葉で印象的だったのが、「時間との勝負です」。

冷たい海で「寒かった」という感想だけで終わらせたくないと考えた長明さんは、ダイビング中やその前後で温かい環境を整えることはもちろん、人によって水中で芯から冷えない潜水時間を心がけています。
芯からの冷えは温泉に入ったくらいでは取れず、そうなる前にエグジットするのが大事なんだそうです。

また、寒さを忘れるほど夢中になってもらうために、無駄な時間を省き、被写体をリクエスト通り見せ、あるいは撮らせ、快適なうちにエグジットしてもらおうと、常に限られた時間や環境の中で勝負している意識をこの言葉から受けます。

制限があるからこそ、ひとつひとつの事柄が無駄なく最適化され、装備、フィッシュウオッチング、撮影、潜水時間、身のこなしなどなど、どれをとっても、研ぎ澄まされた機能美が備わっていました。
そして、その結果、海の魅力が最大化されているように感じました。

水底で激しくヘッドバンキングするスガモ

元気なワカメが生い茂る臼尻の海

ただ、もちろん、それは誰もができることではありません。

もうひとつ、印象的だった言葉、というよりエピソードがあります。
南三陸で潜っていたとき、地元のイントラが「さあ、サクッと潜って、早いところおいしいご飯を食べにいきましょう」と言ったのを聞いて、長明さんは悔しかったそうです。

北の海は南の海を潜る前のステップ、近いから潜るだけという位置づけという意識があったそうですが、地元の人間が自分の海の魅力を感じ、信じないようでは伝えることもできるはずもないとの思いで、志津川を全国区にし、ダンゴウオやクチバシカジカなどのアイドルが世に知られ、名の知れたフォト派も集まる海となりました。

北の海という限られた環境で、“思い”を持って“考えて”潜ることで研ぎ澄まされたプロの技。
その技をもって北の海の魅力が最大化した海が志津川でしたが、残念ながら震災で現在もクローズのまま。
その技で、今は函館・臼尻の海を開拓しています。

広くてきれいな施設は、カメラ置きや電源など、フォト派が過ごしやすいよう、細部に渡って考えられている

広くてきれいな施設は、カメラ置きや電源など、フォト派が過ごしやすいよう、細部に渡って考えられている

美しい海藻の世界やむちゃくちゃ可愛いハナイトギンポのペアなど、臼尻らしい海の魅力もたくさんありましたが、マンタに逢いに石垣島に行くように、長明さんに逢いにぜひ函館へ行ってみてください。
特に写真を撮る方は、絶対に得るものがあると思います。

寄りそうハナイトギンポのペア

寄りそって包卵しているハナイトギンポのペア

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