スリランカで見た、イルカと漁師の「共存」関係とは?

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数百匹が群れとなって、捕食をしているハシナガイルカを見ることができる

数百匹が群れとなって、捕食をしているハシナガイルカを見ることができる

スリランカに2週間滞在して、クジラのリサーチを行なって来た。
数種類のイルカ、クジラに遭遇することができ、また継続してリサーチを行ないたいという思いを持った。

遭遇した鯨類は、ハシナガイルカ、マダライルカ、サラワクイルカ、ハナゴンドウ、ニタリクジラ、マッコウクジラ、シロナガスクジラなど。
数回に分けて、ここで遭遇した鯨類に関して紹介する。

まず、一番頻繁に遭遇したのが、ハシナガイルカ。
ほとんど毎日のようにこのハシナガイルカに遭遇したのは、いつも漁師たちの船と一緒に泳いでいて遠くからでも確認し易かったからだ。

漁師の船と一緒って事は、捕獲されてるの!?と思うかもしれないけど、そういうわけではない。
「イルカ」と言うと、日本ではある地域では捕獲の対象になったり、混獲されたり、「イルカが来ると魚が逃げてしまう」と漁業関係者から嫌がられたりするのだが、ここで見た光景には、「へ~、漁師とイルカの、こんな共存の仕方もあるんだ」と感心させられた。

この海域では、ハシナガイルカの群れは、いつもキハダマグロやカツオの群れと一緒になって集団で餌となる小魚の群れを追いかけて行動しているそうだ。
漁師たちは、まずこのハシナガイルカの群れを目印に海に出る。
イルカの群れを見つけると、テグスの糸を垂らして、イルカと一緒に泳ぐ、キハダマグロやカツオを狙う。

イルカの群れの前にあつまり、糸を垂らす漁師たちの船

イルカの群れの前にあつまり、糸を垂らす漁師たちの船

だから、ほとんどの場合、ハシナガイルカの群れの周囲を、数隻から20隻くらいの漁師の船が囲むように移動していて、時にキハダマグロやカツオを釣り上げている光景を見ることができる。
「共存」と言うよりは、漁師がイルカに助けられて漁をしている、そういう意味での「イルカ漁」なわけだ。

小さなキハダマグロを釣り上げた

小さなキハダマグロを釣り上げた

イルカと共存して漁を行なうスリランカの漁業スタイル

イルカと共存して漁を行なうスリランカの漁業スタイル

日本では、ある地域でイルカが漁の対象になっていることで、海外でたまに、嫌みな質問をされる事もある。
自分としては、イルカを漁の対象にすることを「正しい」、「正しく無い」の判断ができる立場では無いけど、やはりイルカは好きなので、自ら進んで食べたいとは思わない。

「ところで、スリランカではイルカを食べるの?」という質問に、「食べない。昔はある限られた地域で捕獲していた例もあるけど、教育して、イルカについた魚を捕まえる方が良いということを学んでからは、イルカを食べるということも無くなった」と、ガイドのメナカが説明してくれた。
ただ、これは事実かどうかの確認はしていない。

「それに今は観光資源でもあるしって事でしょ?」と訪ねると、「まあ、そういう事だね」と言って笑った。
イルカを捕獲するよりも、そうして観光客に見せる方が、一部の人には利益になる。
漁船が沢山ついているから、クジラが見せられなくても安全パイとして、キープしておける。

観光客を乗せたボートがハシナガイルカの群れと並走する

観光客を乗せたボートがハシナガイルカの群れと並走する

しかし、しばらく観察していて思ったのだけど、漁師たちは、このイルカの群れを探して、それについている魚を釣り上げるのに、毎日何十キロもの距離、ボートを走らせる。
使うガソリンも相当な量だ。

「1日に何匹くらいの魚が釣れるの?」と聞くと、スキッパーをしてくれていた、地元漁師のアリが、「多い時で、50キロから100キロくらいのカツオやキハダが釣れる。でも、釣れないときは、一匹も釣れないよ」という答え。
「それは、毎日、この漁をするために必要なガソリンを十分買える量なのかな?」と訪ねると、メナカは、苦笑いして、首を横に振った。

そして、ある日、ウォッチングに参加したイギリス人女性が、この光景を見て、「イルカが沢山のボートに追われて、怖がってるみたい」とこの漁の様子に嫌悪感を示した。

スリランカの海で見た、イルカと漁師の「共存」の形。
漁師たちがイルカに助けられて漁をしている光景に、最初は感心したのだけど、漁師たちはまともにお金を稼げず、観光客(といっても一部のだろうけど)からは、この共存の形ですら、「イルカが可哀想」に見えるという。

誰もが納得できるような、共存の理想の形はなかなか見つからないのかな。

2012年9月にスリランカ取材に訪れた時のウェブマガジンは、こちら(協力:エス・ティー・ワールド)。

スリランカウェブマガジン

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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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