パラオで新たに発見された、マダラハタ(カモフラージュグルーパー)の集団産卵現場リサーチ取材 序章

徐々にチャネルの入り口にマダラハタの数が増えてきた。しかし、砂地にいる個体は、産卵のための縄張りが確保できず、あぶれたオスだと考えられる

徐々にチャネルの入り口にマダラハタの数が増えてきた。しかし、砂地にいる個体は、産卵のための縄張りが確保できず、あぶれたオスだと考えられる

次々と発見される、パラオでの魚たちの集団産卵行動

近年、多くの魚たちの集団産卵行動が話題に上がるパラオ。

「ペリリューコーナー」のイレズミフエダイ、バラフエダイ、ロウニンアジ、カスミアジ、「ブルーコーナー」のツノダシ、ミヤコテングハギ、「シャークシティー」のバラフエダイ、「グラスランド」のカンムリブダイ、「SE-1」のオキフエダイなどなど。

そのほとんどが数千匹から、多いものでは、なんと!数十万匹ともいわれる数の魚たちが、特定の時期、特定の場所に集まって集団産卵を行うことが、この10年の間に次々と明らかにされてきた。

パラオの海のポテンシャルの高さにも驚かされるが、この海で潜るガイドたちのリサーチ力にも脱帽する。

ほんのひと握りの目撃情報や手がかりから、潮流、産卵前後の魚たちの行動などを検証し、長期間に渡りリサーチし、魚たちの新たな繁殖現場を探り当てる。
その執念たるや、まさに、海中の刑事たちのようだ。

日本でも、マクロの産卵に関してはリサーチが進んでいるものの、これだけの大物系の集団産卵行動に関してのリサーチが進んでいる海は、他ではあまり聞かない。

そこに行き着くまでの過程には、長時間に及ぶ、“無駄”な時間の蓄積がある。

いや、“無駄”というには語弊がある。
そうした時間の蓄積によって、他の海では見られないような驚くべきシーンを、ダイバーが確実かつ安全に観ることができるようにしてくれたわけだから。

新たなリサーチ対象
マダラハタ大産卵取材へ

そんな多くの集団産卵行動発見の先駆者の筆頭に上がるダイビングサービスの一つが〈デイドリームパラオ〉だ。

これまでにも、リサーチの段階から行動を共にさせてもらい、数々の感動的シーン発見の現場に立ち会わせてもらった。

デイドリームパラオのスタッフたち

デイドリームパラオのスタッフたち

今日でも、新たな繁殖行動のリサーチを先駆的に続けている姿勢には、個人的に大いに共感している。

そんなデイドリームパラオが今回リサーチを行っているのが、マダラハタの大産卵だ。

チャネルに集まり始めたマダラハタ

チャネルに集まり始めたマダラハタ

過去数年に渡るリサーチで、この大産卵は6月と7月の2ヶ月のある特定の日にしか行われないことがわかっていた。

しかし、大産卵を実際に確認できたのは、2016年の6月、今から1ヶ月前のことだった。
取材はほぼ1年前に確定していた。
大産卵が撮れるか、撮れないかは、直前6月のリサーチにかかっていたのだ。

「もし、大産卵シーンが見つけられなかったら、取材はキャンセル、あるいは、別のネタを用意する」ということで考えがまとまり、自分は、その6月の結果報告を、セブのフォトツアーとバハマのドルフィンクルーズの間の短い日本滞在中にSkypeで受けることになっていた。

結果は、「大産卵の現場を押さえました!」との朗報。
資料映像を送ってもらった。

そこには、夜の暗闇の中、サンゴや岩陰から、煙幕のような精子と卵子を撒き散らしながら急浮上するマダラハタのペア、そのペアをストーキングする数匹のオス。
そしてそのハタたちを捕食しようと激しく動き回るレモンシャークやカマストガリザメの姿が!

しかも、その捕食シーンが眼前で見られる可能性がある。

これは、見てみたい!!撮影してみたい!!

デイドリームのスタッフたちの努力で、大産卵のタイミング、場所を確定できたため、7月の取材が確定した。

今度は自分が、暗闇の中で繰り広げられる、この凄いシーンをどう表現するかが自分の中でのテーマとなった。

久しぶりのリサーチ取材に、不安と興奮が入り混じったワクワクした感情を抑えられずにいる。

(続く)

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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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