バショウカジキ、2週目100%遭遇率達成

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前日の午後から風向きが変わり、バショウカジキを探すには,難しいコンディションになった。2週目のゲスト最終日の9日も同じような風向きで、生暖かい風が強く吹いていた。

早朝、港で会ったアンソニーも、「今日は難しいな。でも出てみないと何が起こるかわからないよ。とにかく出ることだ。そして、探し続けることだよ」と言っていた。

フィッシャーマンたちは、長年の経験からすでにわかっているのだ。そして、条件が良かろうが、悪かろうが、現場に出続ける事がいかに大切かを知っている。だから「忍耐」も知っている。奇跡が起きることがあることも知っている。

いつも探している海域に今日も一番乗りで到着。予報では風は風速17ノットくらいまで上がっている。前日は10ノットくらい。うねりも昨日よりあるが、慣れてしまった自分は、あまり違いを感じなくなっている。
「もっと北だな」スキッパーのロヘリオがぼそっと言って、船をさらに北へと走らせる。荒波の中を、とにかく船を走らせ続ける。それでも、見つからない。

半ば諦めていた僕らは、もし探しても鳥山が見つからない場合は、グンカンドリたちが生息する、ナショナルパークになっている島を見学に行けるようにロヘリオに頼んでいた。

彼も、11時、12時まで探しても見つからなければ、島に行こうと言ってくれていた。が、その直後、突然前方に鳥山が立った。他に船はまったくいない。ロヘリオは無線で他の船に位置を連絡しながら、鳥山に向かって移動を続けた。

徐々に鳥山に近づく。体力温存のために、眠ていた皆を起こし、準備を促す。誰かが、「今日も見れちゃうんだ」と小さな感嘆の声を上げた。そう、もし今日見れたら、2週目のメンバーは、6日間で6日間、つまり100%の遭遇率を達成するわけだ。

メキシコのバショウカジキスイム(撮影:越智隆治)

エントリーの体勢を整えて待つ。鳥山はまだ激しく移動している。また誰かが「誰でもいいから、水中で一度は見てね」と言った。遭遇率100%。その記録が欲しい。きっと誰もがそう思っていたに違いない。

ロヘリオの「OK!」の合図とともに、皆が荒れた海に飛び込む。目の前をイワシの群れとバショウカジキの群れが通過して行った。これで100%達成。

しかし、移動速度は早い。自分はダッシュで群れを追いかけ続けた。海が荒れているせいか、イワシたちは、右往左往するだけでなく、上下にも逃げ道を求めて泳ぎ回っている。群れのサイズ的にはそろそろ食い尽くされてもおかしくない大きさだが、まだ移動を続けていて、止まって見れるという感じではない。

メキシコのバショウカジキスイム(撮影:越智隆治)

こうして、船に戻らずに、無理してでも追いかけ続ける事で気がついたことがある。誰かが側にいて、泳ぎ続けることで、バショウカジキたちが警戒して、群れが留まる前に食い尽くす事を抑制できるということだ。

少なくなったイワシの群れが、生きるために、僕らの側にいることに最後の望みを託した時に、群れは動かなくなる。そうなれば、泳力の無い人たちも、落ち着いて長い時間バショウカジキたちを間近で見ることができる。
誰かが側にいなければ、あっと言う間に食い尽くされてしまうことの方が多い。

しかし、同じ場所に留まって、動かなくなってからは、あまりイワシの群れに人がたかってしまうと、今度はほとんどの場合、バショウカジキが警戒して捕食に来る頻度が減ってしまう。

場合によっては、その残り少なくなったイワシたちを放棄して、泳ぎ去ってしまう事もある。
適度に距離を置いて観察している方が良い。それは間違いない。

この日も定かでは無いけど、「しゃくれ君」と個人的に名前をつけていた、吻が相当付け根から折れてしまっている個体と似た個体が気になっていた。しかし、こいつは、”武器”を失っているにも関わらず、他の個体よりも多く獲物を捕獲していた。きっと最初の頃はなかなか吻が無いことで苦労したに違いないその個体は、いつの間にか吻無しでも獲物を捕獲する術を体得したのだろうか。

メキシコのバショウカジキスイム(撮影:越智隆治)

しかし、この日のイワシの群れは相当小さくなっても、移動をやめず、かなり長く踏ん張って追跡を続けた自分も、一度力つきて船に戻った直後に、食い尽くされてしまった。

自分は、20分ほど一緒に泳いでいたけど、他の人たちが見れていたのは、多分5分程度だったかもしれない。
それでも、この週は、6日間トータルすると10時間以上見れていたので、誰も不満に思う人はいない。それよりも遭遇率100%を達成した事を喜んでいた。

その後、まったく鳥山は見つからず、引き上げた。
これで、個人的には、15日間で11日間の遭遇。イワシのフィッシュボールは、10日間遭遇。

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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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