水中写真家・戸村裕行のマニアックインドネシア開拓記(第1回)

全く異なる3つの表情を見せるコモドの海。クルーズ船で北から南へ

この記事は約7分で読めます。

東西に約5,000km、約18,000もの島々から形成される世界有数の島嶼国家であるインドネシア。世界の珊瑚の半分以上の種類が生息するというコーラルトライアングルに属し、多種多様な生態系を形成していることから「海のアマゾン」とも呼ばれている。そんなインドネシアの数え切れないほど多くの、素晴らしくもありマニアックなダイビングエリアをここで紹介する。第一回目はコモド諸島である。


“神々の島”バリを経由し世界自然遺産「コモド諸島」へ

日本から飛行機に乗り、インドネシア・デンパサール国際空港(バリ島)に降り立つ。空港建物の入口には、ガネーシャやバロンと呼ばれる神々が鎮座し、床にはバリの至る所でみられる供物「チャナン」が散乱する。「ドゥパ」と呼ばれる香の香りが鼻をつき、どこからともなく聞こえるガムランの音色と共に「ああ、バリに来た」ということを強く感じさせられる。

今回の目的地は「コモド諸島」…

コモドに行くには、ジャカルタなどを経由する方法もあるが、利便性と純粋にバリの空気に触れたいという思いから、デンパサールを経由していくことが多い。今までにインドネシアの様々な場所を訪れたが、バリの空気感、寛容性は多くの日本人を惹き寄せるファクターであり、私も例外なく惹き寄せられている一人だ。

日本からバリを結ぶ、ガルーダインドネシア航空の直行便に乗れば夕方には到着する。ホテルの近くを散歩しながら「ワルン」と呼ばれる地元の食堂でインドネシア料理に舌鼓を打ち、コモドへの国内線が飛ぶ翌朝までの間、翌日からのダイビングの為に空港近くのホテルで身を休めた。

バリ島から東に約500㎞、約2,500㎢に広がる、大小100程の島々が点在するコモド島を中心とした海域が「コモド諸島」と呼ばれるエリアだ。1991年に世界自然遺産に登録されたこともあり、その名が広く聞かれるようになった。中でもその名を広く知らしめることになったのは、体長3m、体重130kg以上にも達することもあるという「コモドドラゴン」の存在だろう。現在、コモド島やその隣のリンチャ島を中心に約6000頭ほどが確認されているそうだが、絶滅の恐れがあるとして国立公園内で厳重に保護されている。リンチャ島などではレンジャーと共にまわる観光コースなどが整備され、比較的簡単に出会うことが可能で、この写真もその際に撮影されたものだ。

コモドドラゴン

国立公園内で寝ているコモドドラゴン。コモドドラゴンにはレンジャーが側にいることが条件で、4〜5mほどの距離まで近づくことができる。

このコモド海域を潜る為には、バリ島から国内線に乗り拠点となる街「ラブハンバジョー」に向かう。私が初めてラブハンバジョーに来た時は、お世辞にも綺麗とは言えず、トイレはプレハブ小屋だった空港も、ここ数年で見違えるように近代化され、街も飛躍的に観光地として進化を遂げた。何もなかった街に、スターバックスカフェができるほどの賑わいで、今では世界各地からダイバーやバックパッカーなどが集まる場所として人気を博している。

ダイビングに特化して説明をするならば、船に寝泊りをしながらポイントを巡るダイビングクルーズや、朝に港を出て夕方に戻ってくるデイトリップといったスタイルが選べる。優雅に潜りたければ前者で、街でも遊びたいとなれば後者、両方経験しているが、どちらもお勧めしたい。

さあ、海にでよう。
コモドの海は3つの表情を持っている。

海中を埋め尽くす魚の群れと圧巻の捕食シーン

ラブハンバジョーから出港し、まず向かうのは、コモド島のノースエリア。このエリアは南に比べて温暖で、透明度が高い。はじめに潜るのはコモド島のほど近く、洋上に聳え立つ根「バトゥボロン」。水面から差し込む陽光が照らす浅瀬に広がる珊瑚たちと、それらに群がるハナダイの群れは言葉を失うほどに美しい。「何時間でもここにいたい」そんな気持ちにさせられるのだ。

コモド

光が降り注ぐ中でハナダイたちが舞い踊る景色は至福の瞬間。

コモド

バトゥボロンでの一枚。その光景はただただ自然の美を感じさせてくれる。

さらに忘れてならないのは、ノースエリアのビッグポイントのひとつ「キャステルロック」。このポイントでは、ギンガメアジやヒラニザ、タカサゴ、ウメイロ類といったお魚たちが海中を埋め尽くしている。タイミングよく捕食の時間に当たると、それら魚の群れにロウニンアジなどの大型回遊魚たちが突撃し、海中は逃げ惑う魚たちの水を切る轟音が響き渡り、美しいだけではない自然界の姿を感じることができる。

コモド

キャステルロックでは数多のお魚たちに囲まれる。魚影の濃さがお分かり頂けるだろう。

コモド

ロウニンアジたちの捕食が始まる。その瞬間、目の前で命が弾けていく。自然界の掟。

カラフルな環境に息づくマクロ生物たち

続いて、コモド島を南下し、セントラルエリアに到達する。このエリアは、北の温暖な海流と、南の冷たい深層水が入り混じるエリアだ。このエリアで紹介したいしたいのは「ピンクビーチ」と呼ばれるポイント。

ピンクビーチ

世界的に有名な陸上の「ピンクビーチ」。赤いサンゴが砕けたことで“ピンク”色の砂浜となる。

このポイントでは、「マクロ」の生物たちと出会ってほしい。ピンクビーチの海中には大きな壁があり、大小様々なウミウシたちや、ヨコエビの仲間たちが生活している。壁には可愛らしいホヤやカラフルなカイメンといった生物が付き、その子たちの日常に華を添える。もし、あなたがマクロ好きのフォト派ダイバーであれば、おそらくその壁から離れることが出来なくなるだろう。

コモド

ピンクビーチでの一枚。お花畑のように見える場所で、2匹が出会う。

コモド

ヨコエビたちのコロニー。サイズは1mmにも満たないマクロの世界。

コモド

デコレータークラブ。甲殻類や軟体生物といった面白い生物にも多く出会えるのもナイトダイビングの醍醐味。

鮮やかな海中景観と駆け巡るマンタの群れ

最後はサウスエリア。このエリアは前述の通り、南からの深層水の影響で北に比べて水温がとても低い。北が平均28度くらいとするならば、この南は24度を下回ることも多い。そのせいあってか、景観はノースエリアとは全く違うことに気が付く。特に「カーニバルロック」というポイントでは、カラフルなウミシダやソフトコーラルなどがところ狭しと岩肌を埋め尽くし、色彩溢れた光景へと変わる。敢えて海のイメージに色をつけるのであれば、北のイメージが青、セントラルは赤、南は緑や黄色といった感じだろうか。

コモド

カーニバルロックのイメージは「ヴィヴィッド」海の色も北と全然違うのが気付いてもらえるだろうか。色彩溢れたこの場所も同じ海の中なのだ。

小さなお魚を正面から切り撮った。このような光景も、彼らにとっては日常である。

ホヤの絨毯で食事中のウミウシを見つけた。よくよく見ると、ウミウシカクレエビが乗っていて、幸せを感じる瞬間だった。

また、マンタの集まる「マンタアレイ」は圧巻の一言。昨年潜った時には、四方八方から数え切れないほどのマンタが現れ、水路で流れに逆らうように列を成すマンタの姿は、一生忘れない光景となった。

この場所は水路で、マンタたちは流れに逆らって泳ぐ。写真では伝わりづらいが、ものすごい流れの中で撮影をしている。

デイトリップでは開催しているところは少ないが、クルーズではナイトダイビングなども可能で、珍しい甲殻類や軟体生物などにも出会うことができる。私自身、このコモドに魅せられて毎年ツアーを開催し、多くの友人たちと共に訪れている。

きっと、あなたにとって特別な時間を与えてくれるコモド諸島への旅。もし訪れることがあるならば、一生の思い出となることは私が保証したいと思う。

取材協力:ダイブドリームインドネシア

ダイブドリームインドネシアは唐沢百年実氏を中心とし、インドネシアの陸海を紹介するエキスパートのガイド集団。その活動は今回ご紹介したコモドだけに留まらず、近年有名となったラジャアンパットやバンダ海など多方面にわたる。写真はダイブドリームインドネシアが使うクルーズ船「HATIKU」号。コモドの海ではスピードボートによるデイトリップツアーも開催している。インドネシアの秘境の手配なども可能なので、気になる方はぜひチェックしてほしい。
そのダイブドリームインドネシアさんより、現在のインドネシアの新型コロナの状況を教えていただいた。新型コロナが収束したらまたこのコモドの地を訪れたいと思っている。

===インドネシア 新型コロナウィルス 感染状況===
■日本外務省10月21日現
海外安全情報/感染危険情報
レベル3:渡航は止めてください(渡航中止勧告)
■ラブハンバジョー:フローレス島
*コモド国立公園
感染者数はそれほど増えておらず、引き続き制限付きで観光の受け入れをしています。
ホテルやレストランは国内旅行者と現地在住者向けは営業をしており海外旅行者向けのところは閉まっている状況。国内ゲストは多くはありませんが、ジャカルタからのゲストが少しづつ増えているようです。
▼現在インドネシアの感染者数
*インドネシア感染情報(2020.09.29現)
→インドネシア感染者数278,722人(死亡10,473人)
*内ジャカルタ感染者数72,177人(死亡1,704人)
*内バリ感染者数8,639人(死亡263人)
▼参考:インドネシア保健省発表COVID-19感染者情報

Profile
戸村 裕行


1982年生まれ、埼玉県出身。
世界の海中を巡り、大型海洋生物からマクロ生物まで、さまざまな海中景観を撮影し続けている水中写真家。生物の躍動感や色彩を意識したその作品は、ウェブやダイビング誌、カメラ誌などで発表され、オリンパス株式会社の製品カタログなどにも採用されている。

また、ライフワークとして、太平洋戦争(大東亜戦争)を起因とする海底に眠る日本の艦船や航空機などの撮影を世界各地で続け、軍事専門誌「丸」にて5年にわたり連載、その成果として靖國神社・遊就館などで写真展を開催するなど活動は多岐にわたる。また、”歴史に触れるダイビング”をテーマに、レックダイビングの普及に勤めている。講師、講演多数。

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writer
PROFILE
1982年生まれ、埼玉県出身。
世界の海中を巡り、大型海洋生物からマクロ生物まで、さまざまな海中景観を撮影し続けている水中写真家。生物の躍動感や色彩を意識したその作品は、ウェブやダイビング誌、カメラ誌などで発表され、オリンパス株式会社の製品カタログなどにも採用されている。

また、ライフワークとして、太平洋戦争(大東亜戦争)を起因とする海底に眠る日本の艦船や航空機などの撮影を世界各地で続け、軍事専門誌「丸」にて5年にわたり連載、その成果として靖國神社・遊就館などで写真展を開催するなど活動は多岐にわたる。また、”歴史に触れるダイビング”をテーマに、レックダイビングの普及に勤めている。講師、講演多数。
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