水中写真家・戸村裕行のマニアックインドネシア開拓記(第2回)

バラクーダの塊、ニタリにジンベエ…大物ひしめく秘境マラトゥア

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インドネシア「カリマンタン島」。この「カリマンタン」という言葉はインドネシア語で、日本では英語呼びの「ボルネオ島」と言った方が馴染みがあるかもしれない。日本の国土の約2倍ほどの面積を誇るこの島には、インドネシア、マレーシア、ブルネイと、3つの国の領土が存在しており、広大な緑地や鉱物資源などにも恵まれ、オラウータンやスマトラサイといった野生生物が生息することでも有名。こののを誇世界地図を想像して「フィリピンとタイやシンガポールの中間にある大きな島」なんていう伝え方をすると、ピンと来る方も多いのではないだろうか。

このカリマンタン島の東に位置するのが今回の主役「マラトゥア島」である。

マラトゥア

カラフルな屋根が特徴的なマラトゥア島の村。小さな島だからこそ素のインドネシアを感じることのできる場所だ。

マラトゥアは、31の島から構成されるデラワン諸島の一つの島で、デラワン島、サンガラキ島、カカバン島といった島々が有名だ。各々特徴があり、海外好きなダイバーであれば、恐らく聞いたことくらいはあるだろう。もし、知らないということであれば「マニアックインドネシア」というこの連載のタイトルの面目躍如といったところである。

首都ジャカルタの都会の空気を抜けてマラトゥアへ

マラトゥアに行くにはまず、日本からインドネシアの首都ジャカルタに向かう。前回お話しをしたコモド諸島へのルートは、デンパサール(バリ)を経由してのものだったが、インドネシアの島々を巡る際はジャカルタを経由することが多くなる。ガルーダインドネシア航空の運航するジャカルタ直行便に搭乗すると、スーツを着用し、静かに新聞に目を通すビジネス渡航であろう乗客が多く目に付き、ファミリーやカップル、シニア層や団体などが旅行目的でふわっとした雰囲気のバリ路線とは飛行機内の空気が全く違うのも面白い。

バリなどとは違い空港も近代的な作りになっているジャカルタスカルノハッタ国際空港

インドネシアとの時差は2時間。午前中に日本を出発し、約8時間の空の旅は思いの外あっという間で、到着したら夕暮れ時である。バリであれば、バリ・ヒンドゥーの影響もあり、ガネーシャの石像や、ガムランといった音楽、ドゥパと呼ばれる香の匂いが空港に到着すると迎えてくれるが、ジャカルタ・スカルノハッタ国際空港で迎えてくれるのは、吉野家・丸亀製麺・ペッパーランチといった日本でもお馴染みの飲食店というのは、嘘のような本当の話。翌日は日の出前の早朝便に乗ることになっているのだが、ここからの長旅に備え、空港近くのホテルで束の間の休息を取ることにした。

イスラム教の多いインドネシアは食事にも様々なルールがあり、それらをクリアして得られるハラル認証を受けた丸亀製麺はインドネシアで大変人気があるそうだ。

翌朝、ジャカルタから国内線で東カリマンタンのバリクパパンへと向かう。このバリクパパンは、現在は地方都市の一つであるが、2024年に政府機関が移転され、インドネシアの新首都として機能する予定の都市だ。マラトゥアに行く為にはこのバリクパパンから2つの方法に分かれることになる。一つは新設されたマラトゥア空港に飛ぶチャーター便。もう一つはよりマラトゥアに近いカリマンタン島のベラウ空港に移動し、そこからボートで3時間半かけていく方法である。

時間もかかり、決してボートも乗り心地の良いものではないことを考えると、圧倒的に楽なのは言わずもがな前者であるが、もし後者を選ぶならば、ボートには子供を連れた現地のローカルなども乗って来るので、乗合のような形となり、自分たちが今からどれだけの秘境に向かっているのかという高揚感に包まれる。より旅感を味わいたい、移動が苦にならないタイプなのであればそちらも良いのではないだろうか。

ボートには島に向かう家族なども乗る為にローカル感が強く、より旅を感じさせてくれる。

さて、そろそろマラトゥアの話をしよう。

マラトゥア名物、バラクーダの“塊”

現在、マラトゥア島にはいくつかのリゾートやダイビングショップが存在する。私がお世話になったのは「マラトゥアパラダイスリゾート」と「ナブコアイランドリゾート」。正直、この2つの好みはハッキリと分かれると感じている。スタッフのフレンドリーさや、ファミリー的に色々と世話を焼いてくれるような、“インドネシアっぽさ”をより感じたいのであればパラダイス。隠れ家的要素抜群で欧米的なホスピタリティを感じたいなら孤島のリゾートであるナブコといった具合だろうか。

前述の村にも徒歩で行ける距離にある「マラトゥアパラダイスリゾート」

海に囲まれた孤島に建てられた「ナブコアイランドリゾート」

このマラトゥアを語る上で、避けて通れない名物が“バラクーダの塊”。ここまで大きなバラクーダの群れはないと言い切れるほど、群れは塊となってダイバーの目の前に現れる。マラトゥアを訪れるダイバーの多くは、このバラクーダを狙ってやって来るのだ。

左に見えるダイバーの泡に注目してほしい。激流の中やってきたバラクーダたち。

このお魚の群れと出会えるポイントの目と鼻の先にある孤島にリゾートを作ったのが「ナブコ」なのだが、ナブコではこのポイントを「ビックフィッシュカントリー」と呼んでいる。しかし、全く同じポイントでも「パラダイス」の方では「チャネル」という呼び方をしている。それを知らずに後者で「ビックフィッシュカントリー」という名前を使ったら、ガイドにちょっと嫌な顔をされた。ここに、強烈なライバル意識を勝手に見たのは言うまでもない。

まさに壁となって迫り来る”バラクーダリバー”その質量は他のエリアで見るバラクーダの群れとは比較にならない。

このバラクーダの群れはいつでも見られるというわけではなく、集まりやすい上げ潮のタイミングを狙いエントリーすることになる。ドロップオフになっているポイントは、それなりの激流を伴うのでカレントフックは必須だ。カレントフックに身を任せ激流を漂っていると、目の前をホワイトチップシャークが飛び交い、ギンガメアジの群れが湧き出るように海の底から上がって来る。

強烈な流れの中、あたりを見回すと、遠くから迫る影…いや、壁という表現が分かりやすいだろうか。迫り来る数千はいるだろうバラクーダの集合体との邂逅。目の前に広がる私たち人間にとって非現実のような光景は、無限に繰り返されている自然の姿。出会った者すべてに感動と幸福を与えてくれることは間違いない。

バラクーダが塊となった。ボトムに見えるのがダイバーであり、その大きさをお分かりいただけるだろうか。

ウミガメの産卵地、サンガラキ島

さて、前述のサンガラキ島、カカバン島の話を少ししたいと思う。多種多様なポイントがある中で、マラトゥア島からの遠征ポイントとして位置付けられたこの2つの島。サンガラキ島で有名なのはブラックなども含めたマンタたち。サンガラキにあるリゾートを拠点に他のエリアにアプローチをすることも可能なようだ。

サンガラキで出会ったマンタ。ブラックマンタなども現れた。

また、このサンガラキはウミガメの産卵地としても有名。保護施設があり、そこでは産まれたばかりの小亀たちが愛くるしい姿を見せてくれる。

サンガラキの亀の保護施設で出会った生まれたばかりの小亀のキュートさには胸を撃ち抜かれた。

このエリアはカメの産卵地として知られており、どこのポイントでも高確率でカメに出会う。

ニタリやジンベエ、贅沢に大物狙いができるカカバン島

あまり知られていないようだが、このエリアには、高確率でニタリ、ハンマーヘッドシャークやジンベエザメに出会えるポイントまでもが存在し、トリップ中に「ジンベエ狙う?」「ニタリ狙う?」「ハンマー狙う?」なんて贅沢すぎる“究極の選択”をしなければならないことを追記しておこう。イルカなども出没するのでドルフィンスイムなどもすることがある。とにかくもの凄い海なのである。

高確率で出会ったニタリ。リゾートによって観察の方法は異なるので注意が必要だがいずれも出会うことができた。

また、カカバン島には「ジェリーフィッシュレイク」がある。島の中にある汽水湖をシュノーケリングすることで出会える無数のクラゲたちの神秘的な姿は、海とはまた違った景色となりお勧めである。

ジェリーフィッシュレイクで撮影した一枚。ジェリーフィッシュレイクはパラオも有名だが、カカバンでは浅瀬に緑が生い茂り、このような世界が広がっていた。

稀に、色々な場所でダイビングをしたいからと、一度その場所に行ったら満足してしまうダイバーと出会うことがある。しかし、これはどこのエリアでも言える話ではあるのだが、特にこのマラトゥアは、一度だけの訪問で全てを分かり切ることは絶対に不可能だ。

もし、あなたがこのマラトゥアを訪れることがあるならば、潜れば潜るほど訪れるミラクルな出会いに興奮と尽きることのない感動を味わうだろう。一度この地で潜ったら、もう他のエリアでは満足できなくなってしまうかもしれない。

取材協力

水上ヴィラや、ビーチシャレーなど様々なスタイルで宿泊可能なマラトゥアパラダイスリゾート。バディがいればリゾートの周りをセルフでダイビングすることも可能。今年いっぱいは新型コロナの影響でクローズとのことだが、来年の頭からまた再開を予定しているそう。ちょっぴり日本語が話せるガイドさんがいたりするのも嬉しい。

撮影協力:
マラトゥアパラダイスリゾート
旅行会社:エス・ティー・ワールド

世界各地に展開するドイツの「エクストラダイバーズ」が率いるナブコアイランドリゾート。代表的なポイント「ビックフィッシュカントリー」にほど近い小さな島を丸ごとリゾートとして利用しており、隠れ家的な雰囲気も持ち合わせている。ディナーなどはコースで出てきたりと欧米的なサービスで迎えてくれるスペシャルなリゾート。

撮影協力:
ナブコアイランドリゾート
旅行会社:ユーツアー

===(最新)インドネシア 新型コロナウィルス 感染状況===
■インドネシア:日本外務省11月3日現/海外安全情報/感染危険情報
レベル3:渡航は止めてください(渡航中止勧告)
■インドネシア:入国
引き続き(一部例外を除き)全ての外国人(日本人も含む)の入国及び航空便等
乗り継ぎ(トランジット)も禁止されております。
▼現在インドネシアの感染者数
*インドネシア感染情報(2020.11.03現)
→インドネシア感染者数:415,402人(死亡14,044人)
▼参考:インドネシア保健省発表COVID-19感染者情報

Profile
戸村 裕行


1982年生まれ、埼玉県出身。
世界の海中を巡り、大型海洋生物からマクロ生物まで、さまざまな海中景観を撮影し続けている水中写真家。生物の躍動感や色彩を意識したその作品は、ウェブやダイビング誌、カメラ誌などで発表され、オリンパス株式会社の製品カタログなどにも採用されている。

また、ライフワークとして、太平洋戦争(大東亜戦争)を起因とする海底に眠る日本の艦船や航空機などの撮影を世界各地で続け、軍事専門誌「丸」にて5年にわたり連載、その成果として靖國神社・遊就館などで写真展を開催するなど活動は多岐にわたる。また、”歴史に触れるダイビング”をテーマに、レックダイビングの普及に勤めている。講師、講演多数。

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  1. 全く異なる3つの表情を見せるコモドの海。クルーズ船で北から南へ
  2. バラクーダの塊、ニタリにジンベエ…大物ひしめく秘境マラトゥア
writer
PROFILE
1982年生まれ、埼玉県出身。
世界の海中を巡り、大型海洋生物からマクロ生物まで、さまざまな海中景観を撮影し続けている水中写真家。生物の躍動感や色彩を意識したその作品は、ウェブやダイビング誌、カメラ誌などで発表され、オリンパス株式会社の製品カタログなどにも採用されている。

また、ライフワークとして、太平洋戦争(大東亜戦争)を起因とする海底に眠る日本の艦船や航空機などの撮影を世界各地で続け、軍事専門誌「丸」にて5年にわたり連載、その成果として靖國神社・遊就館などで写真展を開催するなど活動は多岐にわたる。また、”歴史に触れるダイビング”をテーマに、レックダイビングの普及に勤めている。講師、講演多数。
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