ウミウシ連載第2回 「ウミウシの見つけ方」虎の巻
2021年の干支である丑(ウシ)にちなんで、ウミウシにフォーカスしたコンテンツを連載形式でお届けしているウミウシシリーズ。第一回目の記事では、名前の由来や生物学的分類、生態など、“ウミウシのきほんのき”について紹介したが、第二回目となる今回は、ウミウシ好きダイバーなら絶対知りたい「ウミウシの見つけ方」についてお届け。「沖縄のウミウシ」や「ウミウシガイドブック・慶良間諸島の海から」の著者としてもお馴染みの‟小野にぃにぃ”こと、小野篤司さんを講師として迎え、本格的な虎の巻となった本記事、お見逃しなく!
‟小野にぃにぃ”こと小野篤司さんプロフィール
小野篤司(おのあつし)
1956年福島県いわき市生まれ。上智大学卒。伊豆海洋公園・株式会社益田海洋プロダクションを経て座間味島でダイビングガイド業を営む。現在は引退し、悠々自適の隠居生活。図鑑、雑誌への写真提供多数。趣味は家庭菜園と野鳥撮影、ポケモンGO。
著書:「ウミウシガイドブック・慶良間諸島の海から」(阪急コミュニケーションズ)、「ウミウシコレクション」(阪急コミュニケーションズ)、「沖縄のウミウシ」(株式会社ラトルズ)、「新版ウミウシ」誠文堂新光社 (共著)
ダイバーとして10年間で600種類ものウミウシを写真に収めた小野にぃにぃの著書、共著はこちら▼
小野にぃにぃ流「ウミウシの見つけ方」
皆さまご存じのとおり、ウミウシにはシーズナリティがあるので、ウミウシを探す前には現地のショップにいつ見られるのか尋ねるのを大前提としたうえで、小野にぃにぃに見つけ方を伺ってみたところ…。
「ウミウシを見つける基本は、ズバリ、ウミウシの餌場を探すこと!」
ということで、慶良間諸島 座間味島にてダイビングショップを営みながら、ダイバーとしてウミウシ探しに明け暮れた小野にぃにぃ直伝、ウミウシ探しの虎の巻はこちらの全5巻。ウミウシの餌場ごとに巻数を分けてみた。
【目次】
虎の巻1:通称‟ガレバ”、サンゴ礁域を探せ!
虎の巻2:砂地を探せ!
虎の巻3:岩場を探せ!
虎の巻4:水面を探せ!
虎の巻5:やみくもに探せ!
番外編:中層を探せ!
虎の巻1:通称‟ガレバ‟ 、サンゴ礁域を探せ!
小野にぃにぃいわく、多様性に富んだサンゴ礁の周辺域はウミウシの餌も多様性に富みやすいという。特に、狭いエリアにいろいろな種類のサンゴが密集しているところが狙い目で、きれいなサンゴ群落の周辺の、死んだサンゴ塊やサンゴ礫の集まったところ (通称、ガレバ)を中心に探索すれば、ウミウシに出会える確率は圧倒的に高くなるそう。
なぜなら、死んだサンゴの表面にはウミウシの餌となる、刺胞動物やコケムシ、海綿が付着しているからだ。ウミウシはそれら餌の臭いを触角をつかってかぎ分け、そこに集まってくる。
ただし、ウミウシをたくさん見つけたいからといって、たとえ死んだサンゴ塊であっても無闇に触るのはNG。怪我をしてしまったり、生き物の住処を荒らしてしまったりする可能性がある。自然生物には触れず、海中景観はそのままに、目視で探すようにしよう。
虎の巻2:砂地を探せ!
一見、何もないようにみえる砂地にも、ウミウシの餌場があるので探索ポイントとして欠かせない。砂地のウミウシたちが何を食べているのかというと、肉食系ウミウシはウミウシを、草食系ウミウシは海草(うみくさ)を食しているのだという。
よってウミウシを探す際には、中性浮力を駆使し、なるべく砂地と体を平行にしながら、砂地の砂もしくは海草を凝視しよう。間違えて砂でも巻き上げようものなら、あたり一面、風に吹かれた砂漠のような状態と化し、ウミウシどころではなくなってしまう。スキルに自身がない方は、トレーニングを積む必要があるかもしれない。
上記を踏まえたうえで、まずは肉食系のウミウシがいる砂地を見つけるコツだが、一目見ただけでは判断がつきにくいという。言葉にするなら、泥質混じりの、波浪の影響を受けにくい砂地が狙い目。
泥質の混ざった砂は有機物が混入しやすく、有機物を食べる微小な動物が生息している。この小さな動物たちを餌とする肉食系のウミウシが集まってくるというわけだ。
また、ウミウシも生き物なので、穏やかに暮らしたいのだろう。台風や時化の後に形状がガラッと変わるような砂地には居つかないという。砂地の上にいる肉食系ウミウシを見つけるなら、少し泥っぽい砂でできた、波浪の影響を受けにくい砂地を探すのがよさそうだ。
一方で草食系のウミウシを見つけるコツは、海草が生えている場所を見つけること、これに尽きる。これらウミウシたちは、海草の汁をジュース代わりに飲むのだという。
汁から葉緑体を体内に取り込み、光合成をして生活しているので、生活圏は海草周り。よって餌となる海草およびその周辺を探すと見つかりやすい。
これら草食系のウミウシたちは比較的小さく、大きくても10cm以下、5mm程度のものが多いので、ルーペを持って探せば発見率は上がるだろう。老眼が始まっている方は、マスク外側のバンド部分に老眼鏡のレンズ部分をゴムで引っ掛けるようにして装着すれば最強の目をもつウミウシハンターになれる。
有機物を食べるウミウシたちと同様、海草も台風や海流の影響を受けやすい砂地を忌避する傾向があり、比較的環境が安定している砂地に生息しているという。
砂地のウミウシたちを見つけるには、確かなダイビングスキルと砂地の環境を判断できる力がものをいう…と考えるとちょっとハードルが高そうだが、小野にぃにぃによると、慣れてくれば普通の遊泳速度で見つけられるようになるという。何ごとも慣れなのかもしれない。
虎の巻3:岩場を探せ!
ウミウシの餌となるコケムシ類や海綿が付着する岩場は、ガレバと同様に格好の探索ポイント。特に外洋に面し、横幅が数メートルの亀裂状になった岩場の壁が狙い目。壁の高さもある程度あるとなおよい。
このような環境をおすすめするのは、潮通しが良いわりに波浪の影響を受けにくいため、ウミウシの餌が育ちやすい環境だから。
最適な岩場を見分ける他の手段としては、‟餌が一定数存在するという指標になるウミウシを見つける”というのがある。
たとえば、海綿を食べる「ミゾレウミウシ」が岩場にいれば、同じ餌を食べる他のウミウシがいる可能性がある、といった具合だ。
ダイビング前に、コケムシや海綿を食べるウミウシを調べておき、ダイビング中にも常に壁やガレバを探し、その場所では神経を集中することが基本になる。
虎の巻4:水面を探せ!
ウミウシはどこかに着底して食事をとるものばかりではない。食事のために水面に浮かんでいるウミウシもいるので、水面を探すのもお忘れなく。
水面で食事をするウミウシに、ダイバーにポピュラーな「アオミノウミウシ」がいる。彼らの餌となるカツオノエボシやギンカクラゲが水面にいるため、同じような生活形態をとるのだ。彼らにとっての海底は水面であるため、仰向けになっている。
ご存じのとおり、これらクラゲ類には猛毒の刺胞があるが、アオミノウミウシには効果なし。むしろ、身の危険を感じたときの武器として体内に取り込んで保持するため、水面でアオミノウミウシを見つけても絶対に触れてはならない。
とはいえ、この食事シーンに遭遇することはなかなか難しいため、水面を探す方法はウミウシ探しの奥の手といったところだろうか。サンゴや海底、岩壁だけではなく、たまには空を見上げてみるのもいいかもしれない。
虎の巻5:やみくもに探せ!
ウミウシの餌場や、ウミウシがいそうなエリアを考慮せず、やみくもに探すのも効果的だという。身も蓋もないように聞こえるかもしれないが、レア種ほど神出鬼没なので、「まさかこんなところに!?」というような思いもよらない場所に現れるのだとか。
自分の勘に頼り、探してみるのも案外当たるのかもしれない。そんな一抹の可能性にかけたウミウシ探しもロマンなり。
番外編:中層を探せ!
泳いで移動するウミウシも複数存在するので、中層を探してみるのも。ただし、中層を泳ぐのは単なる移動手段であって、餌を求めているわけではないので、本記事では番外編としてご紹介。
餌を求めて泳がないのだとしたら、一体何の為に?
小野にぃにぃによると、自分の身を守るためなのではないかとのこと。
外敵に襲われるなどのリスクが迫った際は、フヨフヨとその場を離れて移動するのだ。
中層を泳いで移動するウミウシには、カマキリみたいな三角形の顔が特徴的な「アングイダヒオドシユビウミウシ」やまるで風船のようにぷっくらとした肢体がかわいい「フウセンウミウシ」、透明の体が美しい「ササノハウミウシ」などがいる。
▼【番外編】泳がず転がるフウセンウミウシ
肝心なのは、これらの中層を泳いでいるウミウシたちの見つけ方やコツなのだが、小野にぃにぃによれば、ズバリ、、、
運!!
それを言っちゃあ、おしまいよということで、何かヒントがあるとすれば、目の動かし方かもしれない。中層のウミウシを探索するときは、一か所に焦点を当ててジッと見つめるのではなく、視野を広くして広範囲を見渡すように探すとよいのだとか。
また、お世話になる現地ショップに、中層を泳ぐウミウシをあらかじめ教えてもらい、図鑑などでその容姿を確認しておき、頭に思い描きながら探すと発見率もあがるかも。
以上、小野にぃにぃ流「ウミウシの見つけ方」虎の巻1~5はこれにて終了。
今回は、すぐに実践できるウミウシの見つけ方として「餌場を探す」ことにしぼって教えていただいたわけなので、次のダイビングの機会にでもぜひ試してみてほしい。
余談だが、小野にぃにぃはうねりや海流が強い時にはウミウシ探索に行かないらしい。理由はウミウシたちが岩場の奥や、砂の中に隠れてしまって見つからないから。ウミウシたちも食事は穏やかに食べたいようだ。晴耕雨読で暮らすウミウシたちに合わせるようにしてダイバー側も行動するのが最大の虎の巻なのかもしれない。