“ダイコンおじさん” 今村昭彦氏が伝授 減圧理論を知って、減圧症を予防(第2回)

【連載vol.2】ダイブコンピュータを過信すると、減圧症の危険が高くなる⁉

減圧症の三大要因とは

どのような潜り方をすると減圧症にかかりやすくなるのか? ここで「減圧症罹患者115名のダイブプロファイル傾向」(図5)を見てみよう。

■図5
図5

やはり窒素が蓄積するような「浅場の長い箱型潜水(窒素蓄積)」や、「浮上速度違反」は、減圧症にかかるリスクの高いダイビングスタイルであることがわかる。

そしてこのデータやこれまで分析してきた事例から、私は「減圧症に罹患する三大要因」は次の3つだと考えている。

■図6 減圧症三大要因
図6 減圧症三大要因

浮上時点に体内窒素圧が高くなるダイビングとは、平均水深が15m以上かつ潜水時間が45分以上のダイビングをしたこと(※どちらかではなく、どちらもした)

潜り方によって、浮上時点の体内窒素圧には大きな違いが現れる。ここで3つの潜水パターンを比較して、潜り方によってどれくらい浮上時点の体内窒素圧に違いが出るかを見てみよう。

■図7 安全な模範(フォワード)潜水パターン
図7 安全な模範(フォワード)潜水パターン

エントリーして5分で水深30mへ行き、その後徐々に浮上しながら、深度を浅くしていくフォワードダイビング。窒素飽和率の最大値はハーフタイム45分組織の74%に収まっている。(100%が減圧潜水ライン)

■図8 危険なリバース潜水パターン
図8 危険なリバース潜水パターン

エントリーして15分まで水深10m、その後水深を深くして、30分~35分に水深30m地点へ行き、浮上。水深30m時点の途中から減圧潜水となっている。窒素飽和率は、4つのコンパートメントで75%を超えている。窒素飽和率の最大値はハーフタイム15分組織と30分組織の88%。

■図9 非常に危険な無減圧潜水パターン
図9 非常に危険な無減圧潜水パターン

最大水深は25mだが、15~40分まで水深16mに留まり、その後浮上。このように水深15m近い浅場で無減圧潜水時間をギリギリまで引っ張ると、浮上時の体内窒素圧も浮上間際で最大値となり、非常に危険だ。窒素飽和率の最大値はハーフタイム45分組織の93%。

「減圧潜水よりリスクが高い無減圧潜水がある」ことを覚えておこう。

■図10 3つの潜水パターンを比較
図10 3つの潜水パターンを比較

この3つの潜水パターンを比較してみると、ダイビングの後半に深場に行く「リバースダイビング」や、無減圧潜水でも「平均水深が深い長時間の潜水パターン」が、減圧症にかかるリスクが高いことがわかる。

減圧症を防ぐためには、無減圧潜水時間を見ているだけでは駄目。どんな体内窒素状態になっているかを、頭の中で描けるようになることが大切だ。

またさらに危険な状態になりやすいのが「浅場の長時間箱型潜水」だ。前述したように、水中写真や動画を撮影するダイバーは、被写体と向き合い長時間同じ水深に留まることが多いので、注意が必要だ。

■図11 更に危険な状態になりやすい浅場の長時間箱型潜水
図11 更に危険な状態になりやすい浅場の長時間箱型潜水
図11 更に危険な状態になりやすい浅場の長時間箱型潜水

このように水深15m近い浅場で無減圧潜水時間ギリギリまで引っ張るダイビングを行うと、浮上時の体内窒素圧も浮上間際で最大値となり、非常に危険な状態となる。窒素飽和率の最大値はハーフタイム45分組織の96%。

無減圧潜水時間と体内窒素圧に安全マージンを

減圧症を防ぐには、ダイブコンピュータのハーフタイム40~60分といった、「吸排出のやや遅いコンパートメント」の体内窒素圧を浮上時点でいかに抑えるかが重要。

また水深15~19mの長い箱型潜水を繰り返したようなケースは、すべてのコンパートメントに窒素を満遍なく溜め込んでしまい、Ⅰ型、Ⅱ型、どちらの減圧症も発症しやすくなると考えられる。

深い水深では無減圧潜水時間を目安に安全マージンを取り、浅い水深では体内窒素圧にマージンを取るという考え方が必要だ。

次回は減圧症罹患事例の解説、減圧症を防ぐためのリスクマネジメントなどについて紹介する。

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PROFILE
某電気系メーカーから、TUSAブランドでお馴染みの株式会社タバタに転職してからダイビングを始めた。友人や知人が相次いで減圧症に罹患して苦しむ様子を目の当たりにして、ダイブコンピュータと減圧症の相関関係を独自の方法で調査・研究し始める。TUSAホームページ上に著述した「減圧症の予防法を知ろう!」が評価され、日本高気圧環境・潜水医学会の「小田原セミナー」や日本水中科学協会の「マンスリーセミナー」など、講演を多数行う。12本のバーグラフで体内窒素量を表示するIQ-850ダイブコンピュータの基本機能や、ソーラー充電式ダイブコンピュータIQ1203. 1204のM値警告機能を考案する等、独自の安全機能を搭載した。現在は株式会社タバタを退職して講演活動などを行っている。夢はフルドットを活かしたより安全なダイブコンピュータを開発すること。
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