“ダイコンおじさん” 今村昭彦氏が伝授 減圧理論を知って、減圧症を予防(第3回)

【連載vol.3】ダイブコンピュータのデータを読み解き、効果的な減圧症予防法を知ろう

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ダイバーを減圧症から守る器材であるはずのダイブコンピュータ。しかしダイブコンピュータがあるからと安心してしまい、そのデータが示す意味を正確に理解せずに潜っていると、減圧症にかかる危険があることをご存知だろうか?長年ダイブコンピュータの開発に携わってきた“ダイコンおじさん”こと今村昭彦氏が3回にわたり、減圧症罹患者のダイブプロファイル傾向とダイブコンピュータが示す無減圧潜水時間の危険性、そして減圧症の予防法を、基礎的な減圧理論を踏まえて解説していく。

ダイブコンピュータ

減圧症予防に有効なナイトロックス

減圧症の予防に有効なのはナイトロックスを空気設定で使うこと、つまりナイトロックスと空気の差をそのまま生かすことである。ただし、ナイトロックスを使用しても、それをナイトロックスの酸素設定でギリギリまで使ってしまうとまったく効果は得られない。(※浮上時に減圧スピードが上がる程度)

■図1

そこでおすすめするのが、ダイブコンピュータは空気設定のままにして、ナイトロックスの酸素濃度は変えずに潜ることである。空気設定のままで潜ると、安全性は飛躍的に向上する。

たとえば、酸素濃度32%のナイトロックスであれば、酸素中毒の心配はほぼないので空気設定で潜ると自動的に安全マージン(余裕)が得られる。酸素分圧は概ね1.4程度で危険性はない。つまり、レジャーダイビングの最大深度40m以内で使用する分には問題はないということになる。

■図2

図2の浮上時点の体内窒素圧のグラフを見ていただきたい。空気設定で潜るとM値が100%を超えて減圧停止違反になるダイビングが、酸素濃度32%のナイトロックスで潜った場合はどうなるか?

私が考える危険値85%以下(前回説明した浮上時点で潜水時間45分以上かつ平均水深15m以上のダイビングに相当)の最大値が77%でおさまっている。つまりこれが逆説的に「ナイトロックスを空気設定で使う効果」になるわけだ。

なおガイド(インストラクター)は、できれば同じ機種のダイブコンピュータを2個持ち、一つは空気設定、もう一つはナイトロックスの酸素設定で潜ることをおすすめする。ガイドはナイトロックスを連続使用すると、酸素の累積が起こるからだ。

現行ダイブコンピュータ 3つの問題点

1回目、2回目の記事内でもお伝えしてきたことだが、現行のダイブコンピュータには3つの問題点がある。

■図3

①減圧管理情報を無減圧潜水時間だけで表している

          
ダイブコンピュータが表示している「無減圧潜水時間」を見て、ダイビング中に「まだ安全」「そろそろ危ない」と判断している人が多いのではないだろうか。この「無減圧潜水時間」は、メーカーの設定のわずかな違いやコンパートメント数の違いによって生じてくる。
また浅くて長い潜水をしたり、反復潜水を重ねたりした場合には残留窒素が蓄積して、表示される無減圧潜水時間にズレが生じる。

②「速い組織」と「遅い組織」が決定する無減圧潜水時間は本来危険度が異なるが、それを十分に伝えることができない。

人体には窒素の吸排出が「速い組織」と「遅い組織」がある。ダイブコンピュータを使用している際には、浅い水深で出した減圧潜水ほど遅いコンパートメントまでを含めた各組織への窒素の溜め込みが多く、減圧症の発症の可能性が高まるが、十分にそれを伝えることができない。

③どんなに窒素を体内に溜め込むようなダイビングをしても、浅い所に浮上すると、無減圧潜水時間が長く表示されるので 窒素が抜けたかのような錯覚をしてしまう。 

ダイブコンピュータは、浅場に浮上すると、無減圧潜水時間が長く表示される。それはダイビング中に溜め込んだ窒素が抜けたからではなく、浅い水深では窒素の吸排出の遅いコンパートメントが無減圧潜水時間を決めていて、長く表示されているからだ。

水深の浅い場所では、無減圧潜水時間がファジー(あいまい)になりがちなので注意が必要だ

水深の浅い場所では、無減圧潜水時間がファジー(あいまい)になりがちなので注意が必要だ

減圧症罹患事例から検証する予防のヒント

さて、次は私がJCUE(NPO日本安全潜水教育協会)で講演した色々な減圧症罹患事例の中から、特に着目していただきたい以下の5例を紹介しよう。

●体内窒素蓄積の過多事例

vol.1で紹介した「■図3 最大水深24m、潜水時間49分の無減圧潜水のダイブプロファイル」のような水深15m以上かつ平均水深45分以上のダイビングをすると、減圧症に罹患しやすくなるのは間違いない。

前回でも述べたが、水中写真や動画撮影にはまると、被写体を追いかけて潜水時間の長い箱型潜水を行うダイバーが多い。また時間に余裕がなく、過度な反復潜水をしがちなのが、日本人ダイバーの特徴でもある。

仮にそうなってしまった場合、どういう対応をしたら良いかだが、吸排出が遅い組織が無減圧潜水時間を決めているので、安全停止を3分ではなく10分にするといった対応が必要である。体内窒素圧のバーグラフをコンパートメント別に見ていないと正確には難しいのだが、大まかな対応は可能である。某社のM値警告はそれを補助的に行う機能でもある。

●浮上速度違反事例

浮上速度違反は、深い浅いに関わらず、罹患理由の主な要因である。器材(カメラの水没、ドライスーツの水没など)のトラブルが発生し、水深20m、潜水時間わずか6分のダイビングで減圧症に罹患した事例がある。

また、マグロの養殖業者では水深10m、40分程度の浅い水深のダイビングで浮上速度違反を目まぐるしく繰り返していた(一人の作業員がマグロを電極棒で気絶させ、そのまま水面まで引き上げていた)という事例で、多くの減圧症が発症している。

そして、安全停止が終了した後に浮上速度違反をする事例も多くみられる。水深5~6mの安全停止でダイビングが終わる訳ではないので、安全停止後から3分以上かけて浮上する姿勢が重要である。アンカーロープがあったら一握りずつ掴んで、ビーチエントリーの場合はほふく前進で浮上するような心構えが肝心である。

アンカーロープにつかまり、着実に安全停止を行うようにしよう

アンカーロープにつかまり、着実に安全停止を行うようにしよう

●連日蓄積事例

モルディブでご夫婦そろって減圧症に罹患されたという事例がある。1日4本を2日、5本を2日、4日間で計18本のダイビングを行った。それぞれのダイビングは無減圧潜水の範囲内で、浮上速度違反はなく、安全停止も毎回行っていた。しかし、夫婦揃って帰国後に発症。飛行機搭乗が要因となった可能性が高く、最終ダイビング終了時にハーフタイム480分コンパートメントの体内窒素圧はM値の60%を超えていた。

連日の潜水を繰り返すと、遅い組織の窒素が排出し切れず、次第に溜まってしまう場合がある。ハーフタイム480分のM値が60%を超えると、体内窒素の排出時間は30時間を超えてしまうので、注意が必要である。また、飛行機に搭乗する際は本来事前にどんなダイビングを行ったかを考えるのが重要であり、16時間、18時間で一律にOKとするのは根本的に間違っている。

●減圧症罹患者の復帰再発症事例

通常であればまったく問題がないようなダイブプロファイルで発症。復帰ダイビングにも関わらず、通常のダイビングを行ってしまうケースもある。減圧症復帰プログラムの存在を知らないという場合も多い。

減圧症罹患1年半後の復帰プログラムダイビングのケースで最大水深6m、32%ナイトロックス使用、潜水時間30分で再罹患した事例がある。通常では減圧症には罹患しない体内窒素レベルで、浮上もほふく前進で行ったそう。窒素の気泡化とは考えられず、一度減圧症に罹患したことによって、傷ついた神経が作用しているのではないかなど色々な推論がある。
減圧症には簡単にはかからないが、一度かかると10%以上の割合で軽い潜水でも再罹患しやすくなるので注意が必要である。

●浮上ペースミスパターン

「浮上速度違反」をしないことに意識が働き過ぎて浮上ペースが遅くなり、ダイビングの終盤で体内窒素圧がピーク点を迎えて、減圧不足(ダイブコンピュータ上ではOK)が起こる。

ダイビングの中盤近くで最大水深に達して、後はゆっくり浮上し、安全停止前あたりで無減圧潜水時間が少なくなるダイビング。前のダイビングとの間の水面休息時間が短いと発生しやすくなる。症例としては石垣島と東日本震災時のボランティア活動で引き上げ作業を行っていたダイバーの2例しかないが、とても参考になる事例なので参考にしてほしい。

シミュレーター上では言わば体内窒素量は面積計算に近いので、ぼやぼやしていると体内窒素が浮上間際で最大値になってしまうという例。浮上時点の体内窒素圧が最大値となったのはハーフタイム45分のコンパートメントがどちらもM値の92%に相当した。ランディボーラーのアルゴリズムで言うと、浮上時点の体内窒素圧が85%を超えているか否かが危険度の分岐点となると考えられる。それぞれのダイビングは無減圧潜水の範囲内で安全停止も行われ、比較的安全なガイドではあった。

次ページ>>>減圧症を防ぐためのリスクマネジメント

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PROFILE
某電気系メーカーから、TUSAブランドでお馴染みの株式会社タバタに転職してからダイビングを始めた。友人や知人が相次いで減圧症に罹患して苦しむ様子を目の当たりにして、ダイブコンピュータと減圧症の相関関係を独自の方法で調査・研究し始める。TUSAホームページ上に著述した「減圧症の予防法を知ろう!」が評価され、日本高気圧環境・潜水医学会の「小田原セミナー」や日本水中科学協会の「マンスリーセミナー」など、講演を多数行う。12本のバーグラフで体内窒素量を表示するIQ-850ダイブコンピュータの基本機能や、ソーラー充電式ダイブコンピュータIQ1203. 1204のM値警告機能を考案する等、独自の安全機能を搭載した。現在は株式会社タバタを退職して講演活動などを行っている。夢はフルドットを活かしたより安全なダイブコンピュータを開発すること。
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