ダイビング後に綿棒で耳掃除をしてはいけない理由

ラジャアンパットの海(撮影:越智隆治)

ダイバーで外耳炎(外耳道炎ともいう)になる方が、私のクリニックにも多数来院されますし、私が国内や海外へダイビング旅行に出かけたときにも、現地でよく相談を受けます。

なぜ、ダイバーは一般の方よりも外耳炎になる人が多いのでしょうか。
今回はその理由と診断、治療、そして予防方法をお話しします。

耳掃除は年に3~4回で十分!?
人間に必要な耳あか

日本人の耳あかには、乾いたタイプ(乾型)が80%と、あめ耳(湿型)の人が20%います。
どちらのタイプかは遺伝によって決まります。

そのどちらであっても、耳の中をph5くらいの酸性に保って、抗菌成分の役目を果たしています。

※編注:phとは、溶液の水素イオンの濃度を表す数値で、値が低いほど酸性、高いとアルカリ性、pH7が中性

また、ゴミや虫が耳の中に入らない様にブロックする役目もあります。
ですから耳あかは人間には必要なもので、目くそや鼻くそのように、ばい菌ではありません。

自然に耳あかがたまって聞こえなくなるまでには、個人差があるもののおおよそ1年以上かかります。

余分なものは自然に外に出てくるので、たまりにくいものなのです。
ですから、年に3〜4回程度の耳掃除で十分です。

しかも、耳あかは耳の入り口にしかたまりません。
掃除をするときには、ほんの入り口だけでよいのです。
頻繁に耳掃除をする人は、綿棒で奥へ押し込んでしまって耳栓状態になることもよくあります。

ダイバーが外耳炎になる理由
耳掃除に綿棒を使ってはいけない

普段から耳掃除を頻繁にする習慣がある人は、抗菌成分がなくなってしまっている上に、細かい傷をつけてしまいます。

特に、耳の奥の方(外耳道骨部)は皮膚が傷つきやすいのですが、傷がある状態で海やプールにはいると、水中のばい菌にやられて簡単に化膿してしまうのです。

頻繁に潜る人は、耳あかが洗い流されてしまって不足しがちですから、なおのこと掃除をしてはいけません。

よく、耳に水が入って取れないからと綿棒を使う人がいますが、他の部位の皮膚と同じように、放置すれば勝手に乾燥します。

特に、耳の穴の皮膚がふやけているときには、絶対に綿棒を使うべきではありません。

そもそも、綿棒は耳の中に入れてはいけないものです。

訴訟大国アメリカでは、パッケージに「外耳炎を起こしたり、鼓膜を破くことがあるので、絶対に耳に入れないで下さい」と注意書きがしてあるものがあります。

どうしても、耳の中に入った水が不快で取りたいという場合には、ティッシュで、細いこよりを作って、そっと耳の中に入れる作業をくり返します。
そうすれば、外耳道の皮膚を傷つけずに水を除去できます。

それでもなお、ダイビング後に耳に水が入った感じがとれないのであれば、それは耳の穴の水ではなく、鼓膜の内側の出血でしょう。
耳抜きが抜けにくい人に多い症状です。

外耳炎の診断と治療

外耳炎の場合、耳が痛くなるので、異常をすぐに感じることができますが、中耳炎との区別が必要です。

外耳炎は耳を引っ張ったり入り口を押すと、痛みが強くなります。
そうであったなら、外耳炎と簡単に診断できます。

ダイバーが外耳炎になった場合、普通の人の外耳炎と違う点は、ほとんどの場合の原因菌が、緑膿菌という、一般的な薬が効きにくい、やっかいなばい菌であることです。

ダイビング器材も真水で洗わないでいると、緑膿菌がたくさん着きます。

乾かしたり、日に当てればほかのばい菌は死んでしまいますが、緑膿菌はそのような過酷な環境でもなかなか死なないタフな菌なのです。

潜水艦搭乗員はよく外耳炎になるのですが、やはり原因菌は緑膿菌です。
治療は一般的な抗生物質が効かないので、ニューキノロン系の抗生物質が入った点耳薬を、ひどいときはこの系列の内服薬を併用して数日間使用します。

外耳炎になったら医師の許可が出るまで、医師の診察をしてもらえない離島などでは、耳を押したり引っ張っても痛くなくなるまでダイビングはお休みです。そのまま無理をして潜り続けると、とうとう口が開かなくなったり、耳下腺炎になることもあります。

外耳炎の予防方法

ダイバーは普段から耳掃除を控えることが第一です。
特にふやけている海あがりは絶対に綿棒を使用してはいけません。

そしてダイビング後は、シャワーなどの真水で耳の中を洗います。

水分を拭き取るときは、タオルかティッシュで指が入る耳の入り口を押さえるようにして、軽く水分を取ります。

それでも外耳炎になりやすい人は、耳の中を洗ったあとに、横向きに寝て耳の穴を上に向け、耳の中に市販のオキシドールを数滴入れます。
そのまま15分ぐらいしたらティッシュなどで入り口だけを拭き取ります。

同じことを逆側にもやります。
特に、数日間潜っていて耳の中がかゆくなってきたら、ごく軽い外耳炎になり始めていることが多いので、その程度ならばオキシドール点耳で治せます。

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PROFILE
医大生時代にダイビングと出会いのめり込み、ダイビングのために時間とお金を捻出するために、他の趣味をどんどんやめてしまう。
クリニック開業後、好きが高じてダイビングインストラクターになり、現在は、テクニカルダイバーとして、ケーブダイビング、リブリーザーダイビング(rEvo)、大深度ダイビング(-100m越え)などの潜水を行なっている。
また、全国から潜水医学の講演依頼があり、ダイバーおよび耳鼻咽喉科医へ正しい潜水医学の普及をすべく活動。
その後、58才で耳鼻科開業医を引退し、第2の人生でメキシコ移住。メキシコセノーテを潜り三昧の日々を送る。
 
潜水歴30年、潜水本数約3000本。
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