【トークイベント】上出俊作×岡田裕介 2人の写真家が語る「ザトウクジラを撮る」ことの意味

上出俊作氏(左)と岡田裕介氏(右)
2025年6月3日(火)より14日(土)まで、キヤノンギャラリー銀座にて水中写真家・上出俊作氏の写真展「The Whales Are Coming」が開催されている。そして6月6日(金)に写真家・岡田裕介氏を招いてのギャラリートークが行われた。会場にはたくさんの来場者が訪れ、二人の写真家が語るクジラの魅力、今回の作品に込められた上出氏の思いなどをたっぷりとトーク。その様子を紹介しよう。
北半球と南半球のザトウクジラをそれぞれ撮ってきた2人
上出俊作氏(以下、上出氏)
皆さん、こんばんは。上出です。僕は沖縄本島の名護市というところに住んでいます。今回の写真展は、沖縄本島と奄美大島の2か所で2018年から撮影を始めたザトウクジラの8年分の写真の中から作品を展示しています。僕が沖縄本島に移住してから11年経ちました。普段はウミウシなどの小さな生物を撮ったりもしています。また小さいものだけでなく、沖縄のサンゴやマングローブなども撮影していますが、自分の中で一番大事と言ってもいいテーマの一つザトウクジラの写真展を今回は開催させていただいています。……という感じなんですけれど、ちょっとなんか硬くてすみません……。岡田さんが盛り上げてくれると思うので、自己紹介していただこうと思います(笑)。
岡田裕介氏(以下、岡田氏)
カメラマンの岡田です。僕は上出君と違って水中専門というわけではないんですが、ザトウクジラを2010年頃から7年間、毎年1カ月くらいトンガで撮影してきました。延べで言うと、この7年間で約7カ月ザトウクジラと過ごしてきました。2020年にハワイ島とバハマで撮影したイルカと、ザトウクジラの写真で構成した写真集を出しています。あとこれは2009年にナショナルジオグラフィックで賞をいただいたときのマナティの写真なんですが、これがカメラマンとして様々な活動ができるようになった記念の一枚です。最近はペンギンの撮影にわりと力を入れていて、昨年9月にはここキヤノンギャラリーで写真展を開催しました。

上出氏
まずザトウクジラはどんな生き物かをお話ししていきます。ザトウクジラの体長は大きいもので15~16m、展示している写真の個体は大人のクジラでは10m以上はあります。見た目としてはバスのようなサイズ感で、黒くて流線型で潜水艦のような雰囲気かなと。潜水艦は実際には見たことはありませんが(笑)。
ザトウクジラは世界中の海に生息していますが、岡田さんが撮影しているのはトンガやバハマといった南半球にすんでいるもので、僕が沖縄本島や奄美大島で撮っているのは北半球にすむザトウクジラたちです。
岡田氏
どこまで本当かはわかりませんが、北半球と南半球のそれぞれを回遊しているので、両者が交わることはないと言われてます。また、南半球のクジラは体に白い部分が多く、北半球のクジラは黒い部分が多いですよね?
上出氏
個体によって差はありますが、僕の感覚でも北半球のザトウクジラのほうが黒いものが多いと思います。北半球のザトウクジラはいろんなところに生息していますが、僕らが暮らしている日本では沖縄、奄美大島、あとは小笠原諸島などで繁殖します。不思議なのは沖縄でも宮古島や石垣島などでは見られないんですね。あとフィリピンやマリアナの方でも繁殖しています。時期としては1月から3月の冬が繁殖時期です。
岡田氏
フィリピンでも見られるんだ⁉
上出氏
フィリピンの話を聞いたところ、繁殖しているのはかなりアクセスしづらい場所で、ホエールウオッチングなどのレジャーが成り立つような場所ではないと聞いています。
北半球の西郡北太平洋を回遊しているザトウクジラは、3月くらいに温かくなり始めると、ロシアやアラスカなどの寒い海域に移動して、オキアミなどの小さな生物を捕食して栄養を蓄えます。そして、12月から3月頃に繁殖活動をするために、沖縄や奄美大島などの繁殖海域にやって来ます。この期間は餌を食べずに、繁殖・子育てを行っています。
この会場にある写真はすべて繁殖海域で撮影したものです。繁殖や子育てにまつわる何かしらのドラマが繰り広げられていて、それを切り取ったものと言えるのかなと思っています。
岡田氏
僕が撮影している南半球のザトウクジラは、南極沿岸で餌を食べていて寒くなる時期に、トンガなどに繁殖活動のためにやって来ます。7、8、9月あたりによく見られるので、ちょうど時期が逆ですね。ザトウクジラが好きな人は、北半球と南半球の両方に行けば、一年のうちかなり長い期間、クジラに会えますね。
上出氏
お金と時間があれば(笑)。