減圧停止なのに減圧停止でない安全停止???

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ダイビング歴45年。やどかり千人のぶつぶつ多事総論。

前回、「安全停止は、深くて短時間のせわしない
リクリエーション・ダイビングのダイビングパターンへの予防措置だ」
というところまででした。
つまり、建前上はあくまでもしたほうが”いいよ”だったはずですが、
最近では絶対に”しろ”のようであります。
となると、どれだけ効果あるのじゃというお話を……。

■本当に効果があるのかい?
「安全停止をしたから減圧症の発症率」が下がったなんて、
ずばりと証明する心強いデータがあるといいんですが、
不勉強なヤドカリ爺は存じません。

ただし、はるか昔にビルマニスという先生が、
短時間の安全停止をすると劇的に血液中の気泡音が減ったという実験、
比較的最近でもDAN(なにもしない DAN japanじゃありません)の会長の
マローニ博士が実験をしており、しないより安全停止をしたほうが血液中の気泡音、
つまり、サイレントバブルが少ないという結果が確認されているようで、
理屈は正しいようであります。

■どんなダイビングに効果があるの?
長い話ですので理屈はカット。
特に効果があるのは20m を超えるようなダイビングをしたときには効果が大きく、
浅くて長いダイビングをしたときは、あまり効果はないとされております。

しかしながら私らアマチュアのダイビングは、
浅い深いと自分勝手に思っているだけで、概して深いダイビングなのであります。
私たちは、5mに延々3時間なんてダイビングより
圧倒的に18mに50分なんてダイビングが好きであります。

「30mを越えるときには必ず安全停止をするように」などとテキストには書いてありますな。
リクリエーション・ダイビングの減圧症の70%近くは神経・脊髄系の減圧症とされておりますが、
この神経・脊髄系はDANなどによりますと、
13分ほどで半分飽和する組織いわゆる早い組織とされております。
ということは、排出するスピードも速く、
5mで3分の短時間停止でも、かなり窒素を排出する余裕ができるはずだというのです。
 
PADIのダイブテーブルの開発者のレイモンド・ロジャース博士などは、
この3分の安全停止は、24mのダイビングで無減圧リミットを
5分越してしまったときの緊急減圧停止とおなじ効果があるといっておられます。
 
■では減圧停止じゃないのか?
もともと無減圧ダイビングなのに、事実上、毎ダイブでやりなさいと言われるので、
「これじゃ減圧停止ダイビングじゃないの?」
と言われると答えにつまるところであります。

わずか3分の停止時間中にも、
窒素の吸収・排出の早い組織では当然排出されるのですが、
ダイブテーブルでダイビングをしているときには、
この分を勘定に入れないことになっております。

つまり停止はしたけど、”帳簿に付けないで隠し財産にしておこう”というのが、
安全停止の建前です。減圧停止でもあるのに減圧停止ではないという、
まるで本音と建前、2枚舌でありますな。

一方、ダイブコンピューターは計算し続けますから、
いかほどかはわかりませぬが、減圧効果を見積もってくれます。

■安全停止中にも窒素はたまる?
もともとしないでよいストップ、その間に窒素がたまるじゃなかろうか?
これも当然の疑問ですな。
ノーストップ・タイムぎりぎりまで深いところにいて、そのままダイビングを終えれば、トータルのダイビング時間は短いので、
3〜5分の短時間の停止をしてもたいした窒素の吸収は起こらないはずですな。

ところが世の中には早とちりの人が多いものです。
コンピューター・ダイビングでは、
浮上するにつれてダイビング可能時間は加速度的に延びていきます。
そこで浅いところにいれば安全停止にもなると、
安全停止深度の5mに延々30分もダイビングを続ける勘違いダイバーがいます。
これは深度の違う新しいダイビングを始めちまったのと同じで、
いわゆる遅い組織に窒素を吸収させることになるという理屈であります。

■安全停止深度はなぜ4〜5m、しかも3〜5分とファジーなの?

窒素を溜め込むという言葉が少々誤解を招いております。
正しくは組織に溶け込んだ窒素ガスの圧力が高くなるという言うべきであります。 

もちろん停止ポイントが、浅ければ浅いほど、
体内に吸収された窒素の圧力と周囲の圧力に大きな差ができて、
窒素の排出が促進されるのですが、しかし実際には、
計算上は3mでも6mでもあまり排出の効果に変わりはないのであります。
ときには3〜7.5 mでやればよいのだといった、
えらく大雑把なご意見の先生もおられます。

しかも長く停止したからといって、やはり排出効率は悪くなります。
最初に多く排出され、だんだんと排出効果が悪くなります。
もちろん長く停止すればそれなりに効果はあるのですが、
現実として3〜5分という停止時間は、必要にして十分ということのようであります。

停止時間にも諸説がありまして、
5分以上停止しても実効性がないという実験結果もある一方で、
10分停止すれば減圧症は激減すると力説される(ホントかな)
先生もおられることを付け加えておきます。

現在の5m(15フィート)は、3mよりも体の安定がよいという理由だけで、
決められたのだと先ほどのロジャース先生もおっしゃっております。
現実には5mで安全停止をしろ!しろ!
と金切り声を上げるダイブコンピューターもございますが
5mが絶対というわけではないのは前にもありました。
どうしてもできないときはしなくても、あまり深刻に悩む理由はないようであります。

さらにロジャース先生はやることが大事で、
そのやり方が少々いい加減でもやればいいのだと、
ヤドカリ爺のようなちゃらんぽらんダイバーにはうれしいお言葉もありました。

でも現在のようにほとんどマストのダイビングテクニックになった以上は、
本当に定着させるには、ボートからは安全停止用のアンカーライン、
停止用のバーが5m深度に設置してある、あるいは、
ツアーリーダーがフロートを用意するといった、
スタンダードルールにならんといけませんな。
さもないといつまでも、宙ぶらりんな安全ルールのまんまでありますな。
またこれが本当の安全サービスであります。

今日の話は昨日の続き、今日の続きはまたの明日に……。

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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