「答えは誰にもわからないし、正解は1つじゃない」海洋写真家・吉野雄輔さん新作シリーズへの想い
自然科学のスペシャリスト、文一総合出版の写真絵本シリーズより、数多くの図鑑や写真集を手がける海洋写真家・吉野雄輔さん著『どうしてそうなった!? 海の生き物』シリーズが続々と発売されている。「海の色」、「海の形」、「海の暮らし」の3部作構成で、どの本も海の不思議に注目する本シリーズ。
今回は写真と文を担当した海洋写真家の吉野雄輔さんにインタビュー!新作シリーズに込めた想いをお届けします。
答えはない、だから不思議で面白い
オーシャナ
7月中旬に発売されたばかりの『どうしてそうなった!? 海の生き物①海の色』についてですが、色についてどのようなことが取りあげられているのでしょうか。
吉野さん
色の不思議についてでしょうか。
一口に色って言っても難しいんです、たとえばサンゴ礁でいろいろな色の生き物を目にしたとき、「なんでこんなに派手なんだ」って思ったとします。でもそれって僕らが派手だと認識しているだけで、魚やエビまたは他の生き物から実際にどう見られてるのかなんて、だれにも分からないわけです。
黄色いウミシダにくっついているエビが、だんだん体の色を黄色に変化させたら、僕たちは擬態だって認識するわけですが、実際の色がどんなものかは分かりません。「背景と近ければ目立たないだろう」と想像することならできます。
オーシャナ
だからこそ、大人が読んでも面白そうですね。
吉野さん
とはいえ、子どもが楽しむ写真絵本ですから、理屈で説明するよりも、なるべくシンプルな方がいいはず。写真を見て、きれいだなとかすごいなとか感じてくれるような写真を選んだつもりですし、シンプルの中にも子どもたちが「お?」とか「ん?」とか思える何かがあればいいなと。
オーシャナ
理屈よりもまずは面白さからですね。
吉野さん
それに、答えってそんな簡単に求められるものじゃないし、べつに分からなくてもいいとも思っています。親子で読んでいて「子どもからなんで?」って質問されたとしても、無理やり答えなくてもいいんじゃないかと。一緒になんでだろうねとか会話しながら自由に考えれればそれでいいのかなと思っています。
生き物の世界に正解は1つじゃない。たくさんの正解が同時に存在している
吉野さん
このシリーズ3作を作っていて「生物多様性ってなんだろう」と考えるきっかけになりました。
オーシャナ
裏テーマみたいなものでしょうか。
吉野さん
そうですね。1つの理屈で物事を判断しないことが大切だと思います。僕たちは学生の頃の勉強のクセで、理屈の上で物事を理解して1つの正解を導き出すのが、得意になってしまっていて。
たとえば、マンボウは3億個卵を産むといわれているけど、それはなぜかと考えるとき、たくさん産めば生き残る確立も高いからと説明されれば「なるほど、当然の戦略だね」と理解する。
でもこれって1つの理屈でしかないわけで、真逆の戦略をとっている生き物もいる。サメは少数しか子どもを産まないけど、ちゃんと生き残っていますよね。
だから、どちらが正解とか間違いなのかを議論して答えを出すことは重要ではないと思うんです。重要なのは、生き物の世界にはたくさんの正しさが共存しているんだと気づくこと。たくさんのものさしがあるとも言い換えられるかも。
この世にはいろんな生き様があふれていることを伝えたかったんです。
オーシャナ
海洋写真家として50年近く海の世界を見てきた吉野さんからの大切なメッセージが込められていますね。ぜひたくさんの子どもたちに手に取ってほしいです。
現在、『どうしてそうなった!? 海の生き物』シリーズは、海の色が発売中。続いて、8月19日に発売を控える「海の形」、そして最後に「海の暮らし」で締めくくられる予定。
海洋写真家・吉野雄輔さんプロフィール
1954年、東京生まれ。
大きな海の写真から小さな生きものまで、スチール写真を専門に、40年以上撮影している。写真集、図鑑、写真絵本、雑誌、新聞、広告などの世界で幅広く活躍。
著書に『海の本』(角川書店)『山渓ハンディ図鑑 改訂版 日本の海水魚』(山と渓谷社)、『世界で一番美しい海のいきもの図鑑』(創元社)発売6年目でもAmazonでベストセラー1位、増刷決定、8刷。
たくさんのふしぎでは『海は大きな玉手箱』(101号)、『ウミガメは広い海をゆく』(174号)、『この子 なんの子? 魚の子』(294号)、『ヒトスジギンポ 笑う魚』(328号)、『サメは、ぼくのあこがれ』(354号)、『海のかたち ぼくの見たプランクトン』(391号)、『イカは大食らい』(第426号)など多数(福音館書店)