越智隆治「まいごになった子どものクジラ」発売!〜南太平洋トンガ王国の海で、本当にあったクジラのお話〜
南太平洋に浮かぶ170もの島々から成るトンガ王国に、越智隆治が始めて訪れたのは2004年。
以来、8年通い続けた中で「一生忘れない」経験となった、“まいごになった子どものクジラ”をめぐる物語です。
ある日、ボートと遊ぶのに夢中になって、お母さんクジラとはなればなれになりそうになった子どのものクジラ。
お母さんとはなればなれになってしまったら、おっぱいが飲めなくて、大きくなれず、南極への厳しい旅の途中で、死んでしまうでしょう……。
そんな子どものクジラをお母さんのもとへ戻そうと団結する人間との物語。
やんちゃな子どものクジラの姿や親子クジラの愛情に微笑ましい気持ちになる一方で、人の都合とは無縁で厳しい自然の姿も伝わってきます。
そして、何より人の“想い”が世界一大きな動物を動かし、物語を生み出したことに感動させられる、ぜひ、お子さんに読み聞かせて欲しい写真絵本です。
越智隆治・著 (小学館) 定価:1,365円(本体:1,300円)
「みんなの想いが、結果につながった、感動的な経験でした。
このことは一生忘れないと思います。そんな体験だから、
みなさんにも知ってほしいと思いました」(2012年6月 越智隆治)
「まいごになった子どものクジラ」を読んで……
越智さんとは近い関係なので、どうしても物語より、越智さん自身の眼差しに興味が向いてしまいます。
そして、どうしても過剰に読み解こうと何度もじっくりと読んでしまいます。
そんな特殊な読み方をしていると告白した上で、僕が個人的に感じたこと。
この写真絵本から伝わる、冷静さと謙虚さが入り混じりつつも、何より温かい眼差しは、まさに、カメラマンであり、ダイバーであり、そして父親である越智さんそのものだと感じました。
この絵本には“死”という言葉が出てきたり、お母さんといるクジラがお父さんではなく恋人だったりします。
ご都合主義の擬人化を避け、時に情報を織り込み、ありのままの自然を見つめるまなざしは、報道カメラマンであった越智さんの原点。
本のタイトルが「まいごになった子どものクジラ」にもかかわらず、迷子ということ自体も、ひょっとしたら人間の勝手な思い込みかもしれないと言っています。
また、クジラの親子のやりとりを「海の中で、少しだけ見ることができます」と、何度も通い、間近で撮り続けていたにも変わらず、あくまで“少しだけ”見たに過ぎないと言います。
大自然の中で人はちっぽけで、その存在は少しだけ。
だからこそ、謙虚に接する必要がある。
ダイバーの基本かもしれません。
子どものクジラを見つめる優しい眼差しは、父親のそれ。
越智さんの子どもとの時間を綴る人気のブログ「Kid’s Diary」を思わず思い出します。
そして、個人的に一番印象的だったのが、「みんなの想いが、結果につながった、感動的な経験でした」という最後の一文。
想いがつながっただけでなく、「結果につながった」ことも強調しています。
自然は甘くなく、人はちっぽけで、想いだけではままならない。
でも、情動に警戒心を抱きつつも、やはり最後は“想い”を信じている。
人の想いや本当の優しさとは何かを考えさせられる一文でした。