写真家・中村征夫さんに聞く“温故知新” ~40年間の記録と美ら海きらめく写真展「琉球 ふたつの海」が開催中~

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「アギヤー漁は、もうあと5年以内になくなってしまうと思う」

2016年10月29日(土)からコニカミノルタプラザ(東京・新宿)にて開催中の、写真家・中村征夫さんの写真展「琉球 ふたつの海」。
征夫さんご本人にお話をおうかがいしてきました。

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写真展は、約40年間の「アギヤー漁」をモノクロームで記録した「遥かなるグルクン」と、それとは対照的に、カラフルで癒しの空間が創造されている「美ら海 きらめく」の特別展示となっています。

「美ら海 きらめく」展示風景

「美ら海 きらめく」展示風景

征夫さんに聞いた、アギヤー漁の今と昔

アギヤーとは方言であり、沖縄の県魚である“グルクン”を獲る漁のこと。
150年以上も続くこの漁法は、「もうあと5年以内にはなくなってしまうだろう」と、撮影をしていく中で漁師から言われたと征夫さん。

このタイミングで写真を世の中に露出したのも、少しでもアギヤー漁のことを世の人に知ってもらって、後継ぎになりたいと思う人が1人でも出てくれたらという想いもあると言う。

伝統的な漁法ではあるものの、以前は1船団60人以上に及んでいたものが、現在では、範囲も伊良部島に限定され、人数も全部で10人ほどになってしまった。

「この間、最後のアギヤー漁の撮影に行ってきた。もう撮影はできないと思う。だから、ここに展示してある写真も、とても貴重になってしまったと思うよ。」

そう語る征夫さんの瞳は、とても寂しそうだった。

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征夫さんがアギヤー漁の撮影を始めたきっかけは、宿泊していた沖縄の民宿に、たまたまアギヤーの漁師が毎晩のように飲みに遊びにきていたことだったとか。

「話をしていくうちに、子供の頃の厳しい奉公を思い出したのか、突然泣きだしてね。
貧しい農村部からアギヤー奉公に出され、一人前のアギヤー漁師になった話をしてくれたんだよ。
その話を聞いて、撮影をしたいと思ってから気づけばもう40年も過ぎてしまった。」

かつては、裸眼に裸足で海に潜りグルクンを網へ追い込んでいたが、それが次第に、ミーカガン(水中ゴーグルの木製)に裸足、そして現在は、水中マスクにフィンを履くスタイルへ。

グラスファイバー船(左)と木造船(右)のサバニの比較写真

グラスファイバー船(左)と木造船(右)のサバニの比較写真

グルクン漁に使用する伝統的なサバニ船も、木造船からグラスファイバー製の船に進化し、エンジンも“ポンポンポンポン”という音に懐かしさを覚える“焼玉エンジン”から現在のスイッチひとつで動く発電機へと進化した。

素潜りで数十mも潜っていた漁法も、現在はエアタンクを背負ってグルクンを追い込む。
タンクを背負うようになって楽になった一面もあれば、それによりどこまでも行けるようになってしまったが故に、潜水病になってしまって、もう潜ることができないという漁師がいることも事実だ。

「彼らはグルクンがいたらそれしか見えない。タンクを背負ったまま気がついたら70~80mだって潜ってしまうこともある。それを一日に11本やってしまって、もう二度と海には潜れない漁師や、片足になってしまった漁師だっているんだよ」

人々の記憶が征夫さんによって記録されて行く。

「温故知新」

そんな言葉が頭をよぎる写真展だった。

ふたつの目線で見るすゝめ

この写真展は、漁師の目とダイバーの目という、二つの目線で見るとより深く見ることができるかと思う。

例えば、珊瑚。

グルクンは珊瑚の近くを泳ぐ魚なので、漁師はサンゴの位置に気を使う。
それは、ダイバーの目線で見れば、「珊瑚を傷付けないように」と見えるが、漁師の目線では、というより、本来は、「珊瑚を傷つけないためでなく、自分たちの漁に使う網が珊瑚によって破れて使い物にならないように、珊瑚の位置を気にして網を張っている」だけであるということ。

漁師が網を守ることによって、結果的に珊瑚が守られてきたということだ。

そんなアギヤー漁もあと数年。
もし、この伝統的なアギヤー漁がなくなってしまった場合、この先どうやってグルクンを獲るのかと聞けば、「もうたぶん手法はないと思う」と征夫さん。

「インドネシアなどの海外から安く輸入できるようになったなどの理由もあるけれど、そこでは、きっと沖縄とは違って、珊瑚は壊滅的になっているだろうね。鉛で珊瑚をどんどんとついて追い込んだりもするし、珊瑚や岩などはきっとつるつるになっていると思うよ、想像だけどね」

県魚を獲る漁法がなくなるとなれば、沖縄の食文化も変わっていくのはそう遠い話ではなさそうだ。

一方、「美ら海 きらめく」は、撮影のメインを今年の夏に行ったということで、ほとんどが撮り下ろし。
きらりと光る征夫さんのセンスあるキャプションが、きらやかな写真をより一層楽しませてくれる。

文字先行ではなく、写真を楽しんでもらいたいからと、キャプションは手持ち

文字先行ではなく、写真を楽しんでもらいたいからと、キャプションは手持ち

写真を見終わり、征夫さんのもとへ行くと、「じっくりと丁寧に見て頂き、ありがとうございました」とお礼を言われてしまった。
こちらこそ、こんなに貴重な数々の写真を見せてくださりありがとうございます。

見た人はきっと皆こんな気持ちになることだろう。

写真展は11月24日(木)まで。
また、11月11日(金)と19日(土)にはトークショーも開催されますので、他にもいろいろと話を聞いてみたいと言う方は、ぜひ足を運んでみてください。

※写真展の撮影は許可を得て撮影しています。

中村征夫写真展
「琉球 ふたつの海」

■会期:2016年10月29日(土)~11月24日(木)

■場所:コニカミノルタプラザ

〒160-0022 東京都新宿区新宿3-26-11 新宿高野ビル4F
JR新宿東口、地下鉄丸の内線「新宿駅」A7出口から徒歩1分(フルーツの新宿高野4F)

■開館時間:10:30~19:00
※ 最終日は15:00まで。
※ 入館は閉館の15分前まで。

■入場:無料

トークイベント

○場所:コニカミノルタプラザイベントスペース(各回50名)
11月11日(金)19:00-20:00
11月19日(土)14:00-15:00
※開始1時間前より整理券配布。
(定員を超えた場合、立ち見または配布を中止する場合があります。)

■お問い合わせ
コニカミノルタプラザ
TEL:03-3225-5001

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PROFILE
成蹊大学文学部国際文化学科卒業。
ナレーター、司会、ダイビング・モデルとして、TV、雑誌、モーターショー、トークショーなどで活躍。宝くじのキャンペーンガール「幸運の女神」では、46都道府県を旅する。

2013年からは、大物運・海況運をつかさどる「海の女神」へと転身し、舞台を海に変えてオーシャナの突撃体験レポートを担当。
潜水士資格も取得し、2014年は伊豆大島復興観光大使「ミス椿の女王」として、伊豆大島をはじめとした被災地復興支援活動にも尽力する。

「ダイビングがきっかけで、物の見方も感じ方も生き方も180度変わり、自分の周りまでもキラキラ輝き出したことを実感。 
いろんなことを体験しながら、たくさんの“きっかけ”を届けていきたいです」

【経歴】
・第25期 日本テレビイベントコンパニオン
・第11~12期 スバルスターズ
・第33期 宝くじ「幸運の女神」
・第23代 ミス椿の女王(2014.2~)
・第29代「ミス熱海・桜娘」(2016.1~)
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