「レックをもっと身近なものに」水中写真家・戸村裕行氏にインタビュー 〜水中写真展「群青の追憶」〜

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ただいま水中写真家の戸村裕行さんが、横須賀にある記念艦三笠にて水中写真展「群青の追憶」~海底に眠る大東亜戦争の戦争遺産を追う~巡回展を開催中。

会場となる三笠にて、写真を見ながらお話を伺ってきました。

少しでも多くの人に興味を持ってもらいたい
水中写真展「群青の追憶」

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靖国神社に引き続き、横須賀の三笠で巡回展を行なっている写真展「群青の追憶」ですが、どのような構成になっているのでしょうか?

戸村

戦争に起因する日本の”レック”(沈船など)に焦点を当てた展示となっています。
9割以上が日本の船や飛行機ですね。
最初に相関図があって、多少前後はありますが、大東亜戦争(太平洋戦争)はマレー作戦・ハワイ真珠湾攻撃からはじまり、最初は優勢だったものの、ミッドウェー海戦などを経て立場が逆転し、徐々に日本に向けて侵攻を受けることになるわけですが、その時系列の順番で写真を並べています。

基本的にここにある写真は自分で見つけたのもではなく、ダイビングポイントとしてあるものがほとんど。
なので、レックダイビングが好きな人はこれを見て、自分で潜りに行けるところが多いですね。
もちろん水深が深く、テクニカルダイビングでしか行けないところもありますが。

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写真だけではなく、説明も細かく書いてあるんですね。

戸村

その船の歴史や、使われていた理由や背景も一緒に載せています。
本当は1つ1つにもっと物語があるので、ごく一部にはなりますが。

レックって元々欧米の方が人気があるんですよね。
歴史なんかも彼らの方がすごい調べているし、本もいっぱいあるんです。
日本のレックシーンはそういうところが抜けてしまっているなと思っていて。
なので少しでも知ってほしいし、興味を持ってもらえたらうれしいですね。

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レックに対する需要の高まり
写真展開催のきっかけ

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今回の写真展をやろうと思ったきっかけはなんですか?

戸村

日本のダイビングシーンにおけるレックダイビングの立ち位置は、生物や地形を楽しむダイビングに比べると、なかなか表に出てこないジャンルだったんですよね。
特に戦争に起因しているものだったりもするし、「暗い」、「怖い」と思っている人も少なくないと思います。
ただ、ここ最近僕たちの周りで、昔の艦船に対する需要が高まっているという感覚がすごくあったんですよね。

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需要が高まった理由は何かあるのでしょうか?

戸村

元々、ご遺族や関係者の方々からは、ありがたいことにお礼を言ってもらえたり、ここを撮影してほしいという声は以前からあったんです。
それに加えて、例えば先日亡くなられましたが、マイクロソフト共同設立者で資産家のポール・アレン氏が、2015年に、71年ぶりに旧日本海軍の戦艦「武蔵」を発見したり。
あとは戦艦などのミリタリー系をテーマにしたゲームが流行っている影響も大きいですね。

需要というか求められてるというか……今だったらさらにたくさんの方に知ってもらえるだろうと感じるようになり始めたのが一昨年、去年くらい。
そのあたりから写真展開催を考えました。

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ゲームの影響もあるんですね。
写真展を見に来られる方はダイバー以外の方も多いですか?

戸村

むしろダイバー以外がほとんどです。
靖国神社では、先ほど言ったようにご遺族、関係者の方や、ゲームで興味を持ってリアルを知りたくて見にくる方、もちろんそうじゃない家族連れや若い子とかも来ていただけました。
ダイバーは全体の1割くらいですかね。

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ダイバーがそんなに少ないのは驚きです。

戸村

僕のツイッターも、ゲームが好きでフォローしていただいている方ばっかりだったりします(笑)

ダイバー以外にも知ってほしい
靖国神社に続き、三笠という会場の選択

三笠

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写真展の会場が、靖国神社に続き三笠ということで一般的なギャラリーなどではないですが、ご自身で選んでいるんですか?

戸村

こちらからお話してやらせていただいてます。
ありがたいことに、「ご遺族の方が喜ぶのでぜひやってください」と言っていただけるので、開催できています。

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やはり歴史と縁がある場所というところで?

戸村

そうですね。こういった過去の歴史や、艦船などに興味があるような方々が来るようなところを選んでいますが、第一の理由としては、ダイバーではない方々も普通に来るようなところでやりたいのが大きいです。

特に今回は写真を見ていただくのと一緒に、多くの解説文を付けました。
写真を評価していただくことは大変名誉でありがたいことですが、さらにそこからもう一歩踏み込んだ展示を目指しています。
また、会場の選定だと、靖國神社であれば戦争で亡くなられた方々が祀られている場所、横須賀であればかつて海軍の基地があった場所、といように、場所にもこだわっています。

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幅広い層の方に広がりそうです。

戸村

そうですね。ダイビングを通じて知り合った友人やお世話になった方々などが来てくれたりしていますが、僕のことであったり、写真展が開催されていることを知らない人にも足を運んでもらえたらと。
靖國神社であれば、参拝に来られた方が、三笠であれば、観光に来た方が、たまたまこの写真展を見て、未だにこれだけの艦船が海に眠っているということを知ってもらえたら、と思っています。

ダイビング業界的にも、外の人に見てもらわないと広がらないじゃないですか。
もちろん、この展示がきっかけでレックダイビングをしてみたい!と、ダイビングに興味を持ってくれる人が増えたらうれしいですね。
だから今後も地方含めて回っていこうと思っていますが、そういうところを中心に考えています。

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なるほど。そういった意識もしてるんですね。

戸村

やっぱりそうやって業界を広げていかないとと思ってます。
特に僕が撮影している戦争に起因するレックに関しては、デリケートな部分もあり、まだ需要も小さくニッチなもの。
記録写真として残していきたいものではありますが、人に見てもらわないと自分の中で終わってしまうので、そういった意味でどれだけ多くの人に見てもらえるかというのはありますね。
他にもゲームが好きな人のために、ゲームで使われる有名な船とかをいくつか入れるなど、自分の中でいろいろ工夫しながらやっています。

歴史を学んだうえで感じることを残したい
レックを撮り続けている理由

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戸村さんが元々レックダイビングにハマった理由はなんですか?

戸村

レックというと、基本的に沈没船や飛行機があるところに潜ってそれを見るんですが、それが楽しいと思う人もいれば思えない人も多いんですね。

そんな中でもうちょっと深く入っていくと、船にはそれぞれに名前や歴史がありますよね。
潜っていくと、中には70年前の本や新聞が残っていたりもするんです。そういったところで昔のものがまだ眠っていて、そこには日本人がいて日本語があって。
調べたりしながら少しずつ紐解いていくと、だんだん歴史が理解できてくるんです。

ーー

歴史を知っていく過程が好きなんですか?

戸村

それもありますが「純粋に楽しい!」というとまた別で。
やはり戦争で多くの人が亡くなっている場所なので、レクリエーションの範囲より深いところに行くと、まだご遺骨が残っていたりもするんですよね。
なので、そういった場所に潜ることに対して不謹慎だと思っている人もいて、もちろんそれも理解できます。
でも戦争があったという事実を記録として残し、多くの人や次世代に伝えるということも大切だと思うんです。

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歴史を知ったうえで、潜るということですね。

戸村

レックを潜る人っていろいろな人がいるんですよね。
慰霊や鎮魂の意味で潜る人もいれば、楽しむだけの人、兵器や船が好きなミリタリーオタクの人もいる。
いろいろな人がいていいと思っていて。ただ、こういった話を聞いて「怖い」と思った人に無理に潜ってほしいとか、そういう気持ちは一切ありません。

あくまで僕のスタンスとしては「どういう気持ちでそこを訪れるのか」が大事なのかなと。
この船はどういう役割でどういうことをして、今なんでそこにあるのか。
歴史をしっかり学んだうえでなにか感じることがあればいいんじゃないかなと思います。
ただ「沈船を潜ってちょっと暗くてドキドキした」だけでなく、もう一つ意味を持てるというか。
そういった気持ちや亡くなっているっていう人がいることを忘れずに、そこを写真家として残していきたいと思いながら撮り続けています。

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戸村

でもこれはあくまで僕の考えなので、楽しいっていう気持ちがあるのはいいと思うんです。
よく言うんですが、ダイバーはほとんどが魚を撮って図鑑を見てログ付けをするように、潜った後にその船がどういう船だったとか調べたりして、歴史について考えたりするというダイビングもありなんじゃないかなと思ってます。

レックダイビングって日本で今までマイナーだったけど、こうやって写真展をやって感想とか書いてもらうと、レック潜りたいっていう隠れレック好きが結構いて、そこが少しずつオープンになってきて。
ちょっとずつ裾野は広がってると思うんだけど、写真展をすることによってレックがもうちょっと身近なものになってくれるといいかなと思います。

▼写真展の詳細はこちらから

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PROFILE
1989年生まれ。
専門学校を卒業後、歯科衛生士として歯科医院に務める。
多忙な日々を送る中で、ハマったダイビングとカメラと旅行。
オーシャナとの出会いで一念発起し、歯科医院を辞めカメラマンを目指すために東京から伊豆へ移住。
昼はダイビングサービスを手伝い、夜はアルバイトをしながら1年間で450本潜っていたが、耳の問題でドクターストップがかかり東京に戻ることに。
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