オーストラリアのウミガメ保全プロジェクトの全貌に迫る!
ウミガメ・モニタリング・プログラム「NTP」とは?
ニンガルー・タートル・プログラム(以下NTP)は、西オーストラリア州のエックスマウスで、ウミガメの保護と個体数の生存率を上げることを主な目的として、2002年に設立されたウミガメ・モニタリング・プログラムです。
プロジェクト設立当初の資金は、世界自然保護基金(WWF)の絶滅危惧種ネットワーク助成金からのもであり、海に関するプロジェクトとしては、西オーストラリア州で初めて助成金を受け取りました。
NTPは現在、環境保全団体Cape Conservation Group とDBCA(政府の生物多様性保全部門)間でパートナーシップを組んでいます。
11月から3月末までのカメの巣作りシーズン中、地元のボランティアが、隔週でウミガメの巣作りの成功と失敗の数を12の営巣ビーチにて監視します。
カメ以外にも、他の野生動物の足跡もモニタリングしています。
こうして収集されたデータは、カメが巣作りに使うビーチの近くで住む、野生のキツネや猫の管理をするために使われます。
モニタリング対象となる3種類のカメ
NTPでモニタリングするウミガメはアオウミガメ、タイマイ、アカウミガメの3種類。
アオウミガメは世界で2番目に大きいカメで、体内の脂肪が青色だったことが名前の由来です。
主食である海藻の色素が脂肪に沈着することで、体色が青色をしています。
尖った口が特徴的なタイマイは、鱗のように重なった鮮やかな色合いの甲羅を持っています。
アカウミガメはニンガルー海岸で2番目によく目撃されるカメ。
強力な顎を持ち、クラゲ、カニ、その他の貝を粉砕して食べます。
この美しいウミガメたちは残念ながら、国際自然保護連合(IUCN)で「絶滅危惧種」または「近絶滅種」に分類されています。
光害、沿岸開発、生息地の破壊、海洋プラスチック汚染、気候変動が彼らを脅かしているのです。
このように大変な状況にあるウミガメたちですが、NTPのボランティアは具体的に何をするのでしょうか?
NTPボランティアの活動とは?
ボランティアの人々の朝は早く、AM5:30から仕事を開始します。
メインの仕事となるのは、4〜5時間の間、ウミガメの巣作りをビーチでじっと見守って、データ収集をすること。
砂の上に残された一連の複雑な手がかりを頼りに、カメの種類を特定して、カメが巣作りをしているかどうかを判断します。
たいていの日は昼頃に仕事が終わりますが、アクセスの悪いビーチでデータ収集をするために、ビーチでキャンプをして一晩過ごすこともあります。
また、この時期はウミガメが慣れない浜辺で穴などにはまって動けなくなることがあるので、その救助に当たることも大切な仕事の一つ。
溝にはまったカメにストレスを与えないように救出するのは思った以上に大変です。
何時間も炎天下で作業することも少なくありません。
そんな体力勝負なボランティアにとって、無事メスのウミガメが卵を産み、孵化したばかりの子ガメが一心不乱に海に向かって走っていく瞬間を見るのが一番達成感を感じる瞬間なのです。
では、ウミガメを救うことがなぜそんなにも大切なのでしょうか?
成長したメスのカメは、2〜3年ごとに最大6回の産卵期を迎え、一回の産卵ごとに約100個の卵を産みます。
それでも、産み落とされた卵のうち、大人になるのは1000匹のうち、たった1匹だけ。とても貴重な命なのです。
カメの性別と気候変動のつながり
孵化するカメの性別は温度によって変わることを知っていましたか?
気温が高いと雌、気温が低いと雄の子ガメが生まれると言われています。
本来であれば、それぞれの営巣場所の自然な温度の変化によって、オスとメスはバランス良く生まれます。
しかし、気候変動によって砂の温度が上昇しているため、世界中の主要な繁殖地でオスの数が今、現象傾向にあります。
NTPはプログラムの一環として、ニンガルー海岸沿いのさまざまな営巣場所に温度測定器を設置して、砂の温度を記録しています。
これらのデータは、ニンガルーの繁殖地で起きる気候変動の影響を知り、戦略を立てる際に役立ちます。
私たちにできることは?
沖縄、奄美大島、種子島、屋久島、長崎、宮崎、和歌山など、日本でもウミガメの産卵は確認されています。
見つけたら興奮して近づいてしまいそうですが、ちょっと待って!
ただでさえ絶滅の恐れがあるウミガメ。カメたちにストレスを与えないために、エックスマウスで定められている以下のルールを参考に、カメの産卵を見守りましょう。
母カメの巣作りに遭遇したら:
・少なくともカメから15メートル離れてください。
・巣作り中のカメに近づくときは、カメの後方から這いつくばって近づきましょう。
・常にカメの後方に身を置いて、カメの視界に入らないようにしましょう。
・母カメが海に戻るときは、彼女と海の間に入らないでください。
子ガメの孵化に遭遇したら:
・海に向かって一生懸命歩いている子ガメを助けないでください。
子カメが自分の力で海までたどり着くことが、自然界で生き残る可能性を高めます。
・子ガメは足跡に引っかかる場合があります。彼らの道を横切るのではなく、横に立って見守ってあげてください。
いずれの場合も共通して言えることは、フラッシュ撮影や光を発さないこと。
カメを見守るときは一定の距離を保ち、ゆっくりと移動し、低い姿勢を保ち、できるだけ動かないことが大切です。
オーストラリアではウミガメの産卵は11月から3月ですが、日本だと5月から8月ごろまでの夏の時期です。
今年の夏、もし運良く産卵に遭遇したらこのルールを思い出して、安全に楽しくカメを見守ってあげてくださいね!
Text:Kanae Hasegawa