2012年夏、神子元島
Mikomoto Island / 神子元島
ハンマーヘッドシャークを求めて伊豆半島最南端の海へ
Mikomoto Island / 神子元島
ハンマーヘッドシャークを求めて伊豆半島最南端の海へ
- Text
- 寺山 英樹
- Photo
- むらい さち
- Special Thanks
- 神子元ハンマーズ
- Design
- Sana☆
今年もやってきました、ハンマーヘッドシャークシーズン!
一昨年は10年に一度の奇跡、昨年は100年に一度の奇跡と呼ばれるほどの大フィーバー。
はたして今シーズンはいかに!?
足かけ15年、未だハンマー未体験の“持ってない男”がいく。
のるかそるかのハンマーギャンブル。
結果やいかに!?
初めて神子元島で潜ったのは、およそ15年前の学生時代。
当時は完全無欠の“上級者の海”とされ、真っ黒なスーツに身を包んだ常連客の「君にこの海が潜れるのかい? 坊や」というオーラに気後れしながらおっかなびっくり潜ったことを昨日のことのように思い出す。エントリーすると、マスクが飛びそうなほどの激しい流れで、水中でもおっかなびっくり潜っていたが、向こう側が見えないほどのタカベの群れ、というより“壁”に衝撃。のち大感動。以来、群れ群れの海に魅せられ、年に1度程度は潜っていたが、15年積み重ねた結果、確信したことがある。それは、ハンマーヘッドシャークは幻。あるいはドッキリ。というか、ツチノコ?
あれから15年。2012年夏のとある火曜日の海の中。その日もイサキが湧き、タカベが降り、中層で衝突して大爆発。そしてどこか遠くでハンマーが出ているらしい、チリンチリン!という水中ベルの幸せの音。転じて、こちらにとっての呪いの音……。
15年変わらない、僕にとってのいつもの神子元。
出た!ハンマー!
しかし、いつもと違うその時は不意にやってきた。潜り始めておよそ20分。『チリンチリン! チリンチリン!』どうせまた別の班……あれ? 近い? ひょっとして自分の班!?
辺りをグルリと見渡すと、神子元ハンマーズの店長ガイドのまことさんが水面を指さし、「出た!出た!」と全身で叫んでいる。さらに、指さす先を見ると、とっくにガイドを追い越した常連ダイバーたちが猛ダッシュ。その視線の先にあるものは、もちろん想像はつくが、僕からは何も見えない。群れに夢中ですっかり出遅れてしまった。
よし、と気合を入れて、抵抗を減らすために頭を下げ、フィンのしなりを活かせるよう、ヒザの“抜き”を使ってキックの回転数を上げてダッシュ。ひたすらダッシュ!息も絶え絶え、先頭ダイバーと数メートルの距離まで近づくと、夢中でシャッターを切っているその様子から、そのすぐ目の前に積年の夢があることは明か。そこからは、最後の力を振り絞り、顔を上げ、夢に向かって前を向きながらダッシュ。すると、プランクトンの靄もやが徐々に晴れ、その美しい流線型がボウと浮かび上がってくる。ボウ、ボウ、ボウ、ボウ……群れだ!
ついに、30匹近いハンマーの編隊との出遭いを果たしたものの、ダッシュし続けないとあっという間に置いていかれるため、ゆっくり観察したり、感動を噛みしめる余裕はない。ひたすらキックし続けながら、目を剥き、粘着性のある涎を飲み込み、とにかく心の中で「見た、見た、見た」とただただ繰り返すのみ。やがて、疲れて果て、キックを止めて、遠ざかるシルエットをボ~っと見つめているとそれまでカーッとしていた頭のエンドルフィンに積年の思いが加わった脳内麻薬でも分泌されるのか、得も言われぬ幸福感に包まれる。この“ハンマーズハイ”は、癖になる。
2012年夏。7月末の爆発。
2012年シーズン、最初のハンマー爆発は7月末。Aポイントと呼ばれる場所で、ハンマーが川の流れのように群れる、いわゆる“ハンマーリバー”と言ってもいい100匹オーバーの群れが登場し30分ずっと見られる状態に突入!さあ、いよいよハンマー祭り……と思った直後に台風の影響で、黒潮も離れ8月はやや苦戦。さあ、9~10月はいかに!?