水中写真家・越智隆治がダイビングや撮影時に見舞われたトラブル体験談(第6回)

水深30mを超えるとエアの供給がストップするレギュレーター 

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パラオ(撮影:越智隆治)

最近では、レンタル器材も、サービスによってはクオリティの高いしっかりしたものが多いので、安心して潜れることも多くはなってきているのだけど、やっぱりちょっとしたフリーフローを起こすレギュレーターがあったりして、見上げての撮影のときにフリーフローして出るバブルが写真の中に入ってしまって、「邪魔だな~」と思うこともあったりする。

まあ、それくらいなら、安全には大して問題では無いからいいのだけど、今回は、深度を下げるとエアの供給がストップするレギュレーターの話。

パラオでのロケ中。

このときもレンタルギアで潜っていたのだけど、器材チェックのときに、吸気すると、残圧計の針が多少振れるのでちょっと気にはなっていたのだけど、エアの出が渋いわけでもないから大丈夫かな、と判断して使用していた。

通常のダイビングを何回かこなしても問題なかったので、針の振れも忘れていた。

リーフトップが水深40mと深く、水深20m付近を流しながら、バラフエダイの群れとロウニンアジの群れ狙いをする上級者向けのテールトップというポイントを潜ったときのこと。

しばらく流していると、目の前に黒い巨大な塊が見え出した。
バラフエダイの群れだ。

パラオのバラフエダイの群れ(撮影:越智隆治)

しかし、ここで慌てることなく、バラフエダイの群れを広々としたコーナーの先端部分に追い込み、そこにいるであろうロウニンアジの群れとコラボさせるのが目的。
その確率は30%あるかないか……、そんな風にガイドのEさんに言われていたので、慎重に、慎重に、周囲の状況を確認しながら追い込みをかけていた。

しばらくすると、水深40mのリーフ下から、ワラワラとロウニンアジたちが湧き出してきた。
「よっしゃ~!! 来た~!!!」とこちらも臨戦態勢で、まるで戦闘に入る戦闘機のように深度を下げていく。

ターゲット(被写体)に迫っていく、この瞬間がたまらなく、いつもワクワクする。

「ウィ~~~ン」と心の中で叫びながら、急降下! そしてロックオン! 撃墜! カシャカシャカシャ! と、普通ならなるはずだったのだけど、水深30m手前で、残圧系の針の振れが激しくなり、エアの出が不規則になってきた。

ガタガタと激しく振動を起こし、油圧の上がらない飛行機みたいに……。

「う、ど、どこか被弾したのか!?」って、そんなことあるわけないのだけど、正直、ちょっとやばいかな~と思いながらさらに下降(潜降)。

少し躊躇する僕を尻目に、ガイドのEさんは、すでにロウニンアジやバラフエダイと同じ高度(深度)に達し、敵機に取り囲まれながら激写を続けていた。

「なにくそ~、これしき~」と、そこに加わるべく、水深をさらに下げたそのとき!

完全にエアの供給がストップした。

「渋くなる」という多少の余裕もなく、急にだ。
しかも、残圧系は0を指している。
さっきまで100はあったのに。
いくら吸ってもエアは出てこなかった。

「こ、これはまずい!」

完全にエンジンがストップし、墜落する戦闘機。
そんな状況だ。
と、ここで戦闘機乗り気分でいてはまずいと心のどこかで、本当のエマージェンシースイッチが入った。

深度は34m、頼りになるガイドのEさんは、僕より、数メートル下で撮影を続けていた。
まだかなり離れているし、自分のエマージェンシー状態には気づいていない。
その深度まで降りてエアをもらうべきか、深度を上げて、エアの供給が復活するのにかけるか……。

上には、この深度まで降りて来ないゲストの人たちが数名。
最悪はあの人たちの誰かからエアをもらうしかないか。
もうこれは、下より上だ上! と判断し、水深30m以浅まで浮上した。

そのとたん、0で固まっていた残圧系が復活して、残圧計の針が大きく振れて、吸気できるようになった。
正直、「助かった!」と思った。

しかし、安心したとたん、またベストの深度まで降りれないのがちょっと悔しくなり、もう一度慎重に深度を下げて30mを越えてみた。

またもや針が0を指し、吸気がストップ。

「まじか~、あと少しで良いアングルまで到達できるのに~!!」と僕が恨めしそうに眺めるその位置では、ガイドのEさんが激写を続けている。
時折、上を確認し、僕と目が合うと(どうしたんですか? 降りて来ないんですか? エア無いですか?)と言うような顔を僕に向けてきた。

「エア、無いんじゃないくて、出ないんだよ~~うう」

という悲しい顔をマスク越しにしてみても、わかってもらえるわけもなく、またもや水深30m以浅まで深度を上げてみると吸気が復活。
もうこの手しかないと吸気0になる直前まで、降りて息を吸い込み、その後、数m下まで息堪えして、撮影し苦しくなる直前に息を吐きながら水深30m以浅まで戻り、吸気。

それを何度か繰り返して撮影を行った。

30m以深で、急に吸気が完全にストップしただけでも、通常はパニックの原因になる。
何がストップした原因かを冷静に考える余裕もなくなる。

はっきり言ってベールアウト(予備タンク)も持たずにこれをするのは危険だから、決してやってはいけない。
ベールアウトを持っていたとしてもやるべきではない。
ただのファンダイブであれば自分も当然そんなことせずに、吸気できる深度で激しく動かずに待っていたに違い無い。

取材で訪れて、目の前に最高のシーンが広がっているのに踏み出せないでいることは、プロカメラマンに取ってはエアが出ないことよりも悔しいことだったかはわからないにしても、パニックにならないでいられる要員の一つであったかもしれない。

エキジット後、レンタルギアの吸気がストップしたことを説明し、予備のレギュに換えてもらった。

それと同時に、Eさんが撮影した写真を見せられて、「いや~凄かったですね~!」と言われると、やっぱり潜降して、Eさんのセーフセカンドをくわえて撮影すれば良かった、と思ってしまったのは言うまでもありません。

ということで、残圧計の針が振れる場合、浅い水深ではそれほども問題を感じないのですが、深度があると吸気がストップする可能性があります。
もし、レンタルギアや自分のギアでそのような症状が出たら、交換してもらったり、即修理に出した方が良いと思った出来事でした。

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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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