タイのシミラン諸島で、マンタ撮影中にエア0
タイのシミランでのダイビングクルーズ中、コボン島でマンタ狙いのダイビングを行なった時の事。
いつも取材のときに、一緒に潜るガイドのKちゃん(男性)に、マンタに絡んでもらい、もう一人のガイドのJ君が、マクロカメラを一台持って潜ってくれていた。
早速、マンタを見つけて、撮影のために激しく追走を繰り返し、他のダイバーも混じって、海中は空中戦状態。
他のダイバーに先を越されないために、全力で追いかける。
当然エアの消費は速くなる。
マンタを追走する水深25m、突如嫌な感覚を感じた。
し、渋い……。
すぐにエアゲージを見た。残圧ほぼ0。
慌てて呼吸を整えて、前方を見る。
モデルを頼んだKちゃんは、マンタの追走を続け、止まっている僕には気づかず、どんどんと離れて行く。
こ、これはまずい。
急浮上しなければいけないのか……。
咄嗟に周囲を見渡すと、少し離れた所を、僕のマクロハウジングを持って、ゆっくりと近づいて来る、J君を見つけた。
た、助かった!
自分は、極力冷静さを保ちながら、少ないエアを節約し、J君に接近、エアが無いジェスチャーをする。
J君は、一瞬「え? 何っすか?」という表情をした。
ファンダイバーと違って、僕らは、ケアしなくても大丈夫なプロと思われがちなところがある。
何か起こったとしても、当然ゲストが優先され、僕らはどちらかと言うと、サポートに回る側、最終的にはスタッフ要員と考えられる場合が多いように思う。
まあ、それはそれでいいんだけど、このときは、まじでエア無かったので、(とにかく、オクト頂戴!)と激しくジェスチャーしてJ君を見る。
しかし、返ってきた反応は、(オレ、オクトつけてないっすよ)だった。
(え〜〜〜)と一瞬、J君の器材を見回すが、確かに無い。
(ど、どうするんだよ)とまたJ君の目を見ると、(じゃあ、これ、使いますか?)と自分がくわえているレギュを渋々と差し出した。
自分も一瞬、(え〜、J君とバディブリージングか〜)と思ったけど、すでにそんな悠長な事言える立場でも無いので、素直に受け取ってバディブリージングしながら浮上を開始した。
ちなみに、バディブリージングのやり方は以下。
1.
バディのところへ行って「空気が無い」と「空気をくれ」のシグナルを出す
2.
バディはこのシグナルを見たら、自分が呼吸していたセカンドステージを渡し、受け取ったら2回呼吸します。
このとき、バディはセカンドステージから手を離さず、パージ・ボタンを手で覆わないようにしてマウスピースに近い位置のホースを持ちます。
(レギュレータ・クリアのために、パージ・ボタンはいつでも使えるようにします)
3.
バディ・ブリージングが始まったら、向き合ってお互いに相手をつかんで身体を安定させます。
バディは右手でセカンド・ステージを持ち、左手で相手のBCDかタンクのストラップをつかみます。
空気をもらう側も、右手で同じように相手をつかみ、左手でセカンド・ステージを自分のところへ持っていきます。
4.
息を2回すったら、バディにセカンド・ステージを返します。
絶対に息を止めず、レギュレーターをくわえてない間は「アー」と言う声を出して少しずつ息を吐き続けることを忘れないようにします。
5.
バディも2回息を吸い、セカンド・ステージを返します。
お互いに力を抜き、リラックスして一定のリズムで出来るようにしておきます。
6.
リズムができたら、バディ・ブリージングをしながら一緒に浮上します。
しかし、正直、男同士で向き合ってバディブリージングしてるのは、どうも気まずい。
限り無く気まずい。
周囲には、他に沢山ダイバーがいたし。
僕は向き合う事を避けて、少し体を反対方向に向けていた。
で、何度か、2回の呼吸を繰り返し、浮上を続けている間に、ちょっと悪戯してみたくなった。
僕が2回吸い終わって、J君がレギュを受け取ろうとしたので、その手を遮り、3回目の呼吸に入った。
すると、(何してるんすか〜!レギュ下さいよ〜!)と言う顔を向けて、奪い返してきた。
……まあ、当然の事だけど。
海面まで浮上すると、J君が「何でエア0なんすか〜!」と浮上するなり言ってきた。
自分も「しょうがないだろ! 激しく泳いでたんだから! それより何で、オクト付けてないんだよ!」
「だって邪魔なんだもん」とJ君。
確かに、器材の性能が良くなった昨今、あまりオクトを使う機会は無いかもしれない。
それは、スノーケルやグローブを付けずに潜っているのと同じように、普段のダイビングをしている分には、必要の無いものなのだけど、エマージェンシーの時には必要なものと実感。
かわいい女性とであれば、バディブリージングの方が、ちょっと嬉しいかもしれないけどね。
まあ、相手は当然迷惑だと思うけど。
船に戻ってしばらくしてから、Kちゃんが戻ってきた。
「何で急にいなくなっちゃうんすか〜。探しましたよ」の一言に、「いなくなったのはお前だ」と言い返したのは言うまでもない。
この経験以降も、取材先で借りたレンタルギアに、オクトが付いていない所が何件かあった。
何も言わないのだけど、やはり通常のダイビングと違い、激しく移動をして撮影することのある自分としては、何かのときのために、オクトは付けていて欲しいな〜と思うのでした。