水中写真家・越智隆治がダイビングや撮影時に見舞われたトラブル体験談(第1回)

マーシャルで、船の沈没を防いだ物は?

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マーシャルのビーチと青い海と空(撮影:越智隆治)

10年以上前、マーシャル諸島での話。

ガイドのS君、釣り大好きなマーシャル人スキッパーのRさん、ボートクルーのマーシャル人のWが、僕とゲスト数人を乗せて、ファンダイビング&撮影に出かけた。

潜ったのは、チャネルのポイント、アクアリウム(今もあるのかな?)。
ギンガメアジやインドオキアジなどの群れが見れるポイントだ。

ただ、ゲスト全員がエントリーするとなかなか近よれなかったので、僕が先に一人で撮影に入り、反対方向からエントリーしたS君とゲストの方に、群れを追い込みながら撮影して、最終的には挟み撃ちして両方から群れを堪能しようという話になった。

ゲストは、その追い込む先のリーフ上にいれば、激しく動かなくても良いという算段だ。

何度も潜っていたから、追い込む先はわかっていたので、先にエントリーして、撮影しながら群れをリーフの方へと追い込んだ。

マーシャルの魚の群れ(撮影:越智隆治)

その先には、10数分インターバルを置いてエントリーしたS君とゲストたちの姿が。
(おっし、ちゃんと撮影もできたし、皆に見せる役目もちゃんとこなせたな)と意気揚々と、皆より少し早めに一人でフロートを挙げてエキジット。

海面に浮上すると、当然の事ながら、周囲を見渡して船を探す。
船は、このポイントをダイビング中の待機ポイント、カロリン島の手前にいるように見えた。
僕のエキジットポイントから少し離れていた。
多分200~300mくらいか。

マーシャルのボートと青い海と島(撮影:越智隆治)

(おい、おい、フロートに気づいたんだったら、ピックアップしに来てくれよ)そう思ったのだけど、どうも様子がおかしい。
しばらく様子を見ていると、島から花火が上がった。

(あれ?花火?)その花火に見とれて、ピックアップを忘れているのか? と思ったが、どうやら違う事に気がついた。
花火ではなく、発煙筒。

島からではなく、今まで乗っていた船からその発煙筒は上がっているらしかったのだ。

(何何〜?)と目を凝らすと、クルーのWが手を振って、さらに発煙筒を上げている。
(おいおい〜どうなっちゃったの? エンジントラブル?)そう思い、こちらを見てるならとフロートを大きく振った。
するとWは船に自力で泳いで戻って来いとの合図。

(か、かんべんしてくれよ〜)と思いながらも、不幸中の幸いは、快晴でべた凪、流れもほとんど無かった事だ。
それでも、カメラハウジングを2台抱えて、水面を移動するのは相当に疲れた記憶がある。

やっとの事で船にたどり着き、カメラハウジングをWに渡しながら、「喉かわいたから水ちょうだい、水!」と言って、ラダーを上がった。

すると、Wがニコニコしながら、紙コップに水を入れて持ってきた。
その水を飲み干すと、「Water!」と言って、船の前を指差す。

「え、水はもういいよ、ありがとう」と言うと「No! Water!」とさらに前を指差す。
だから水はもう良いって、と思ってふと前を見ると、船首のトイレのある船底部分が水浸し……というより、水に浸かって浸水している。

マーシャルのサンゴと水面(撮影:越智隆治)

「え? 何これ?」一瞬、状況が飲み込めなかったが、どうやら、エンジンの故障ではなく、船のどこかに穴が空いて浸水をはじめていたのだ。
僕は、Wに「何やってるんだよ! 早く助けを呼んで、水くみ出さないと!」と言って、近くにあったバケツで海水をかき出し始めた。

Wは、やっと集まってきたローカルボートに乗っていた人たちに乗り込んでもらい、バケツリレーで海水をかき出し続けた。

その様子に気がついた、別のダイビングサービスの船が近づいて来たので、事情を説明して、エキジットしてくるS君とゲストをピックアップして、カロリン島に上げて欲しいと頼んだ。

その間も、バケツリレーは続く。

徐々に水かさが減り、Wが穴を塞ぐために船底へ。
しばらくして、ニコニコしながらWが出てきた。

「もう大丈夫、穴は塞いだよ」。

その後も、完全に水をかき出すまでリレーを続け、どうにか沈没は免れた。
「何が原因だったの?」とWに尋ねると、どうやら、トイレの排水用の管が詰まって、それを直そうとして引っぱったりしていたら、千切れてそこから浸水が始まったとか何とか……。
記憶が曖昧なのだけど、とにかくトイレが原因だった。

「で、空いた穴はちゃんと塞いだの?」と尋ねると、ニコニコしながら、「大丈夫、さっきタカが飲んでいた、紙コップのサイズがピッタリだったから」。

「え〜? 紙コップかよ、もうちょっと、こう安心できるもので塞げないの? 発砲スチロールとかさ〜」。
まあ、紙も発砲スチロールもさほど違いなないか。

いずれにしても、浸水は止まり、僕は島に待たせていたゲストは別の船に乗せて、ショップに戻るものと思っていた。
しかし、その後、Rさんは、S君とゲストをピックアップして、次の言葉を発した。

「じゃあ、次のポイント向かいますね〜」

さすがに、(え〜、まだ潜るの?)と思ったのだけど、ゲストも黙ってはいるけど何も言わないし、まあ、何が起こっていたかを目の前で見ていないから当たり前だったかもしれないけど。

僕は、ゲストに気を使い、「あ、クーラーボックスに冷たく冷やしたココナッツありますけど、飲みますか?」と尋ねたけど、「飲みたい」と言った人は一人もいなかった。

問題だったのは、ウォータージェット推進のボートのエンジンの一つが故障していて、蛇行運転しかできなくなっていたことだった。

いつも釣りの時以外は、てきと〜な顔してるRさんが、いつになく真剣な顔をして、蛇行する船を操船しながら、ポイントに行き、その後通常なら15分程度で戻れるショップまで、40分以上かけてたどり付いた。

帰りがあまりに遅いので、心配して港に出いた妻は、向うの方から、妙に蛇行しながら帰って来る船を見て、何事かと驚いたと言っていた。

この時乗船していたゲストの人たちに、S君がその後、どういう対応を取ったのか自分は知らないけど、僕個人的には、これも良くお酒の席などで話す、事後の笑い話の一つになっている。

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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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