久米島取材で一番記憶に残った撮影裏話 ~最悪の連鎖の中でのヒオドシベラyg撮影の結果は……~

ヒオドシベラyg

久米島の「ダイブエスティバン」のロケでは、生態に詳しいだけあって、激しく動くマクロ撮影をすることも多い。去年50歳の大台に乗り、いつまでその撮影に対応できるのかってことは、自分自身でもかなり気になるところだ。

未だにマニュアルフォーカス、ビューファインダーも使わない。
多少なりとも、老眼は入ってきているのだけど、今までと違うことといえば、ターゲットライトを以前より多用するようになったことだ。

でも、昔から暗ければ暗いほど集中力が増して、なぜか明るい場所で撮影するよりピントがしっかりきている写真が撮れることが多い。
それは今でもあまり変わっていないようだ。

ちなみに、エビ、カニやウミウシの撮影のときに、自分が思っているよりも、微妙にピンが甘い写真が多く撮れてしまうのは、この集中力の差なのか……。

久米島でのダイビングロケ最終日。

「ウーマガイ」というポイントのドロップオフ、水深30数mにいるスミレナガハナダイの求愛行動、あわよくば、放卵放精の瞬間を撮影しようということに。

しかし、このシビアな撮影をするうえで、まず、マクロ撮影するときに自分がいつも使っているSEA&SEAハウジングのフォーカス・ズームダイヤルの上につけるゴムカバーが初日に紛失していた。

これって、マニュアルフォーカスを使わない人には、どうでも良い代物なのだけど、自分みたいにマニュアルを多用する人間には、スピーディーかつ微妙かつ繊細なフォーカス合わせには、と〜っても必要なパーツなのだ。の、はずだ……。

少なくとも自分には、クジラやイルカを撮影するときに、絶対ワープフィンのLサイズでないと違和感あってダメってのと同じくらいに、重要なのだ。

まず、そのパーツがない状態でのシビアなフォーカス合わせに違和感があるのに、その日、エントリー後の僕の左手はなぜかヌメヌメしていた。
なぜ左手だけヌメヌメしてるのか理由がわからない。
右手は問題ないのに……。しかも、アームグリップも左手側だけヌメヌメ。

こ、これはなんなんだ! 気持ち悪い! と海中で左手をウエットスーツや岩に何度もこすりつけたりしてそのヌメリを取ろうとしたんだけど、触った岩の部分がそれ以上にヌメヌメして余計に手がヌメヌメしてきっちゃったりして、「ウォー! どうすればいいんだ、このシビアな撮影の前に〜!!」とひとり地味に葛藤を続けていた。

……が、スミレナガハナダイのポイントに到着すると、どうやらオスが婚姻色を出していなくて、求愛行動は行わないかな、という感じで、内心「あ〜良かった」とホッとしていた。

ところが、スミレがダメなら、これ! とエスティバンの川本さんがスレートに書いてきたのが、「ヒレナガヤッコのメスをクリーニングするヒオドシベラの幼魚」。

そして、確かにヤッコをクリーニング中のヒオドシベラygの姿が。

ち、小さい……多分1cmくらい。
しかも、垂直のドロップオフにある黄色いイソバナの中。
身体を固定する場所はない。

気づかなかったことにしようとわざと視線を背けるという僕の地味な抵抗をよそに、川本さんは思いっきりクリーニング・ヒオドシベラygにターゲットライトをあてまくる。
そして僕に熱い視線を向けてくる。

顔を背け、無理な態勢をとりながら横目でヒオドシベラygの様子を見ていたら、さらに問題が発生。

な、なんと、利き目の右目の1dayアキビュー・コンタクレンズがマスクの中で外れてしまったのだ。

ただでさえ見えにくくなっている視力。
裸眼では、1cmヒオドシベラygがどこにいるのかさっぱりわからない。

あまりにも激しく動きまわるのと、川本さんがライトをあてているので、かろうじて、もやっとした糸くずみたいのが蠢いてるのが確認できる程度になってしまったのだった。

それでもライトをあて、「撮って」と僕を見つめ続ける。
も〜、わかりましたよ。
撮ればいいんでしょ!撮れば!となかばやけになり、いつも使っているフォーカスギアのゴムカバーのない、とっても滑りやすいフォーカスギアをヌメヌメの手でつかみ、ヌメヌメのグリップを握りしめ、コンタクトレンズの外れた右目で、ちょろちょろと動き回るヒオドシベラygの撮影に挑むことに……、って撮れるわけねーだろ〜!!!こんな状態で!!

と水深30mで見た目は冷静そうに見えるけど、実際には、相当動揺していた僕は、以前鳥取の田後で、うねりのある中、天使の輪の“かわうぃい”ダンゴウオの幼魚を潰してしまいたくなったときと同じ衝動に駆られていた(実際には、潰していませんからね)。

「こ、こいつさえいなければ……」と思いながら、最後の手段に。
コンタクトレンズの付いた左目でフォーカスすることにした。

しかし、自分の左目、乱視が入っていて、ワイド撮影ならともかく、マクロ撮影には不向き。
でも、コンタクト外れてしまった右目よりかはなんぼかマシだ。

せめて少しの間でいいから、止まっててくれよ〜という僕の願いもむなしく、ヒオドシベラヤングは、黄色いイソバナの中を上へ下へ、右へ左へ、前へ後ろへと縦横無尽に逃げ回り、それを追いかける僕も、上へ下へ、右へ左へ。
それに合わせて川本さんも、上へ下へ、右へ左へ……。

こういうときに、いつも思うのだけど、2人で中性浮力と取りながらのこのシーンって側から見ていたら、どんな? とそんな事を想像しながら、せめて一カットでも合っててくれれば御の字と、なんとかフォーカスを合わせてシャッターを切る。

カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!

格闘を続けること数分。
僕はライトをあててくれている川本さんに、デコすみません、もう、十分です。表情を向けて、弱々しくオッケーサインを出した。

川本さんも、なんとなく、まあ、しょうがないよ、しょうがない。
というポーズとともに浮上した。

で、結果はどうだったかというと、

イソバナとウミシダの中に隠れて動き回るヒオドシベラyg

イソバナとウミシダの中に隠れて動き回るヒオドシベラyg

しっかりフォーカスが来ている写真が意外に多かったのでした。
やはり、こういう悪条件のときこそ、集中力が増すものなのだろうか。

それにしても、あのヌメヌメは、なんだったんだろう。

こんな感じで苦労しながら撮影した久米島のウエッブマガジンがアップされました。
何気ない1枚1枚にも、こんな風にいろいろな物語があります(ないときもあるけど)。
ぜひ、ご覧になってくださいね。

ワイドで魅せる久米島 久米島紀行part2
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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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