驚異の魚圧とモフモフサンゴ!伊是名島のダイビングポイントは想像以上に個性的だった
こんにちは、水中写真家の上出俊作です。
先日、沖縄本島北部からフェリーで1時間の離島「伊是名(いぜな)島」に行ってきました。
おそらく、「そんな島の名前聞いたことない」という方も多いと思います。
それもそのはず、伊是名島のダイビング情報は、これまであまりメディアで取り上げられていません。
僕自身、沖縄本島北部に住んでいるのに、実は最近まで、伊是名島と伊平屋(いへや)島の区別もちゃんとついていませんでした……(どちらの島も沖縄本島北部今帰仁村の運天港からフェリーで行けます。伊平屋島の南側にあるのが伊是名島です)
でも、ちょこちょこ噂は聞いていたんです。
「あの辺のサンゴはやばいらしいよ」と。
伊平屋島の水中写真は目にすることもあったので、せっかくなら、ダイバーにとって“未開の地”である伊是名島の水中を撮ってみたいと思いました。
そんなわけで、沖縄が本格的な夏を迎える(はずの)7月上旬、モッリモリのやばいサンゴを求めて伊是名島に向かったのです。
モッリモリのサンゴを撮る!
はずが……
6月末、沖縄地方では長かった梅雨がようやく明けました。
浅場に群生しているサンゴを撮影するにはどうしても太陽光が必要なので、これで一安心です。
ダイビング日程も4日間確保していたので、まあ何日かは晴れるだろうと高を括っていました。
しかし、7月初旬、北上したはずの梅雨前線が沖縄の近くまで南下してきました。
よって、伊是名島到着日の沖縄は大雨。風も強く吹き、ダイビングは中止。
2日目からは潜れましたが、前線はそのまま沖縄近辺にとどまり、毎日雨と曇りの繰り返し……
上のイソバナの写真を見てください。伊是名島滞在中、水中で太陽を確認できたのはこの一瞬だけです。笑
そんな状況だったので、もりもりサンゴの撮影はなくなく諦めました。
オーシャナ読者の皆さん、期待させておいてごめんなさい。いつかまたリベンジします。
サンゴ以外もすごい!
伊是名島の海の底力に圧倒
今回お世話になったのは、島で唯一の通年営業しているダイビングショップ「イゼナマリンサービス グイン」さんです。
「悪天候でも島の魅力を伝えられるポイントはないだろうか……」と、グインの代表、松村亮汰さんと相談を重ねました。
連日南西の風が強く吹き、潜れるのは島の東側のみ。
島の東側にあるポイントは、洞窟などの地形かサンゴ。そして砂地。
サンゴは太陽光がないと写真映えしない……
雨の日の洞窟は暗いだけ……笑
でも、砂地の根には魚がたくさんついてて華やからしい!!
これはもう、砂地に賭けるしかない!
ということで、今日は僕が独断と偏見で選んだ伊是名島の2大「砂地&根ポイント」を紹介します。
話の流れ上「サンゴを撮る代わりに行った」ということになってしまいましたが、正直、そんな言い方は失礼なくらい魅力的なポイントでした。
特にフォト派の方にとっては、この「勝手に2大ポイント」は、サンゴの群生以上に撮り甲斐があるかもしれません。
■「屋那覇のスカシ根」
伊是名島の南側に屋那覇(やなは)島という無人島があります。
島の東側には真っ白な砂地が広がっており、砂紋が美しく、ただ泳いでいるだけで「沖縄の離島に来たんだなぁ」ということを感じさせてくれます。
砂地には大小様々な根が点在しているのですが、個人的に一番気に入ったポイントが、この「屋那覇のスカシ根」です。
初日の打ち合わせの際、亮汰さんから「10m以上ある大きな根にスカシテンジクダイとキンメモドキが群れているポイントがあって、けっこう面白いと思います」と提案がありました。
「根が大きいってことは、スカテンもキンメもばらけちゃってて、写真映えはしないかもな……」咄嗟にそんな事を思ったのは、ここだけの話です。笑
実は僕、砂地大好き人間なのですが、砂地ポイントって見た目はきれいでも、写真としてまとめるのは難しかったりします。
「砂地+〇〇」という感じで、何かアクセントが欲しくなっちゃうんですよね。
そういう意味で、「群れ付きの根」というのは、僕にとってはご馳走です。
スカシテンジクダイやキンメモドキが居着いている根は、いろいろな所にありますが、写真映えするようなグチャッとした群れとは、沖縄に住んでいてもなかなか出会えません。
「群れがまとまってくれてるといいな……」と、不安を抱きながらエントリーしました。
ロープ沿いに潜降し始めるとすぐ、なんとなく間延びしてしまったような、横長の根がぼんやりと見えます。
しかし、水中が暗いこともあり、根は「ただの根」にしか見えません。
ところが水深10m前後まで潜降し、根の全容がはっきり見えた瞬間、度肝を抜かれました。
「群れがばらける」どころか、増え過ぎた小魚たちが行き場を失い、根の表面を覆いながら右往左往していたのです。
これほど密度が濃く規模の大きな群れは、少なくとも僕のダイビング人生の中では、見たことがありませんでした。
キンメモドキが根の窪みやサンゴの下など、隙間と言う隙間を埋め尽くし、スカシテンジクダイは落ち着く場所を見つけられずにいます。
黄金色のキンメモドキと白色に輝くスカシテンジクダイのグラデーションが、水中に夏が来ていることを感じさせてくれました。
「根&小魚の群れ」というポイントは、珍しくないですよね。
でも、「根&群れ&きれいなサンゴ」というのは、あまり見ない気がします。
このポイントでは、大きな根に元気なサンゴがたくさんついていました。
浅場のサンゴの群生は撮れませんでしたが、こんな形でサンゴを撮れると思っていなかったので、正直うれしかったです。
サンゴをアクセントに入れながら群れの撮影ができるというのは、伊是名島の魅力のひとつではないでしょうか。
ちなみにこのポイント、冬でも群れがちゃんと見られるんだそうです。
そして実は、夏よりも春の方が群れの数が増えるんだとか。
これより増えるって、どうなるんだろ。気になる方は行ってみてください!
■「屋那覇の東(あがり)」
ポイント名の通りですが、屋那覇島の東側にあるポイントです。
つまり、先ほどの「屋那覇のスカシ根」のすぐ近くというか、お隣ですね。
伊是名島のサンゴの群生は、どちらかというと島の西側が凄いらしいのですが、この「屋那覇の東」のサンゴも、西側に負けないポテンシャルを持っているとのこと。
僕も実際に、リーフの上を泳いでみました。確かに凄いです。テーブルサンゴや枝サンゴがびっしりと群生していて、まさに沖縄の原風景を見ているような気持ちになります。
しかし、天気が絶望的に悪く、水中は夜明け直後のようでした…写真がないのはお許しください。
さて、このポイントの魅力はサンゴだけではありません。
「スカシ根」とはまた違った雰囲気の根が、砂地でポツンと、ダイバー達を待ち構えています。
「ここの根はツツウミヅタというピンクのモフモフしたサンゴで覆われていて、ちょっと変わった雰囲気で面白いですよ」と、亮汰さんの奥様、妙子さんからブリーフィングを受けました。
正直あまりイメージが湧かなかったのですが、説明してくれている妙子さんがずっとニコニコしていたので、きっとホントに面白い根なんだろうなと思いながらエントリーしました。笑
エントリーしてから3分ほど真っ白な砂地を泳ぐと、遠くにぼんやりと黒い影が見えてきます。
ハイエースより一回り大きいくらいでしょうか? 遠くから見ると、何の変哲もない根です。
根に近づき、噂のツツウミヅタが見えた瞬間に「なるほど」と思いました。
確かに、根全体が「モフモフ」していて、なんだか癒し系です。
しかも「スカシ根」同様、根にはハードコーラルも結構ついていて、伊是名島のポテンシャルの高さをさりげなく感じさせてくれます。
ツツウミヅタとハードコーラルの間のわずかな隙間は、しっかりとイソギンチャクが埋めてくれてますね。
出たり入ったりするクマノミを見ているだけでも幸せな気分になれますし、ハナダイやスズメダイの幼魚もたくさん居着いていて華やかです。
普段あまりこういう風景を撮ることがない、というか、どちらかというと苦手な分野なので、どうやって切り取ろうかけっこう悩みました。
根が360°何かしらで覆われていて、どこから撮っても画になる反面、どこから撮るかなかなか決めきれないという難しさがあります。
結局、1本では満足できず、丸2本をこの根の撮影に捧げました。
先ほどの「屋那覇のスカシ根」もそうですが、根の撮影でここまでテンションが上がりっぱなしだったのは初めてかもしれません。
“伊是名島らしい”風景
通いたい海がまたひとつ増えた
当初予定していたような撮影はできませんでしたし、潜ることができたのも伊是名島のほんの一部ですが、それでも僕自身はこの島のポテンシャルを十分に感じました。
お天気が悪かった分「サンゴ以外の伊是名島らしさ」に目を向けることができたようにも感じています。
晴れていればあの光景も撮りたかったなとか、時間があればあのポイントでマクロも撮りたかったなとか、欲を言えばきりがありません。
でも、そんな事を思うというのは、「ここでしか撮れない写真がある」と感じている証拠なんだと思います。
また、通いたい海が増えてしまいました。時間がいくらあっても足りなさそうですが、うれしい悩みですね。
それでは、今日もここまで読んでくださりありがとうございました。
少しでも読者の皆さんの参考になればうれしいです!
■取材・撮影協力:イゼナマリンサービス グイン
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上出俊作さん
プロフィール
2014年、かねてから抱いていた沖縄移住の夢が抑えきれなくなり、製薬会社を退職し沖縄本島に移住。現在は「水中の日常を切り取る」をテーマに、海で暮らす生き物たちの姿を撮り続けている。
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