鏡開きはもう済んだ?海の中にいる、まるで“鏡餅”みたいなウニ

2023年を迎え、年末年始休暇からすっかり通常モードに切り替わってきた最中、編集部でも海の情報発信のための情報収集をしていると、ちょっとおもしろい生き物を見つけてしまった。それは、まるで鏡餅のような“ウニ”。「こんなウニいるの!? 」と衝撃を受けた編集部から、最後の年明けネタとして、この変わったウニをご紹介したいと思う。

まるで鏡餅なウニがいる?

このカガミモチウニは、日本近海からフィジー島まで太平洋西側の水深260〜1370mにかけて幅広く分布し、海底の沈木を餌にすることが知られている。大きさは殻径10mm前後で、最大でも18mmと、私たちがよく見かけるムラサキウニなどと比べるととても小さい。ただ、このウニには他のウニには無い明らかな違いがあるのだ。それはメスの個体にオスの個体がまるで“鏡餅”のように重なること。

他のウニでは報告がない、とても興味深い行動(写真提供:鳥羽水族館)

他のウニでは報告がない、とても興味深い行動(写真提供:鳥羽水族館)

鳥羽水族館ではこのカガミモチウニを長年観察してきた

三重県鳥羽市にある、日本屈指の規模を誇る水族館「鳥羽水族館」では、2013 年 12 月からカガミモチウニの飼育を開始した。しかし、飼育当初は、全国的にも重なる習性があることは知られておらず、なんと飼育中に偶然、ウニの重なる行動に気付き、よく観察していく中でこの行動は習性であることが明らかになったのだという。

また、同じく飼育当初はこのウニに「Prionechinus forbesianus」という学名はあったものの、和名が無かったのだという。そこで、鳥羽水族館はこのウニの重なる姿がまるで鏡餅のようであることから、2020 年 4 月に鳥羽水族館の年報において、行動報告と和名「カガミモチウニ」の提唱をしたのだった。まさに見たままのネーミングで、非常に覚えやすい(笑)。

メスの上に乗るオスの方が小さい(写真提供:鳥羽水族館)

メスの上に乗るオスの方が小さい(写真提供:鳥羽水族館)

上下の大きさもちょうど良いバランスで、鏡餅っぽさをより強めている(写真提供:鳥羽水族館)

上下の大きさもちょうど良いバランスで、鏡餅っぽさをより強めている(写真提供:鳥羽水族館)

なぜ“カガミモチ”のように重なるのかは、未だ謎に包まれたまま

カガミモチウニがなぜ重なるのか?2013年から観察している鳥羽水族館でさえも決定的な確証ある理由は未だ明らかになっていないという。しかし鳥羽水族館は観察を続ける中で、下記のオスの行動を確認していた。

・ただ、メスの上に乗っかる行動(Normal)
・メスを押さえつけるように棘を下げる行動(Hold)
・ペアに近づいた単独オスを上に乗ったオスが排除しようと押し出す行動(Pushing)

しかし、上記3つでは、まだこの行動の理由がわからない。そして2021 年2月頃からオス(上に乗った個体)の以下2つの特異な行動がときどき確認されるようになったのだという。

・管足をピンと上に伸ばす行動(鳥羽水族館では仮称で、この行動を Banzai と呼んでいる)
・棘を束ねて管足を激しく上下する行動(Drumming)

上記2つの行動を確認した2ヶ月後にメスが産卵したことから、上記の行動はメスの産卵を促す行動ではないかと考えているという。しかし、産卵の瞬間に上に乗った雄の放精は確認できておらず、この重なる行動が直接的な繁殖行動なのかは証明できていないそうだ。

ペアに近づいた単独オスを上に乗ったオスが排除しようと押し出す行動(写真提供:鳥羽水族館)

ペアに近づいた単独オスを上に乗ったオスが排除しようと押し出す行動(写真提供:鳥羽水族館)

カガミモチウニはお正月に関係なく重なる

鳥羽水族館では、年間を通じて水温 10°Cで飼育していたためか、重なり行動に季節よる変化は見られない。また、個体識別をするのが難しいため、年間を通じて重なるのかはっきりしていないが、おそらくときどき離れているそうだ。

ちなみに過去には、オスが 42 日間メスの上に乗り続けて 1 日だけ離脱、その後 10 日乗り続けてまた 1 日だけ離脱、その後 9 日乗り続けた例(観察期間 63 日)。そして44 日間重なって、1 日だけ離脱、その後 12 日間乗り続けて再び離脱したこともあるという。ただし⻑期間にわたって同一ペアで行動を観察したのは、この 2 例のみだという。もしもこれが繁殖行動だとしたら、1ヶ月以上というのは長い気もするが…、真相はウニに聞いてみないとまだまだわからないというところだ。

今回、お話を伺った鳥羽水族館では、現在、カガミモチウニの飼育(展示)は休止中。なかなか入手ができず、入手でき次第、展示を再開予定だという。展示が再開された暁には、ぜひ一度その生態を間近で見てみたいものだ。

情報・写真提供:鳥羽水族館
▶︎鳥羽水族館ホームページ

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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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