「深海を見に行こう!海洋プラスチックごみの今」に編集部が参加してきた

7月31日、深海について学べるオンラインイベント「深海を見に行こう!海洋プラスチックごみの今」が開催された。子どもから大人まで幅広い層を対象にしているこのイベントは、実際に深海を旅しその目で深海を見てきた深海の専門家から、深海のおもしろさと海洋プラスチックごみの現状を聞くというものだ。65名ほどが参加した本イベントに、オーシャナ新入りのセリーナも飛び入り参加。驚きあり笑いありのイベント内容と、子どもやママさんといった参加者の声、そして深海の専門家からの声を紹介したい。

イベント概要

講演者は、JAMSTECの元上席研究員・加藤千明先生と、現役研究員・磯部紀之先生。お二人は同組織が所有する潜水調査船「しんかい6500」に乗船し、深海をその目で見てきた人物だ。イベントの前半では加藤先生から本イベントの数日前に行われた「うみの環境しらべ隊(リサーチビーチクリーン)」の結果と考察について。後半では磯部先生から深海や海洋ごみについてのお話があった。

▼詳細はこちら(イベント告知記事)
「深海の映像あり。深海の現状を目の当たりにした人物が語る未知の世界」

1、加藤先生から(うみの環境しらべ隊について)

▶︎うみの環境しらべ隊とは
神奈川県・腰越海岸で行われた「うみの環境しらべ隊」。これは25cm×25cm×5cmの範囲で砂を回収し、その中にどのくらいのマイクロプラスチックが含まれているのか、重量を調べて記録し、全国各地の海岸の結果を加藤先生が論文として発表するというもの。

25cm×25cm×5cmでマイクロプラスチックを集める「コドラード法」という調査方法

▶︎結果と考察
2018年から行なっているこの活動だが、今回(2021年7月22日)のマイクロプラスチック量は1㎡あたり、約36gのマイクロプラスチックが見つかり、この数字は例年に比べ増加傾向。2020年11月28日に行われた神奈川県・材木座海岸(腰越海岸の横並びに位置する)での1㎡あたりのマイクロプラスチック量は28.4gなので、比較しても多いことがわかる。多い理由には、今回の調査日が台風後だったのでその影響なども考えられるとのこと。このあと加藤先生がより詳しく分析し論文にしてくださるというから楽しみだ。

リサーチビーチクリーンには子どもから大人まで参加した

このほかにもマイクロプラスチックが人間に与える影響やプラスチックがマイクロプラスチックになる過程など、科学的な観点から非常に興味深いお話しを聞くことができた。

2、磯部先生から(深海や海洋ごみについて)

▶︎プラスチック誕生から捨てられるまで
1950年代から生産されたプラスチック。現在に至るまでの生産された総量は83億トンにも及ぶという。これは東京スカイツリー230,000本相当。このうち捨てられたプラスチックは60億トン。東京スカイツリー150,000本相当にも及ぶ。さらにこの捨てられたプラスチックのうちリサイクルされた割合はたったの9%で、焼却されたのが12%、残りはすべて埋め立てまたは自然環境へと流出しているというから驚きだ。本イベントでは深海にも影響をもたらしているという「自然環境に流出したプラスチック」「自然環境に流出したプラスチック」について、メインでお話しいただいた。

▶︎海洋に流出したプラスチックごみの総量は…
海洋に流出したプラスチックの総量は1.5億トン(※1)。そのうち海に浮遊しているものは4500万トン。実際に浮いているのが確認できた量は44万トン。つまり、海洋プラスチックごみの99%が行方不明ということになる。粉々になって見えなくなっている可能性などあるが、深海に漂っていることも考えられるのだ。
(※1)Jambeck et al. 2015から

▶︎房総半島沖の水深6,000mから大量のプラスチックごみが
2021年3月にJAMSTECから、房総半島沖の水深6,000m付近で大量のプラスチックごみが発見されたという論文が発表された。この論文は潜水調査船に乗り、深海に行き、調べた研究結果をまとめたもの。総勢50名(船員35名、研究者15名)の一員であった磯部先生が、論文の結果をわかりやすく解説してくださった。

海には流れがあるため、渦ができる。世界には5つの大きな渦があり、その渦の真下の深海にごみが溜まっていると仮説を立てた磯部先生らは、房総半島沖にある小さな渦の真下を潜水調査船で調査することにした。JAMSTECが拠点を構える横浜の港から房総半島沖の深海まで母船で丸一日かけて移動。そのあと母船から海の表面に潜水調査船を着水させ、深海を目指していく。潜水調査船に乗っていられる時間は8時間だけと限られており、例えば水深5,500mまで2時間(片道)ほどかかるので、海底での作業時間は実質4時間程度ということになる。船内は狭く、身動きが取りづらいので足をつったりすることもあるという。乗り込む前の柔軟体操が大事だと、加藤先生もおっしゃっていた。

イベントでは相模湾の2019年に撮影された水深1,390mの映像を観させていただいた。海底の水温は2〜4度と冷たい。マリンスノーと呼ばれるプランクトンの死骸が一面に浮遊している中、深海魚もちらほら。そして、本題のビニール袋といったプラスチックごみもある。30cmあるナマコをもたくさん生息。そのほかにも、焼きそば袋やアルミ缶などさまざまなごみが見つかった。これらのごみは全て回収し、観察し、洗って、分析までする。調査の結果、ごみのなかで最も多かったのはポリエチレン(レジ袋など)のごみだったという。深海には太陽光がないので、ポリエチレンといったプラスチックごみはそのまま何百年も深海に残り続けるという。

日本各地の深海底で観察されたプラごみ。 加藤千明 (2020), 化学と生物, 58, 181-187.

3、質問タイム

質問タイムでは9歳の小学生も積極的に質問しており、環境問題を真剣に考える姿勢に驚かされた。「深海のごみはこれからどうなるんですか?」といった鋭い質問に加藤先生と磯部先生も感心していたようだった。質問タイムは時間が足りなくなるほど白熱し、一方的に質問するだけでなくディスカッションするような場面もあり、とても有意義で貴重な時間になったのは間違いないだろう。

4、参加者の声

「子どもと一緒に参加しました。以前、愛知県でビーチクリーンに参加したことがあり、子どもたちは興味津々でした。ごみとなったビニール袋といったプラスチックが、いずれ自分の体に戻って来るかもしれないというところが1番印象に残っていたように感じました。」

「多くの子どもたちが参加していることや環境問題に多くの子どもが関心を持っているとは知りませんでした。参加者の男の子が海の中のごみを拾えるようになるためにダイビング認定証を取得したいと考えている話がとても印象的でした。勇気をもらえました!」

「深海でもプラスチックが見つかることにびっくりしました。綺麗な海に見えるが深海にはたくさんのプラスチックごみがあることを忘れてはいけないと思いました。」

5、加藤先生の声

リサーチビーチクリーンでは各地の海岸のマイクロプラスチックの現状について科学的に把握し数値化して、論文公表を目指しております。しかしながら、やっていくうちに一つの問題点が見えてきました。それは環境イベントとしてこうした活動を行う場合、活動者や主催者らの「楽しく充実した活動をしたい」というバイアスにかかってしまい、マイクロプラスチックが多く目に見えるところで砂を回収することで、科学的にランダムなサンプリングを行い計測するということが難しいという点です。

今回の腰越海岸での計測データでもそうした傾向がみられておりました。その状況下でも、各地で同じようなバイアスがかかっていると仮定すれば、数値の比較に意味を見いだすことができますので、今後さらに検討を進めていきたいと考えております。そうした意味で、科学論文というよりは、環境教育論文のような形でまとめるのが望ましいと思いました。

深海に蓄積される海洋プラスチックゴミについては、今回のゲストスピーカーのJAMSTEC磯部さんのお話から、海洋に流失したプラスチックごみの99%が海中にそして深海底に蓄積されているということが、ご理解いただけたと思います。そのわずか1%の海洋漂流ゴミも、毎日のように海岸に漂着しており、皆さんで一生懸命やった海岸ごみ清掃活動の翌日に、また多くのごみが漂着しているのを見て、先が見えないことを実感された方も多くいらっしゃると思います。それの約100倍のごみが深海底に蓄積され続けているさまを想像してみてください。そう、今が時代の転換点であることを意識することが大切ですね。そうした意味で、皆さんの市民啓発活動がいかに重要であるかが実感されます。

6、磯部先生の声

今回のイベントでみなさまからいただいた疑問・質問は私たち研究者にとっては宝物のようなものです。今後も海を愛するみなさまに応援していただけるような研究を続けていきたいと思います!セミナーの最後にもお話ししましたが、新しい素材が未来に残るかどうかは、みなさまに買っていただけるかどうかで決まります。モノを買うときに、これはどんな素材でできているのかな?海にはやさしいのかな?とぜひ気にしてみてくださいね!

7、参加してみて(セリーナ感想)

子どもから大人までど幅広い世代が、楽しみながら深海や海洋ごみを学べる有意義な時間となった。お話の中では、世界一深いマリアナ海溝(10,898m)にもプラスチックごみは存在しているという情報もあり、もはや人間の手が及んでいない海はないのではないかと、やるせない気持ちになった。また、本イベントの主催者でもあるエシカルアクションの安江さんは、「まずは知ることが大事だ」「私たちの生活と深海は『遠いけれども繋がっている』ということを知ってほしい」とイベント前におっしゃっていた。参加者の声を見ても、それを実現できたイベントになったのではないだろうか。

《主催》

■「エシカル・アクション」

東京を拠点とする環境活動団体。主には海の磯焼け問題やゴミ問題の解決に向けて、街・ビーチでのゴミ拾い活動やワークショップ・セミナーなどを主催し、海の環境問題を伝えている。
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■「Pono Pono」

海のことをもっと知り、行動におこせるアクションをしたい!そして、一人でも多くの方に知るきっかけを提供したい!この想いで「海の豊かさ」を目指し繋がっている団体。知る「きっかけづくり」として、環境団体との勉強会やイベント、海岸のゴミ拾いなどの活動を企画している。
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《協力》

■「NPO法人チームくじら号」

子どもたちとそのまわりの人々に対して、自然科学教育・普及・コンテンツの制作・頒布に関する事業を行い、未来の地球を担う子どもたちの健全育成に寄与することを目的として活動している。
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■加藤千明先生

元JAMSTECの上席研究員。現在は自然科学教育・普及啓発などを行う「NPO法人チームクジラ号」代表。深海の生物をこよなく愛し、未来の深海研究者の発掘、育成に力を注ぐ。農学博士であり、専門は深海微生物学、バイオテクノロジー。

■磯部紀之先生

JAMSTEC研究員。海ごみ問題を解決すべく、海にやさしい生分解性素材について研究を行っている。農学博士であり、専門は生物材料科学。

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PROFILE
2018年、電子部品メーカーに新卒で入社。同時にダイビングも始める。平日は広報室で社会人としての経験を積みながら、土日は海通い。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。
現在はライターとしてネタ探しに目を光らせているが、海やダイビングについての記事を書けることに幸せを感じている。ダイビングをもっと広める!子どもたちの未来にも綺麗な海を届ける!そんな想いで日々活動している。