ダイビング×SDGs対談〜SDGsの観点からダイビング業界の未来を語る〜(第5回)

SDGsの観点からダイビング業界の未来を語る 〜ワーケーションという新しいライフスタイル〜[前編]

What’s SDGs

「Sustainable Development Goals」の略称。2015年の国連サミットで採択された、2030年までに達成すべき持続可能な世界的開発目標のこと。17のゴールと、それらを達成するための具体的な169のターゲットで構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを宣誓している。

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ocean +α代表の河本雄太が、SDGsの観点から様々な分野のプロフェッショナルとダイビング業界の未来について語る本シリーズ。今回は、株式会社オカムラのデザインストラテジストである庵原悠氏と、新しい働き方や環境を発信するメディア、「WORK MILL(ワークミル)」編集長 ・山田雄介氏をお招きし、SDGs8番目の目標である「働きがいも/経済成長も」にも紐付け、新しいライフスタイルとして注目される「ワーケーション」について語っていただいた。

※ワーケーションとは、「ワーク(労働)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語」働き方改革に伴い、新しい日常の一環として奨励されている。

SDGs、サスティナビリティという分野から、
今までの生活様式を変えていく

河本雄太(以下、河本)

いまワーケーションの機運がすごく高まっていると感じています。コロナ禍でのリモートワークの普及などの後押しもあり、僕が関わっている奄美大島・瀬戸内町の役場でもたくさんの職員が関心を示していて、いまワーケーションを盛り上げることに賛成いただいている状況なんです(笑)。しかしまだ、ワーケーションの「ワーク」の文脈がすごく強くて、「バケーション」の部分がまだまだ弱いと感じています。やはり僕が関わる以上、バケーションを楽しんでもらうことがすごく重要だと感じて。

以前、庵原さんに瀬戸内町に来てもらった時に、「Vacation as work」なのか「Work in vacation」なのか、要するにそこに目的があるから来るのか、ただそこでできるから来るのかでは意味が違いますよねって話してくれたことがすごく共感できたので、そのような意識をちゃんと取り入れながら活動ができたらなって思っています。そもそもお二人が思うワーケーションってどんなですか?

庵原悠氏(以下、庵原)

私が思うワーケーションは、基本的に「働きながら休暇をとる」、あるいは「休暇を取りながら働く」という考え方がベースにあると思います。そもそもワーケーションという考え方は日本人だけもので、海外にはそんな言葉は存在しないんです。なぜかと言うと、しっかり仕事をして夏や冬のバケーションには1ヶ月近く休みをきちんと取るというのは当たり前のことだから。

ただ「働き方改革」が推進されている中、「休むことはあまりいいことではない」という日本特有の風潮を文化として変えなくてはいけない。そういう世の中の流れがあり、「ワーケーション」という言葉が生まれてきています。そして、それが認められていくべきだと私は認識しています。

庵原悠氏(株式会社オカムラ 働き方コンサルティング事業部WORK MILL X UNIT/デザインストラテジスト

庵原悠氏(株式会社オカムラ 働き方コンサルティング事業部WORK MILL X UNIT/デザインストラテジスト

山田雄介氏(以下、山田)

私は、日本独自の働き方であり、生き方の可能性だと思っています。これから皆でワーケーションというものを作りあげ確立させていく。それを踏まえ僕の考え方としては、「ワーク」と「バケーション」を同時にシームレスにやっていく活動なので、両方の良いところを活かしながら発展して欲しいと思っています。

先ほど庵原も言ったように、海外では長期のバケーションを取り、しっかりと英気を養い仕事に戻っていく形が主流ですが、それを小刻みに働きながら英気を養うという短いタームに連続性を持たすことができるのがワーケーションかなと。そうすることで、ダイビングをはじめとしたアクティビティそのものが次の仕事のヒントやきっかけになったりすることが起こりうるのではないでしょうか。

山田雄介氏(株式会社オカムラ 働き方コンサルティング事業部WORK MILL X UNIT/WORK MILL編集長)

山田雄介氏(株式会社オカムラ 働き方コンサルティング事業部WORK MILL X UNIT/WORK MILL編集長)

庵原

たとえばフリーランサーの方とかは、そういうスタイルをすでに実践している方もいるかと思います。一方で企業勤めの方たちは、会社に行くことがある意味「仕事」みたいな定義が出来てしまっているので、まさにそこの考え方に乖離が生じてしまってるんでしょう。家にいても仕事が成り立つことが、このコロナ禍で証明されてしまいましたからね。

これからは働き方の柔軟性を上げていくことが、一つの「働き方改革」の重要なポイントになってくるのかもしれません。企業側から見てもメリットはたくさんありますよね。フリーランサーの方にダイビングなどのアクティビティをしながら働いている様子をどんどん出していただき、それで生産性が高くなっているんだという証明を見せ発信していくことが、ワーケーションの普及に繋がっていく重要な部分かもしれません。

ダイバーが取り組みやすいワーケーションの形とは!?

河本

先日、沖縄に撮影で行った時なんですけど、8時から船を出して潜る予定でしたが、太陽がまだ上がってないから9時くらいに出港しましょうってことになったんです。その空いた1時間の間にウエットスーツを着たままその場で仕事できましたからね。そして10時半くらいに帰ってきてから午後の撮影まで2時間空き時間には、打ち合わせや作業を行いました。一日のスケジュールを遊び優先で組み立て、その合間で仕事ができる時間を見つけるっていうワーケーションスタイルは、ダイバーには向いてるんじゃないのかなって思います。

すでにダイビングに関わっているインストラクターは、今までのツアーを組んでという従来のスタイルではなく、今日はこの時間が空いていますといったように、逆にお客さんに合わせてもらうインストラクターがそろそろ存在してもいいかも。

庵原

確かにそうですね。いわゆるインストラクターとしての仕事だけじゃない、兼業・複業のようなフリーランスのインストラクターが増えてくるのはすごく良いことだと思います。いまは、インストラクターをやりつつ違う仕事も持っているみたいな事が実現しやすくなっている。

そして、ワーケーションを行うなかで「まなび」ということが大切なポイントにあります。現地に出向き、自己成長や活力に繋げる「まなび」を求める要素は、今後もっと高まっていくはずです。たとえば個人としてダイビングに参加した時に、インストラクターの方が他にも仕事をしていたりすればそこで新しいビジネスマッチングも起こりうる可能性を秘めていますから。

参加者側の人も、渡航先での出会いや「まなび」から新たな繋がりが生まれるほど、高付加価値があるバケーションを求めるようになっていくはず。そういった意味で、今までの働き方には無い重要な魅力になっていくのではないでしょうか。

河本

ワーケーションにチャレンジしてみようと思う人は、感覚的にも先を見据えているし、自らが求める幸福感を自ら取りに行く人が多いかと思うのですが、そうではない人も存在しますよね。そのような人たちにワーケーションを広めていくには、どんな手段が効果的なんでしょう?

山田

そうでない方に向けては、ある程度のお膳立てのような形を取る必要があるかもしれません。ワーケーションに重要なのは施設だけでなく、地域やアクティビティの特徴を捉えたプログラムをどう用意出来るか。たとえばダイビングで考えると、ダイビングをするまでのプロセスにおいて、どのようにリスク回避やチームワークなど自分の仕事に活かせる「まなび」があるのか。それをプログラム化してどう提供できるのか。そこがクリアにできれば、ワーケーションで得るものや目的が明確化され、少し腰の重い個人の方や、自らは動きづらい企業でもチャレンジしてみるかってなるかもしれません。

庵原

実際に数年前からスノーピークビジネスソリューションズさんと一緒に行っている活動では、会社のチームメンバーでキャンプ先に出向き、アウトドア環境で共同作業を行う中でメンバー間の関係性について見直したり、プロジェクトのキックオフを行うといったことを研修プログラミング化してたりするんです。ダイビングで考えると海洋プラスティックの問題などから、よりSDGsに繋がりやすい部分があるかと思います。浜辺に行けばプラスティックゴミがあることにすぐ気づけますよね。そうした普段の生活で一見見落としがちな気付きは、子供も含めて分かりやすい話な気はします。

河本

そういう動き方は分かりやすいですね。現地で僕が「すごいな!」って感動するようなことって、地元の人からすると「そうなの?」みたいなリアクションが出たりするんです。その辺の感覚値って、入り込めば入り込むほど価値に気づかなくなってくる部分もあるんじゃないかって最近思うんです。逆にいうと、今まだその場に立っていない人たちは、価値を見いだせる人たちなんです。

庵原

そうだと思います。

河本

瀬戸内町に足を運んでいるのも、僕が関わり始めてからどのようにこの地域が変わって、どう成長していくのかを見ているのが楽しいからかも。僕を介して誰かを紹介したことで、そこに産業が生まれ街が盛り上がり始めるみたいなことって嬉しいじゃないですか。そのような活動の一番ハードルが低いところがワーケーションなのかもしれません。

今までダイビングは器材を買う、講習を受けるという意味では、絶対的に消費活動だったと思うんです。でも最近の若い子たちを見ていると、体験価値を上げるツールへと変化してきている。海のプラスティックゴミを拾うためには、海に潜らないといけない。だからCカードを取りに来ました。みたいなことです。そう考えると、遊びベースでワーケーション行きますって言うと会社もしぶしぶかもしれませんが、ダイビングを利用して学びに行ってきます、という形はあり得るのかなって思います。

[後編に続く]

庵原 悠 Yu Ihara
株式会社オカムラ
働き方コンサルティング事業部 WORK MILL X UNIT
デザインストラテジスト
庵原さんプロフィール画像
既存のデザイン領域を越えたクリエイティブメソッドの研究を行いつつ、製品開発やイノベーションセンター、コワーキングスペースなどの空間設計、新しい組織の働き方のコンサルティングなど、さまざまなデザイン・コンサルティングプロジェクトに携わる。慶應義塾大学SFC研究所 訪問研究員、中央大学 非常勤講師、グッドデザイン賞 受賞など。

山田雄介 Yusuke Yamada
株式会社オカムラ
働き方コンサルティング事業部 WORK MILL X-UNIT
WORK MILL編集長
山田さんプロフィール画像
学生時代を米国で過ごし、大学で建築学を学ぶ。住宅メーカーを経て、オカムラに入社。オフィス環境の研究、オフィスのコンセプトデザインを担当し、「WORK MILL」メディアにおいて編集長を務める。各種講演・講師、執筆を通してこれからの「はたらく」を考察している。一級建築士、認定ファシリティマネジャー(CFMJ)

WORK MILLプロジェクト
WORK MILLは働き方改革を支援するオカムラ発のプロジェクトです。企業だけでなく働き手である個人それぞれがこれからの働き方を描き、ありたい姿を目指すために、働き方や働く環境、生き方について多様な人たちと共に考える活動を行っています。オウンドメディアによる国内外リサーチ情報の発信、共創空間でのイベント開催を中心に展開しています。
https://workmill.jp/

河本雄太 Yuta Kawamoto
ocean+α CEO
オーシャナ 河本雄太
1981年生まれ。埼玉県出身。2016年より、海とダイビングの総合WEBサイト「ocean+α」を運営する株式会社オーシャナ代表取締役を務める。ダイビングショップ経営をはじめ、自然環境保護、地方創生などをキーワードに多角的な活動を続けている。

写真:中川司
文:中村竜也(R.G.C)

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PROFILE
東京都在住。ストリートカルチャー、ファッション、自動車・バイク、アウトドアを実際のライフスタイルとして持ち、そこから得た経験を軸に幅広いジャンルでフリーランスの編集者・文筆家として活動。
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