SDGsの観点からダイビング業界の未来を語る 〜ワーケーションという新しいライフスタイル〜[後編]
オーシャナ代表の河本雄太が考える、SDGsやサスティナビリティを通してダイビング業界の未来を考える対談企画。前編に引き続き、SDGs8番目の目標である「働きがいも/経済成長も」にも紐付け、新しいライフスタイルとして注目される「ワーケーション※」について、引き続き株式会社オカムラのデザインストラテジストである庵原悠氏と、新しい働き方や環境を発信するメディア、WORK MILL(ワークミル)編集長 ・山田雄介氏に語っていただいた。
※ワーケーションとは、「ワーク(労働)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語」働き方改革に伴い、新しい日常の一環として奨励されている。
ワーケーションを通じて働きがいを見つける
河本雄太(以下、河本)
ダイビングのようなアクティビティに携わる仕事って、人の感動値が分かりやすいと思っていて。シンプルに美しい海を見てなのか、苦労してCカードを取得した喜びにしても、働いている場所で隣にいる人が幸せになっていくのを感じられるのってものすごい働きがいだと思うんです。
庵原悠氏(以下、庵原)
それってすごいことですよね。私はどちらかと言うと、「働き方改革」という文脈で「働きがい」を捉えています。そう考えた時に今までの高度成長期から受け継がれた働き方と決定的に違うところは、「エンゲイジメント」という観点。会社に対する帰属意識や仕事に対してのやりがい、それと働きやすさに重きを置く。とにかく根を詰めて働かされるということではなく、制度的にも永続的に働きやすい環境が用意され、働くことに対する満足度を上げることを重要視するということ。労働人口が減っていく社会になってきていることや、労働生産性の低さが数字で出てしまっている日本は、そこを解決していかないといけません。
一方で河本さんも言っているように、そこで生み出したものが社会的課題を解決する例や、かつてないものを生み出すイノベーションに繋げる。ゴールという意味での働きがいにも紐付いたエンゲイジメントと社会的価値を生みだすという2軸が重要だと考えています。
山田雄介氏(以下、山田)
このコロナ禍、全世界規模で働き方の様式変化を体験しましたよね。僕は体験にまさるものは無いと思っていて。ダイビングもそうです、体験しないと、イメージ以上の素晴らしさに気づくのは難しいはず。そう考えた時にワーケーションをすることで発生するメリットとデメリットを把握しながら、新たな働き方を推進していくのが重要だと感じています。
河本
メリットとデメリットの把握はたしかに大切かも。奄美大島にいると「台風の被害とか大丈夫?」ってたまに言われるんですけど、含まれているのは「そっちで何かあったらどうするの?会社の責任でしょ?」ってことなんだろうなと感じています。
実際に、「そんなこと会社のせいにしないよ」って人と、「仕事で来てるんだから会社のせいでしょ」の2つに分かれるんです。そういのって感覚の問題でもあるんでしょうけど、大企業が自社の社員にワーケーションを推奨していくのならば考慮すべき大きな問題なんだとも感じています。
山田
細かい労務から懸念事項の解決まで、まだ整備しきれていない解決すべき大きな課題はあるでしょうね。ただ、実践していこうという企業が増えているのも確かです。そういう企業に属している従業員にワーケーションのような働き方をさせるのなら、同時に新しい制度も検討し、きちんと整備してくると思います。そのようなパイオニア企業が増えてくれば、後発的に続く企業も出てくると思うので、少し時間は必要ですが解決できる問題ではあると思っています。
河本
今後の未来としては、それを実践して上手くいっている企業に人が集まるんでしょうね。そして実践しなかった企業は置いていかれる。それって海の中の環境も一緒で、餌付けが問題になっている中、餌付けをやりたいユーザーもたくさんいるわけです。もし私のショップは餌付けをやめたとしてもA社とB社が続けていたらお客さんが取られるんじゃないか?みたいな考えがありやめられない。
でもすでに、良くないと思っていることを続けているって時点でストレスだし、お客さん側から「なんでまだ餌付けやってるんですか?」と言わせるように、メディアとして僕らは言い続けないといけないんです。結局自分が幸せじゃないと働き続けられない。それを作るための仕組みの一つが「ワーケーション」なんですよね。
庵原
働き方のフレキシビリティを上げ働きやすくするというのは、同時に従業員自身にも自律性を高めてもらわなくてはいけない、というのが実は裏側にはあって。フリーアドレスで場所を選んで働くとか、今日は在宅、明日は出社といったように、ちゃんと自分でスケジューリングするのって自律性が求められることじゃないですか。自分の選択に責任を持つことも、働き方改革の中ではすごく必要なことだと感じます。逆にそれができないとワーケーションみたいなことは成立しないかもしれませんね。
河本
様々な選択肢が増えてきているなか「あなたはどうするんですか?」という自己決断が迫られる時代の入り口にいま我々は立っているということなんでしょう。SDGsも含めて考えると、ごまかすことや嘘が付けない時代でもありますよね。
ダイビング業界のより良い発展に必要な課題って?
庵原
まだまだアーリーアダプターの中で起きている話ではあるかもしれませんが、ワーケーションの実践者として、ダイバーの方たちにはそうした働き方、生き方を堂々とアピールしていって欲しいと思います。それで成果が上がっているという事例が出るほど、世の中的には入り口が広くなるし、さらにオピニオンリーダー的な人が生まれてくると、面白くなってくるんじゃないかと思います。河本さんこそが、まさに立役者になりうる人だと思いますが(笑)。
河本
プレッシャーだな(笑)。何が成功かってどういう風に判断して出していったらいいですかね。
庵原
「心身健康的に働けています」とか「ワーケーションによってこんなイノベーションが生まれています」といったように、そこは具体的かつシンプルなのが良い気がします。そういう発信自体が、街自体にも貢献していることになりますから。
ワーケーションて「泊まる」「働く」「遊ぶ」「まなぶ」の4つの要素が必要と分析していて、その4つが整っている街って実は日本国内には多いわけではない。そういう視点からすると、まだまだ更新させなくてはいけない街や地域は多いはずなんですけど、その必要な要素っていうのは外から「持ち込める」ものだと思うんです。
自ら理想の環境作りに率先して入り貢献していくと、翻って自分に対してもいいことになっていく。その考え方は、僕も携わっている「共創の場づくり」と同じロジックなんです。忘れていけないのは、それにポジティブかつ楽しく取り組むこと。
山田
ホントそうですね。ロールモデルとパイオニアの成功事例をどう打ち出すかが大切。先程のSnow Peakもそうですし、Patagoniaも『社員をサーフィンに行かせよう』といった本も出しているような働き方をしていますよね。組織が率先して自社のビジョンに沿ったアクティビティを個人に対して許容し、身近に浸透させていくかが重要と思います。そしてそれらを体現する従業員たちが自然と周りに発信していってくれます。いまや情報は個人ベースで発信できますから。
庵原
自分が思っている以上に、オピニオンリーダーになる可能性がある時代ということです。
山田
カリフォルニア州サンディエゴ郊外の美しい海沿いにある、「ソーク研究所」という世界有数の生物医学系の研究機関があるんですね。もちろん研究所なのでみなさん研究が仕事です。
山田
でも驚いたのは、海が近い環境もあり、研究所内のその辺にサーフボードが置いてあったりウェットスーツが干してあったりするんです(笑)。かと思えば敷地内の芝生ではバレーボールをやっていたり。でも彼らは遊んでいると言うよりか、仕事のパフォーマンスを上げるための一環として、周りの環境を活用してリラックスしたり、アクティビティをしたりしているだけなんです。これこそが僕が思うワーケーションの理想に近い形です。
山田
今はまだワーケーションというものは非日常を求めて行くような存在だと思いますが、ゆくゆくはこの研究所の職員のように働き方の日常に入り込むことを目指すべきだと思っています。ダイバーの方たちも自分がどんな目的を持ってダイビングをやっているんだろうと認識して、日常のワークの部分に紐付けながら発信してもらえたら、私たちも参考やヒントにしていくと思います。
河本
たしかに、仕組みを作るよりもマインドを育てなきゃいけないと思うんですけど、仕組みがないと初めの一歩を踏み出しづらいのが日本人の大半なのかもしれませんね(笑)。
株式会社オカムラ
働き方コンサルティング事業部 WORK MILL X UNIT
デザインストラテジスト
株式会社オカムラ
働き方コンサルティング事業部 WORK MILL X-UNIT
WORK MILL編集長
WORK MILLプロジェクト
WORK MILLは働き方改革を支援するオカムラ発のプロジェクトです。企業だけでなく働き手である個人それぞれがこれからの働き方を描き、ありたい姿を目指すために、働き方や働く環境、生き方について多様な人たちと共に考える活動を行っています。オウンドメディアによる国内外リサーチ情報の発信、共創空間でのイベント開催を中心に展開しています。
https://workmill.jp/
ocean+α CEO
写真:中川司
文:中村竜也(R.G.C)
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