勝手に決めた飛行機搭乗前時間
ダイビング後の飛行機搭乗時間の話を聞くと、
少し暗い気持ちになる。
数年前、困った人から電話をいただいた。
心配性なのかクレーマーなのか……。
「飛行機に乗る前は18時間空ければ減圧症になりませんか?」
僕はダイビング指導団体などの例を出して、
その数字が推奨であり、多くのダイバーが根拠にしていることを伝える。
すると、
「絶対に大丈夫ですか?」
絶対と答えるのは気持ち悪い。なぜなら絶対などないからだ。
なので、学術的データの蓄積が少ないことや個人差にもよることを説明し、
そんなに心配なら24時間くらい空ければいいとアドバイスする。
すると、
「24時間空ければ絶対に大丈夫ですか?」
明らかに僕のミス。
この方は数字が問題なのではなく、絶対と言ってほしいのだ。
24時間と言ったところで意味はない。
僕はちょっとお役所的だったかなとも思い、
少しだけ進んだ言い方をする。
「僕個人の感触では、健康であれば問題ないと思います」
すると、
「ダイビング界としての統一見解ではないのですか?」と言う。
少しカチ〜ン。落ち着くんだ、自分。
繰り返し説明すると、
「では、一体何を信じればいいんだ!」と怒ったりする。
若かった僕は少し頭に血がのぼり、
「ダイビングは減圧症のメカニズムを理解し、
自分の頭で考える必要がある」を伝える。すると、
「人の命を預かる遊びでそんな無責任なことでいいのか!
しっかりとしたガイドラインがないとは云々かんぬん……」
いや、だからガイドラインはあるって言っているのに……。
しかし、確かに根拠となるデータが脆弱ともいわれているので、
彼の話も一理はある。
また、正直、面倒くさくなっており、丸くおさめたい気持ちも手伝い、
「○○さんのおっしゃることも一理あります。
より精度の高いデータをダイビング界全体で云々かんぬん」
とちょっとお役所的な答えをしてしまう。
すると、やつは勝ち誇ったことをいうので、
よせばいいのにこちらも再度ヒートアップ。子供ですね、はい。
侃々諤々が続いた後、向こうは
「じゃあ、何時間空ければ安全だか言ってみろ!」
頭に血が上った僕は、
「じゃあ、36時間!」
「じゃあとは何だ!」
「36時間で絶対に安全です!」
「もし36時間以上開けて減圧症になったら責任取れるんだな!」
「ええ、とれますね」
取れないだろ、俺。バカ……。
ということで、
「ダイビング後の飛行機搭乗までの時間は36時間で絶対に安全」と
僕の責任のもと決まっていますが、責任をとるのは嫌なので、
自分の頭で考えてください……。