大したことのない奇跡
出版に向けて記事をまとめていると、
「なぜ、文章が苦手だった自分が本を出すことになったんだろう?」とふと考える。
僕の中では、本を出すというのはとてつもなくすごいことで、
現実味のある話ではなかった。おとぎ話に近い。
頭の中で逆算が始まる。
まず、書くことに興味を持ったのは『マリンダイビング』に入社してから。
専門誌というのは、その専門分野、つまり僕でいえばダイビングに興味を持つ人と、
出版業界に興味を持って入社してくる2パターンある。
僕は前者。入社していざ記事を書くとなったときは、
喜びよりもまず思ったことは「困った……」だ。
しかし、書いているうちに、書くこと自体のおもしろさももちろん、
取材先の人たちや読者の反応が喜びとなった。
金をもらって感謝されることに「こりゃ、スゲェ」と。
つまり、書くきっかけはマリンダイビング。
マリンダイビングのおかげで、本を書く機会に恵まれているわけだ。
マリンダイビング、ありがとう。
では、マリンダイビングに入れたのは?
その大きな要因はイントラだったことだろう。
そして、それは体育会系のクラブがしっかりしていたことと、
クラブのダイビングがあまりにもつまらないので、
「イントラぐらい取っとかないといる意味がない」と思ったこと。
ダイビングクラブ、そしてつまらない体育会系ダイビング、ありがとう。
では、クラブに興味を持ったのはなぜだったっけ?
それは、大学入学時にきれいな先輩に勧誘されたからだ。
冴えない田舎者には、キャンパスで真っ黒に日焼けした女性は
とてつもなくかっこよく見えた。
きれいな先輩、ありがとう。
クラブ入部の直接の原因はきれいな先輩だが、
そもそも入学する前に「海に関わるクラブ」に入ると決めていた。
なぜかと考えれば海なし県である埼玉県出身だからだろう。
海が身近にある人がとてもかっこよく見えたのだ。
海コンプレックスを植えつけてくれた埼玉県、ありがとう。
ここまでで考えれば、出版できるのは埼玉のおかげだ。
さらに先を考えれば、埼玉に住むことになったのは、
そこを居住地として選択した誰あろう両親のおかげだ。
両親、ありがとう。
そんな両親も、出会っていなければ埼玉に住むことなかったかもしれない。
というか、もっと根本的にいえば自分が生まれていない。
となると、どうして両親は出会ったのか?
それは、看護婦だった母みどりと患者だった父スズオという、
B級アダルトビデオ的な出会いだったわけだ。
父スズオが母みどりの病院に入院したのは、
前の病院で、簡単だったはずの父スズオの手術が失敗したから。
おかげで、今でも父スズオは少し足が不自由だが、
うっかり手術を失敗しちゃった執刀医の先生、ありがとう。
父スズオが移った先の病院に母みどりがいたのは、
母みどりが看護婦を職業に選んでいたからだ。
成績優秀でスポーツ万能だった母みどりだったが、
高校には行かせてもらえず、手に職系の看護婦になったのは、
基本的には両親の離婚。
母みどりの両親の不仲ありがとう。
ギスギスした関係がまさかダイビングの本になるとは。
そして、出会った両親が僕を仕込んだのは、
両親の話から察するに、バレンタインデーでムラムラしたからだ。
チョコーレート業界、ありがとう。
そして、若くて貧乏だったのに中出ししてくれてありがとう。
父スズオは天地真理のファン。
母みどりは友達から天地真理似と言われていて、
髪型や格好も意識していたらしい。
お友達さん、おだててくれてありがとう。
父スズオはおかげでムラムラしましたよ。
さらに、父スズオが生まれなかったら自分がいない。
父スズオの父キンノスケは、
戦時中に潜水艦だが軍艦だかの乗り組み員。
そして、いざ出陣の直前に、
うっかり潜水艦だか軍艦だかのドアに手をはさんでしまい船を降ろされた。
そして、その船は撃沈。
じーさんのキンノスケさん、うっかり手をはさんでくれてありがとう。
もし、ダイビングワールドに就職していたら、きれいな先輩がいなかったら、バレンタインデーがなかったら、手術が成功していたら、母みどりが天地真理を意識していなかったら……。
奇跡だ! 自分、奇跡だ!!
しかし、大した理由で成り立っているわけでもないのがおもしろい。
じーちゃんのキンノスケも手をはさんだことが、
まさかダイビングの本に結びつくとは思いもよらなかったことだろう。
そう考えれば、この日記を書く1時間前に、
エロ動画を見ながらどこでイクか悩んでいた時間も、
ひょっとしたら未来のノーベル賞につながる可能性だってある奇跡の行動。
生きるってすごい(笑)。
であるなら、この奇跡の時間に感謝し大事につつ、
大した存在でもないので気楽に本を書けばいいわけだ。
とりえあえず、個人的には、本が世に出ることになったMVPは、
簡単な手術を失敗したヤブ医者。
いや〜よくぞ失敗してくれた。こいつが一番偉い。ここに表彰します。
※論理の飛躍&破綻に対するツッコミはなしの方向で。