暴れん坊夜将軍の取り扱い方

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最低でも週に3回はね、というほどではないが、「テックダイバーに適性ってありますか?」という類の質問を度々受ける。

あると思います。

そして、テックダイバーは自分の適性を冷静に把握し、自身の適性が通用する範囲内でダイビングを楽しむべきだ、と思う。
テックダイブとは、適性欠落領域に踏み込んだ状態で不具合が起きると、けっこう簡単に、本人はもとより、周囲をも危険な状態に巻き込む可能性が少なくない活動だからだ。

と、いうことで、テックダイバーにとって“適性”という事に関心を持つのはとても重要なこと。
今回からしばらくは、私自身の体験談も交えたりしながら、そんなこんなの話をしてみたい。

暴れん坊夜将軍の取り扱い方

この話に関して、実は、私、絶品の例え話を持っている。
それは、実在の人物を主人公とした実話盛り沢山の例え話で、名は体を表す、の法則でタイトルをつけるとすれば「暴れん坊夜将軍のナイトライフ武勇伝、達人と凡人の分かれ目はココとソコ」みたいな感じで、最高に分かりやすく、説得力もあり、盛り上がること必至の自信作で、よって、今回もご披露したくてしかたないのだが、しかし、私は後ろ髪の強烈な抵抗感に動じることなく、ここではそれを封印する。

この話のスタートボタンを公の場で押すと、相手方が握る私に関するデンジャラスなボタンもどこかで押されちゃう可能性が生まれる。
私に関するそのボタンは、デマ、大げさ、勘違いの集大成にしかすぎないのだが、しかしそれでも、双方にとってものすごく良くない事が、きっと、起こる。
もし、私の手にだけボタンがあれば、人の不幸の蜜に舌づつみの連打が出来るのに、と思うと無念でならないが、日本の国防はホントにこれで大丈夫なのだろうか?

は、さておき、いきなりここで冷戦状態における抑止力みたいな話を始めたのは、そこにテックダイバーの適性に関する重要なヒントが潜んでいるからだ。
それは、現状の分析と把握、そして、その先に起こりうるトラブルの可能性やリスクに対する認識能力って感じのヤツ。

例えば、このコラムで以前取り上げた機材に関してのトピックを例に取れば、残圧計がひとつ、水深計もひとつ、そう言えばコンパスもひとつしかないといういわゆる標準的な装備に対して、それを単なるお約束と捉えて無条件に受け入れるのか、それとも生存のベースとなる器材の構成としてふさわしいか否かを自身で吟味してみようという発想があるか。

次に、構成要素である器材の一つ一つに関して、それが故障した時、あるいは無くした時の状況を想像してみようという発想があるか。
さらに、そうした状況をリカバリーして無事にダイビングを終える術をについて思いを巡らさなくちゃ、という発想があるか否か。

そして、リカバリー不可能だと判断した場合は、ボタンを押さず、暴れん坊夜将軍を封印する、という結論に速やかに行き着けるか、それとも後先考えないでリスクを犯して不幸な結末を迎えるか。
もちろんこの場合は、夜将軍の封印がテックダイバーとしての適性の高さのひとつの証で、これは、私の自画自賛?

ということで、テックダイバーとしての適性が高いのは、当然、あれこれの発想に至り、夜将軍を封印するタイプのダイバーだ。

総じて、ある器材、ある器材構成、あるダイビング等に対して、より多くのリスクを発想出来るダイバーが、テックダイバーしての適性のより高いダイバーと言えるだろう。
リスクの認識なくして、リスクマネージメントは有り得ない。

当然、リスクに関する発想にはダイビングの知識や経験も必要だが、しかし、それらをあれこれの発想の肥やしとして生かせないと、不確定要素の多いダイビングにトライするダイバーとしての適性が高いとは言えない。
つまり、物知りやベテランだからと言って、それが単純に高い適性には結びつかないというワケだ。

実際のダイビング中においては、水中でどれくらい脳みその活性レベルキープできるが非常に大きなポイントとなる。
これには水に対するストレスのレベルも大きく関係するが、いずれにしろ、水に入ると脳みその性能が大きく劣るダイバーは、適性が高いとは言いづらい。
また、ストレス下で精神が乱れる傾向の強いダイバーはそもそもテックダイブ向きではなさそうだ。

例えば、おネーさんのお名前を別のおネーさんの名前と間違えて呼んでしまったとか、突然、目の前に「兄ダ!」と名乗る強面のGUYが登場した時に、どんな対応が出来るのか、が、暴れん坊夜将軍の真価の見せ所で、一つの失敗を次に引きずることなく、あるいは窮地に追い込まれても間髪置かず、打開策を探るために相手の弱点を探す作業に移れるタイプが、高い適性を備えたテックダイバーと言えるだろう。
そして、この今の話の展開がやばいボタンに指をかけたヤバイ状態であると、速やかに気づいて、まるで何事もなかったのごとく平然と話を逸らせることも、テックダイバーとしての高い適性の証だろう。自画自賛その2!

そんなこんなのプロローグを経て、私が思うところのテックダイバーに必要な適性の主要部分を、まずは、メンタルと思考力という側面から紹介してみたいと、今、私は目論んでいる。

それは総括すれば、繊細さと図太さ、慎重さと大胆さ、注意力と集中力、論理的な思考と直感力、現状の分析・把握力とこれから起こりうる可能性のある状態に対する想像力、のように、ある意味、対極にある能力が共に高い次元でバランスされた状態をベースとして、水陸両用で自身のメンタル・思考・そして行動をいかにコントロールしつくせるか、という内容に集約されるが、しかし、そんな説明は抽象的に過ぎて訳分かんなので、次回から具体例を挙げつつ、その内容を説明してゆきたいと思います。

最後に今回の締めとして、みなさんは、自分の器材が壊れた状態、無くした状態に思いを馳せたこと、ありますか?
全ての自分の器材、そのひとつづつに対して漏れなく、それが壊れた時、あるいは無くした時、しかもそれが最も起きて欲しくない状態に起きた時を考えてみて、自分はそれに対応できる環境や状態でダイビングを楽しんでいるだろうか?という発想でもろもろを見直してみると、次回からの話の現実味が増すかもしれません。
さらにそれは、ダイビングに対する視界の透視度のアップに通じる、かも、しれません。

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PROFILE
テクニカルダイビング指導団体TDIとサイドマウントの指導団体RAZOR のインストラクター・インストラクタートレーナー。
フルケイブ、レックペネトレーション、トライミックスダイブはいずれもキャリア800ダイブ以上。
-100m以上の3桁ディープダイブも100ダイブ以上、リブリーザーダイブでは1000時間以上のキャリアを持つ等、テクニカルダイビングの各ジャンルでの豊富な活動経験の持ち主。また、公的機関やメーカー、放送業界等からの依頼による特殊環境化での潜水作業にも従事。話題のTV ドラマ『DCU』にもリブリーザー監修として撮影に参加している。

■著書
おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
続・おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
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