ダイビングガイドを辞めたケースも!プロでも感じる“えも言われぬ不安”
先日のサイパンロケで、ダイバーの集まるBAR SALTY’Sに行ったときのこと。
自然写真家・高砂淳二さんと取材で来ていた石川肇カメラマンと飲んでいると、僕も含めた3人の共通点の話で盛り上がりました。
そんな共通点とは、水中で急にやってくる、
“えも言われぬ不安”
以前行ったアンケート(8割以上のダイバーが感じたことがある”えも言われぬ不安”の正体)で、8割以上のダイバーがこの不安を感じたことがあることがわかりましたが、ダイビングを仕事にしている僕を含めた3人とも、今でもそんな瞬間があるのです。
きっかけは人それぞれ
不安感に襲われることになったきっかけは人それぞれ。
高砂さんの場合は、魚を追いかけてダッシュした後、ふとした瞬間に不安感に襲われたそうで、やはり呼吸を乱すことはストレスにつながりやすいという例かもしれません。
石川肇カメラマンの場合は、昔「クアトロシエネガス」という地底湖につながる水路を潜っていたとき、急に流れが強くなり、地底湖に吸い込まれそうになって以来、今でもふと水中で不安感に襲われることがあるとのこと。
こちらは恐怖体験がトラウマになった例かもしれません。
そんな話をしていると、マスターTAKAさんが「いや~、実は私もストレスでガイドを辞めたんですよ」と貴重なお話をしてくださいました。
20年ほど前、TAKAさんがゲストと潜っていると、水中で急にえも言われぬ不安に襲われ、胸が苦しくなったそうです。
エグジットしたいと思ったものの、ゲストを連れていたので最初は懸命に我慢。
しかし、やがて過呼吸のような状態になり、苦しさのあまり、水中で、ナイフで自分のウエットを切り裂いてしまったそうです。
パニック状態と言ってもよいのかもしれません。
以来、ダイビングしていると、しょっちゅう不安感に襲われるようになってしまい、しばらく潜らないことにしたそうです。
徐々に慣らそうと、体験ダイビングからリスタートしたところ、次第に不安感に襲われなくなったTAKAさん。
これで大丈夫だろうと、取材でやって来たカメラマンのサポートをしている時に、グロットの中で、えも言われぬ不安から再び過呼吸のような状態になってしまったそうです。
以来、仕事に支障をきたすため、ガイドをキッパリと辞め、モヒートの美味しいBARのマスターとして、今ではダイバーたちの良き相談相手となっています。
レストランも併設しているので、サイパンに行った際はぜひお立ち寄りくださいね。
実践的な対処法いろいろ
さて、水中でそんな不安に襲われたどうしたらいいのでしょうか?
まず、プロでも起こり得ることである一方、ビギナーでもまったく感じない、あるいは一度も感じたことがないというダイバーもいます。
つまり、ストレスは経験というより個人の問題が大きいようです。
なので、ストレスでお悩みの方は、まずは「プロでもそんなもの」と思っておくと気が楽かもしれません。
ただ、ストレスの有無は経験とは関係ないといっても、経験によってストレスに耐えられる範囲を広げることはできるので、経験を積むことはもちろん大事なこと。
プロたちも“初めて”の環境がストレスの引き金になることが多いようなので、やはり初めて潜りに行く海ではより慎重になる必要があります。
そして、初心者でもプロでも基本的に対処法は同じ。
心臓をドキドキさせないように動き回らず、目をつぶって深呼吸。
頭の中では楽しいこと、温かいことなどプラスイメージを描いて乗り切るという方法です。
その他、石川カメラマンは、手の平を目の前に持ってきてジッと見つめるそうです。
目の前に集中することによって、不安を逸らす効果があるのでしょう。
TAKAさんは、光を顔に近づけたり、数字を数えたりしたそうです。
これも不安を逸らす効果がありそうです。
※
最後にTAKAさんからストレスに悩むダイバーに克服の道筋となるひと言。
「何とかなると思える道筋を作ってから潜ることです」
つまり、何かが起きても「こうすれば無事に生還できる」と、事前に明確なシミュレーションをしておくことが大事ということではないでしょうか。
TAKAさんのようにガイドという職業となるとまた話は別ですが、ファンダイビングであれば、こうした事前の準備で、ある程度は不安を封じ込めることができるはずです。
かくいう自分も、不安のスイッチを押さないように、あの手この手で蓋をしながら潜っています。