ダイビングの“ガイド”なのか、“ガイドさん”なのか

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ダイビングの記事を書く時にいつも悩むのが、“ガイド”と書くのか“ガイドさん”と書くのか。
未だに悩みます。

ダイビングガイド(撮影:越智隆治)

いつも揺れて、ひとつの特集の中で両方の記述をすることが多々あり、校正さんによく「どっちかに統一してください」と赤字をよく入れられていました。

そんなこんなで「職業名+さん」について調べると気になるコラム(?)がありました。
職業名+「さん」

基本的にリンク先のコラムに同意で、職業に“さん”付けをするのは「見下しているわけじゃありませんよ」というエクスキューズという意味合いが大きいのかもしれません。
言われた方は怒るとまでいかなくても不愉快に思ってもよいはずです。
これが僕のベースの考えにあります。

では、なぜ僕がガイドとすんなり書かないかといえば、逆にガイドと言われるのが不愉快だとガイドさんに言われたことがあるからです。
また、編集部時代に、「さん付けにした方が良い」と先輩にアドバイスされたこともあります。

馬鹿にされたとまではいかなくても、若造に呼び捨てにされているくらいの感覚があって不愉快に感じる人もいるんですよね。
そこで、しばらく使っていたのが、“水先案内人”とか“海の演出家”など。
さん付けで悩まなくてよいので。

なんて気をつかっていたら、今度はとある伊豆のガイドに「俺はガイドであって、それ以上でもそれ以下でもない」と言われたこともあります。

どっちやねん! って言いたいところですが(笑)、やはり言葉にはその成り立ちや背景があり、さらに、使う人の思い、使われる場面の背景をも投影されてしまうので、そう簡単にはいかないのかもしれません。

ダイビングガイド(撮影:越智隆治)

“ガイド”という職業名に込める意味、込められた意味

僕の実家は肉屋ですが、ネガティブにも取れる背景を持った職業なので、「おい! こら肉屋!」といった使われ方をすると、蔑称という文脈でとらえられるかもしれません。

また、テレビの中で、おネエ系の方たちが、“オカマ”という言葉を「自分たちで使う分にはいいけど、人から言われると嫌」と全員一致で言っていました。

今では、肉屋は単に職業、オカマもおネエ系と同じくらいの意味で使っている人も多いと思うのですが、受け取る方は当事者である分、使う側とは違って、蔑まされてきた歴史まで込みで考えます。
確かに、職業名は、ある意味、アイデンティティを表す重要な言葉と考えれば、当事者が使う人以上に思いを乗せてくるのは当然といえば当然です。

もちろん、ダイビングのガイドという言葉に複雑な背景などはなく、蔑称として使っている人は皆無だと思うのですが、当事者の中には、ガイドという言葉が無機質過ぎると感じている人もいるようです。

ガイドを直訳すると「案内する人」ですが、ガイドと呼ばれるのに抵抗ある人の心理に見え隠れするのは「ただ案内する人ではない」、もっと言えば「たかが案内する人ではない」ということではないでしょうか。

ガイディングに付加価値を付け、プライドをかけ、ただ案内すること以上のことを目指すことは、これはこれで素晴らしいことです。

ただ、難しいのは、justガイドにプライドや哲学を持っている人もいて、「たかがガイド、されどガイドなんだ」と意味の込め方も人それぞれ。
ガイドという言葉以外にも、その人の思いに合った言葉を選択できればいいのですが、人に伝わることを考えるとガイド以上の言葉はあまりなさそうです。

その点、プロのカメラマンの場合は、水中写真家、水中カメラマン、自然写真家、海のカメラマンなどなど、造語も含めていろいろな選択があって、どの肩書きでも人に通じるので、自分の思いや志向を表しやすいといえます。

ちなみに、新聞社の新人時代に「カメラ!」と呼ばれていたオーシャナ代表の越智カメラマンは、人でさえあれば(笑)あまり肩書にこだわりはなさそうですが、写真家とカメラマンとは明確に分けている印象はあります。

石垣島でダイバーデビュー(撮影:岡田裕介)

特定個人ではないけど、やっぱり“ガイドさん”!?

職業で人を呼ぶ場合、もうひとつのポイントは、単にその職業についての使われ方なのか「~という職業の人」という使われ方なのかという点。

特定の人を頭に浮かべて人に説明するときは、さん付けはありでしょう。
例えば、「○○病院の看護士さんが親切にしてくれてね~」というのは自然な感じ。

ただ、とある業界で、特定の職業の方とたくさん会って仕事も一緒にしていると、職業名が単に職業でなく、人格を持ったような感じになるのかもしれません。
そういえば、出版界でも、ライターさんって呼んでいる人、結構いる気がします。

そういう意味では、ダイビング業界で、いろいろなガイドさんと潜ることの多い自分の場合、ある一人を指してはいなくても、個々の集合体とでもいいましょうか、“ガイド”という言葉はほとんど特定の人のようなもので、“ガイドさん”と自然に出てしまうのかもしれません。

ただ、コラムにもあったように、僕も違う業界で代理店さんとかモデルさんって言うのを聞くととても違和感があるので、オーシャナの読者からしたら、“ガイドさん”と書かれているのは違和感があるのかなーとも思ったり。

そんなこんなで、今日も明日もまた“さん”を付けるかどうか悩むスパイラル……。

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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