PADIオープンウォーターコース改定で本当に何かよくなるの?~今週の多事総論~
PADIの改定について、
惚れてない視点から
今週の連載で、久保さんによる「PADIオープンウォーターダイバーコースの改定」という記事がありました。
久保さんは、「まるで“アバタもエクボ”の、“惚れた女がいい女”と開き直るような、根っからのPADI好き」と立場を明らかにした上で、「今回の改定がいかに良い形で世界の今後のダイビング教育に影響を及ぼすだろうか、ということを検証する試み」としています。
惚れた女と、建設的にどううまく付き合っていこうかという論考はとても大事で続編も楽しみですが、そんなに惚れているわけでもない僕は、アバタはアバタ。
ということで、今回は、人の彼女に「そんないい女かねぇ」とツッコミを入れる、嫌な男の論考です(笑)。
今回の改定は、PADIの創立時から関わっているやどかり仙人さんの言葉を借りれば、「PADIの改定は自己責任で潜ることへの原点回帰」。
すごくざっくり言えば、「手抜きとかやめてさ、バディ潜水ができるように、もっと、ちゃんと教えようぜ」ってことだと思うのですが、僕が注目していたのは、“物理的に”、プログラムの日数や本数が増える、あるいは、担保される仕組み・ルールになるのかどうかということでした。
例えば、プール講習や海洋実習の時間・本数の最低条件が増えるかどうか。
ただ、漏れ伝わってくるところでは、特にそうしたプログラムの物理的な変化はないとのこと。
だとすると、率直に思うのは、インストラクターへの要求が上がっただけな気がするのですが、どうなんでしょうか。
改定する前に、講習生にバディでの計画潜水をさせる項目ができるらしいという噂を聞いて、「お~、それは素晴らしい」と思っていました。
ただ、それは、今までのプログラムに上乗せされる項目だと思っていたのですが、特に本数や日数にルールが変わるわけではないと聞き、そうなると、インストラクター、あるいはショップが自発的に、例えばプールの時間を増やしてみたり、よりゲストの達成度に合わせた講習をしなくてはいけないということ。
いや、インストラクターが自発的に講習の質を高めてくれるのは理想的でありがたいのですが、そんな性善説で、抜け道のあるやり方だと、結局、意識の高いインストラクターが割を食う気もするんですよね……。
話はちょっと飛びますが、ちょくちょくニュースで、経理の人が会社の金を横領って話があります。
だいたいが、社長が経理を人間的に信頼し、性善説に立って、会社のお金を一人に任せちゃうのが理由。
どんなに信頼できる人でも、目の前に大金があり、不正ができる状況にあれば、そりゃ横領する人も出てくるでしょう。
借金などあればなおさら。
もう1人担当をつけ、ダブルチェックの体制を整え、“物理的に”不正ができない仕組みの中に置いてあげることが、結局はその人のためにも、会社の利益にもなるって話です。
同じように、Cカード講習でも、“ゲストに合わせた達成主義”といえば聞こえはいいですが、ルールを整えてあげなければ抜け道、裁量という名の手抜きの温床。
“素晴らしいインストラクター”が教えていること前提でしか成り立ちません。
いや、僕の周りのPADIインストラクターは、実際、意識が高く素晴らしいインストラクターばかりです。
彼らが教える分には、きっと、本質を見つめ、ゲストに合わせてプログラムを調整するから良いのですが、目に見える利潤のみを追求するインストラクターがいたとすれば、当然、人によって違う“達成”という主観を利用するでしょう。
どんなゲストでも、プログラムの最低条件で講習をし、料金を下げる、あるいは利益率を上げるのは容易に想像できます。
それに、田原さんが言っていたように、「南の島で●日間でCカード取得ツアー!」の参加者を認定しない決断をするには結構勇気がいると思います。
もちろん、「そんな利潤のみ追求して、おざなりの講習をしちゃいけません!」というアプローチは正しく、実際、意識の高いインストラクターさんは、そうした啓蒙を続けています。
しかし、先ほどの経理の話でいえば、そういうおざなりな講習ができない状況を作るというアプローチも同時に必要でしょう。
ダイビングをやったことのない人にとって、講習内容などまったくの未知の世界ですから、なおさらです。
で、そのキーパーソンのひとつが、ダイビング指導団体(や、自戒を込めてダイビングメディア……)。
やっぱり、抜け道があれば、抜け道だけで生きる人もいるわけで、そうなると、きちんとした講習(これも曖昧ではあるのですが)をしているショップ、インストラクターは価格競争で負け、おざなりショップに勤める現場のイントラは、厳しい日数の中、求められる成果だけが上がるという悪循環。
現状の講習に足りないところがあると思うのであれば、インストラクターの質の向上と両輪で、プログラムの本数や日数の条件を上げて、ルール化するしかないと思うんですよね。
(長期的には、インストラクターの認定を厳しくって話もありますね)
PADIが安全の講習会を開催したり、少し前には、必ず講習でやるべきスキルの項目を公表したり、今回のように、原点回帰の改定をして、啓蒙、広報することは素晴らしいことだと心底思います。
ただ、「今回の改定をきっかけに、自分たちイントラもきちんと講習していこうじゃないか。良い方向を目指そうじゃないか」という方向へ行くことはとてもいいことだと思うのですが、一方で、PADIのリスク回避のためのアリバイ作りにもとらえることができますよ、という指摘はしておこうと思います。
「惚れた女に貢がされてない?」という指摘(笑)。
単純にこれまでと変わらず講習ができる環境なのに、質の向上が求められるというのは、インストラクターの負荷が増すってこと。
そこでイントラ側が自発的に意識、質を高めるのも大事ですが、同時に、「じゃあ、そういう環境を作ってよ」という要求も必要だと思うのです。
以前、ご紹介したケアンズのバディ潜水事情も、結局、州による法律があって、抜け道のない状況だからこそ成り立っています。
もちろん、すべてを指導団体や講習プログラムで解決しようとするのも無理がありますし、PADIとしても、日数や本数を単純に増やして他団体との競争に負けては本末転倒になるという事情もあるのでしょうが、物理的な状況が改善されないまま質の向上を論じられると、建前が増えるだけという懸念はどうしてもぬぐえません。
まあ、久保さんはそんなことは百も承知の上で、今回の改定をどう活かしていくのかという話をしていると思うんですけどね。
僕も野暮なツッコミはこれまでにして、次回以降の「レクリェーション・ダイビングの世界に何が起きて、何が今回のオープン・ウォーター・ダイバー・プログラムの改定に影響を与えているのかを推論」を楽しみにしたいと思います。
科学で変わる法的リスク
同じ指導団体がらみのニュースでBSACのロゴシーズの講習プログラム。
と書いている今まさに、プレスリリースでSSIのロゴシーズ講習プログラムのニュースが飛び込んできました。
山形カシオ株式会社|ニュースリリース
すでにPADIでもスタートしていますが、この流れは何なのでしょうか?
基本的には、新たなマーケットということでしょうが、おもしろいなと思ったのは、ロゴシーズを法的リスクという側面で考えている人たちがいること。
つまり、ジェスチャーでしか意思疎通のできない水中で会話ができれば、安全性が向上し、講習の人数比などにも影響が出るという考え方です。
例えば、インストラクターが水中でOKサインを確認した後の講習生の溺水事故があり、そのOKサインについて、水中の意思卒通がひとつの争点になったことがありますが、こうしたことも水中で会話ができれば解消される可能性があるということです。
また、録音機能を使って講習内容のチェックができる、なんて話もあります。
まあ、実際に使った時に、まったく上手に会話できなくて「これは現場では無理だな」というのが率直な感想だったのですが、自分が使ったのは初期のものでどんどん進化していると聞きますし、自分にスキルがなかっただけなのかもしれません。
もう一度、ぜひ試してみたいと思っています。
はぐれたときのためにレーダーフロートを携帯する動きなど、ダイビングスタイルを変えるような、優れた道具が出てくるとワクワクしますよね。
今週はこの辺で。