御蔵島の“海と神さま”~イルカの島の神事~

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御蔵島のイルカ(提供:小木万布)

1月、御蔵島では新年を迎える以外にいくつかの神事があります。
中でも海に関する行事について紹介してみましょう。

前回でも書いたように、この時期の海はとにかく大荒れ。

ですが、海にまつわる行事が集中しているのも1月なのです。

御蔵島で行われている1月の海の行事(提供:小木万布)

御蔵島の神社のしめ縄には、ツバキとササを用います

1月2日 ノリゾメ

漢字で書くと、“乗初め”。
つまり、新年初めて船に乗る行事です。

伊豆諸島各地に同じ行事があり、三宅島では「船祝い」、神津島では同じく「乗り初め」と呼ばれています。

船が大型でしかも隻数の多い三宅や神津は、観光客が見に来るほど盛大な行事となっていますが、較べると御蔵のそれはこじんまり。

それでも大漁旗を立てて、盛大にお菓子やミカンがまかれて、アメアラレのように降ってきます。
それを島のお年寄りや子供達が大騒ぎで拾っています。

他の島では無い御蔵島のウリとしては、ふくまる商店さんのジェラートも一緒に飛んでくる! ところでしょうか……。

御蔵島で行われている1月の海の行事(提供:小木万布)

この年は大時化で桟橋まで降りられなかったため、桟橋の見える里中で行われました。船の代わりに軽トラの荷台からミカンをまいていますw

1月10日 金比羅祭

海上交通の守り神として全国的に信仰されている神様ですが、御蔵島では1月と10月の年2回行われています。

夕方になると、社務所で太鼓が叩かれ船頭さんがお参りします。
昔は、金比羅講と言って、子供達に対して神主さんが昔話など色々なお話をしていたそうです。

最後にお菓子が配られたようで、島のお年寄りも「楽しみだった」とのこと。
今もお菓子は配られるようで、夕方になると島の子供達が拝みに集まってきます。

1月16日 地獄の釜の蓋があく日

神事とは少し違う気がしますが、この日は今も、建設土木作業はすべてお休みになります。
いわれは、悪人を叱責する地獄の釜もこの日は休むらしく、その日くらいは休みなさい、ということらしいです。

1月20日〜25日 忌の日の明神様

8月にある「稲根神社例大祭」と共に、御蔵島を代表する神事だと思います。

20日に明神様が、島の南西部にある稲根神社本殿に海から上陸されます。そこから5日間をかけて北西部にある里まで来られます。

その間、20〜24日までは島の西側の山に入ることは禁じられており、今でもほとんどの人が入りません。

特に明神様が里に到達する24日は、夜、出歩くことも良しとされていません。

御蔵島で行われている1月の海の行事(提供:小木万布)

明神様が里でお休みになる場所は、稲根神社拝殿のすぐ脇にあります

さすがに最近は、消防の夜警や飲み会などで、うっかり出歩いている方もいらっしゃるようですが、少し前までは本当にシーンと静まり返った夜でした。

里では24日、明神様をお迎えするために、好物のあぶらげ餅を作ってお供えします。

御蔵島で行われている1月の海の行事(提供:小木万布)

米粉を練って油で揚げたもの。昔は椿油を使用しました。この写真は、おそらく昭和40年代に撮られたものです

「供えていないと、便所の扉を蹴っ飛ばされる」など、怖いのか怖くないのか良くわからない言い伝えが残っています。

24日、里を回られた明神様は、25日の朝、浜から海に漕ぎ出すと言われており、海を見ると目がつぶれるという伝承も残っています。
25日に凪ぎてしまって、早朝に客船を迎えなければならない時は、少し緊張します。

神事が残る御蔵島

このように御蔵島では、今も残る神事がたくさんあります。
そして、それらを今でも島の人が大切に続けています。
厳しい自然に囲まれる島ゆえに、自然を敬い、神事をきちんと行う風習が残っているのかもしれません。

イルカウォッチングを目的に来られるお客様ばかりの御蔵島。

ですが、島民の生活や神事にも少し興味を持って頂けると、なぜこの島に今でもイルカが住んでいるのか? が少し分かるようにも思います。

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PROFILE
山形大学農学部で、テントウムシの産卵生態を研究をしていたが、「もうちょっと大きな動物を研究したいなぁ」と路線変更。
三重大学大学院在学中に、御蔵島をフィールドとしてイルカの行動研究を始める。

2004年、御蔵島で観光協会設立に関わり、同大学院を中退。
現在、御蔵島観光協会勤務。

観光案内業務、エコツーリズムの普及活動、イルカの調査取りまとめを行っている。

■著書:
「イルカ・ウォッチングガイドブック」水口博也(編著)144pp. ウォッチングと生態研究の両立-御蔵島のイルカをめぐって
「クジラと日本人の物語―沿岸捕鯨再考」小島孝夫(編集) 第4章クジラと遊ぶ..
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