サメにかじられた!? イルカを見分けるための傷跡あれこれ

野生のイルカやクジラにはたくさんの傷跡がついています。
水族館のイルカでも、水族館生まれの個体でない限り、それなりに傷跡を見ることができます。

御蔵島のミナミハンドウイルカも、いろいろな傷を負っていますが、それらの傷(ナチュラルマーク)を手がかりに個体識別をしています。
つまり、この傷跡が個体を見分ける特徴となっているのです。

では、どんな傷があるのでしょう。
今回は、いろいろな傷(跡)の写真をみながら、その原因を推測しながら進めたいと思います。

イルカの歯型

御蔵島のイルカ(イルカの歯型)(提供:小木万布)

イルカの背中に多いこの傷。
アブドーラ・ザ・ブッチャーみたいですね。
写真の傷は少し深そうですが、多くの場合はもう少し浅く、白い線が平行に何本もついています。

この傷の原因は、イルカの歯。

他のイルカの歯が当たってできた傷です。
背中の黒い部分に、白線が平行に何本も並んでいるので目立ちます。
しかし、この傷はさほど深くなく、短期間のうちに見えなくなってしまうため、個体識別の手がかりにはなり難い傷です。

岩にこすりつけた!?

御蔵島のイルカ(岩にこすりつけた!?)(提供:小木万布)

上の傷と同じ線状の傷ですが……平行ではありません。
かなり痛そうな見た目だったため、最初「イルカの歯?サメの歯?」と憶測が飛びました。
数名の鯨類研究者に写真を見てもらったところ「岩などにこすりつけてできた傷だろう」という意見が最も多く、信憑性が高いものでした。

傷が残っているうちはかなり目立ちましたが、当の本人はあまり気にしていないようで、すぐに治って、今では傷跡も残っていません。

サメにかじられた?

御蔵島のイルカ(サメにかじられた?)(提供:小木万布)

御蔵島で一番有名なイルカ「マエカケ」の背びれです。
この背びれの欠け、皆さんは何が原因だと思いますか?

あくまで想像ですが、大型のサメにパクンとかじられたのでは? と思っています。
御蔵の周辺は、大型のサメも結構います。
ウォッチング中にヒトがかじられた! なんていう事故はありませんが、明らかにサメに襲われた傷で、ひん死状態の若いイルカが見つかったこともあります。

ちなみに赤丸内の傷跡は、ダルマザメによるもの。
ダルマザメは深い海に住む小さなサメですが、自分より数倍大きな獲物(原子力潜水艦のネオプレン製のカバーにも!)に食らいつき、体をよじってその肉を削り取ります。
まるでアイスディッシャーですくったような傷になります。
深い傷になることが多く、完治後も写真のように不自然な跡になるため、個体識別には重宝します。

切手ちゃん……

御蔵島のイルカ(切手ちゃん……)(提供:小木万布)

お腹の真ん中にある黒い点は、上記のダルマザメによるもの。
でもこのイルカは、さらに特徴的な傷を持っています。どこだか、わかりますか?

そうです、左の胸びれの先がありません。
とても分かりやすい特徴で、このイルカは「切手ちゃん」と呼ばれています。
残念ながら傷の原因は、分かりません! サメ? 何かにひどくぶつけた?

尾びれがバッサリ

御蔵島のイルカ(尾びれがバッサリ)(提供:小木万布)

尾びれ、こんなバッサリな子もいます。
サメかもしれませんし、漁網や釣り糸などが絡まってちぎれてしまったのかもしれません。

尾びれ半分でも2005年から毎年、連続して観察されている若いオスイルカ。
これだけ欠損していても、元気に生活していけるということに驚きです。

背ビレが90度に折れ曲がる

御蔵島のイルカ(背ビレが90度に折れ曲がる)(提供:小木万布)

撮影:柳瀬美緒

今年の冬、釣りに出ていた船長が見つけて話題になっていたイルカ。
この子は、背びれの先端がちぎれかけてしまっています。

まだ新しいキズのようで、切断面はすこし赤く見えます。
前は切れていますが、後ろの方でつながっているので、先端だけが90度に折れ曲がって残る、というすごい特徴になってしまいました。

ちょうど先日の日曜日に釣りに行ったのですが、船の上からでも簡単に見つけることができました。
このイルカ、名前は「ジョーちゃん」と言います(下あごがしゃくれているため)。

比較的きれいで(傷が少ない)、見分けづらいイルカだったのですが、背びれにより一気にメジャーになりそうな予感……です。

個性的なイルカたちの傷。
個体識別の手がかりにもなっていますが、こちらが想像力をもって見ることで、ケンカしたり、サメに襲われたり、エサを獲りに少し深い所まで潜ったり、漁網に絡まったり……イルカが生活する環境を思い描くきっかけにもなります。

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

writer
PROFILE
山形大学農学部で、テントウムシの産卵生態を研究をしていたが、「もうちょっと大きな動物を研究したいなぁ」と路線変更。
三重大学大学院在学中に、御蔵島をフィールドとしてイルカの行動研究を始める。

2004年、御蔵島で観光協会設立に関わり、同大学院を中退。
現在、御蔵島観光協会勤務。

観光案内業務、エコツーリズムの普及活動、イルカの調査取りまとめを行っている。

■著書:
「イルカ・ウォッチングガイドブック」水口博也(編著)144pp. ウォッチングと生態研究の両立-御蔵島のイルカをめぐって
「クジラと日本人の物語―沿岸捕鯨再考」小島孝夫(編集) 第4章クジラと遊ぶ..
  • facebook
FOLLOW