レクリエーショナル・サイドマウントの正体(第3回)

サイドマウント天国のガイドは語る「オーシャンのレジャーダイビングではサイドマウントは使いません」

サイドマウントの本場ユカタン

サイドマウントの本場ユカタンからの便り

ここまで、日本におけるレクリエーショナル・サイドマウントの矛盾について述べてきましたが、この点に関して、非常に参考になる意見があるので紹介しておきます。

僕が管理するFacebook グループ「Razor Side Mount Divers JAPAN」に投稿された意見です。

投稿者は僕の友人であり、サイドマウントダイバーであり、もう10年以上、メキシコのカンクンをベースにカバーンやオーシャンのガイドとしてダイバーケアをしているアクアアプリの田中秀明さん。

サイドマウントが世界で一番ポピュラーな本場からの現地事情報告です。

セノーテのオーシャナ取材でお世話になった田中秀明さん

以前、セノーテのオーシャナ取材でお世話になった田中秀明さん(左)。セノーテ記事は→こちら

田中さん

私がいるメキシコのユカタン半島は、ご存知の方もたくさんいらっしゃると思いますが、サイドマウントを利用しているガイドが世界で一番多いエリアです。

私を含め、多くのガイドはカバーンだけでなく、オーシャンダイブのガイドも兼任していますが、しかし、ケイブやカバーンのガイドを行う時は当然のようにサイドマウントを使う彼らも、オーシャンダイブのガイドでサイドマウントを使うことはまずありません。

ましてや、ゲストにサイドマウントを推奨するガイドは皆無です。

地元では、通常のシングルタンクとサイドマウントの明確な住み分けが確立しています。
これは伝統とか習慣などに固執しているわけでなく、何が良くて何が悪いのか適材適所を彼らが正しく把握しているからだと思います。

日本のダイビング業界がサイドマウントをテックダイブの位置づけで普及しようとしているのか、それともレジャーダイブでも利用できる手段として普及させようとしているのか、メキシコで活動している私にはイマイチ、ピンと来ません。

特集やコラムなどではTECRECという看板の内容に「レクリエーショナル・サイドマウントダイバー」というよくわけのわからないコースが登場したりして、グレーな要素が隠せません。

サイドマウントの利点の一方的な宣伝ばかり見受けられ(デメリットも多少事前に説明していますが、極端に少なく判断材料には程遠いと感じます)、講習の受講を決めた後にデメリットも教えるという、後戻りできない状態に追い込んで真実を語る手法にも疑問を感じます。

私には、例えば、重機や牽引トラック免許を一般のドライバーに広めようとするイメージに重なってしまいます。

「重機や牽引トラックはハードで特殊な環境でも活躍できますよね、だからそれらを一般道で使うと、レジャーの幅が広がりますよ」と言っているような気がしてなりません。
例えが正しいかわかりませんが……。

サイドマウントは、まず環境ありきで、その特殊環境に適合するために生まれたダイビングスタイルです。
それがはたして一般のレジャーダイビングに流用できるのかどうか?

サイドマウント天国であっても、オーシャンのレジャーダイビングにはサイドマウントを流用していないメキシコには、それなりに理由があるはずです。

サイドマウントを本来の用途で正しく利用する環境がない日本で、それでもサイドマウントを普及させようとするなら、サイドマウントのメッカであるここメキシコの現状を参考にして、なぜ、オーシャンでサイドマウントが普及しないのかを真剣に考える必要があると思います。

■アクアプリの田中さんに聞いた!

サイドマウント本場では、
オーシャンダイブでサイドマウントは使わない

レクリエーショナル・サイドマウントというカリキュラムの登場後も、メキシコでのOWサイドマウント講習は、以前同様、あくまでケイブダイビングでサイドマントを使いたいダイバーのためのファーストステップとして盛んに行われています。

しかし、それをオーシャンのレクリエーショナル・ダイビングで流用するという発想は、メキシコのダイビング業界にはないようです。

サイドマウントの本場ユカタン

海外からのゲストやショップツアーで現地を訪れたダイバーが、オーシャンでサイドマウントを使うことがあったとしても、ガイドする側である彼らは、やはりシングルタンクをバックマウントする通常の装備を使い続けています。

恐らく、それは、彼らがコースの持つ矛盾や、それをオーシャンダイビングに流用した時のメリットとデメリットのバランスの悪さ、そして難易度の高さといったネガティブな部分の大きさを明確に認識しているからだと思います。

それが世界で最もサイドマウントを熟知している金玉ヤロー軍団の下した結論であるとすれば、考えるべきは、サイドマウントが必須となるようなダイビング環境のない日本における、OWのサイドマウントの存在の意味だと思います。

オーシャンでサイドマウントを使うなら、なにより、サイドマウント自体を正しく理解できて活用できるだけの内容に加え、オーシャンでサイドマウントを使う上でのデメリットやリスクを正しく理解し、それらをも含んだマネージメントを備えた教育を受けて、サイドマウントが無理なく使える環境を整えた上で楽しみましょう、であるべきだと、私は思います。

どう間違っても、体力がない方に適しているとか、体の負担が少ない、などのセールストークが似合うものではないはずです。

カリキュラムやトレーニングも一般的なレクリエーショナルダイビングのそれより高度で、時間が必要な、テクニカルダイビングトレーニングに近い内容になると思います。

そうしたカリキュラムをクリアした認定ダイバーであれば、サイドマウントをどう楽しみ、どう活用するかは個々のダイバー次第。

必要な知識や技術を備えた健全で自立したダイバーであれば、座右の銘が両手に花でなくても、サイドマウントをどう楽しむかは各ダイバーの自由だぁぁですよね。

その時点で、外からいらねー口を挟むんじゃねーよ、と言われれば、わたくし、何の異論もありません。

楽しんでね! とめいっぱいの笑顔を残し、そそくさとその場から引き下がります。

PS:
現在、オーシャンダイビングでのサイドマウントのデメリットやリスクへの対応に関しての私なりのアイディアを、私の所属するテクニカルダイビング系指導団体の協力のもとで、映像中心にまとめてみようと計画しています。

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PROFILE
テクニカルダイビング指導団体TDIとサイドマウントの指導団体RAZOR のインストラクター・インストラクタートレーナー。
フルケイブ、レックペネトレーション、トライミックスダイブはいずれもキャリア800ダイブ以上。
-100m以上の3桁ディープダイブも100ダイブ以上、リブリーザーダイブでは1000時間以上のキャリアを持つ等、テクニカルダイビングの各ジャンルでの豊富な活動経験の持ち主。また、公的機関やメーカー、放送業界等からの依頼による特殊環境化での潜水作業にも従事。話題のTV ドラマ『DCU』にもリブリーザー監修として撮影に参加している。

■著書
おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
続・おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
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