日本のレクリエーショナル・サイドマウントダイビングは矛盾の上に成り立っている
日本のレクリエーショナル・サイドマウントに対する
キンタマ野郎の言い分
先月のことですが、デビ夫人がTV番組で潜ってその名を日本全国に轟かせた(らしい?)グラン・セノーテをはじめ、約3000のセノーテが密集するメキシコのユカタン半島、キンタナ・ロー州に2週間少々滞在してきました。
もちろん、目的はケイブダイビング。
もう30回近く通っているエリアで僕のケイブダイビングのホームグランドです。
キンタナ・ローは早口の現地語では日本語の「金玉ヤロー」にきわめて近く、それだけでとてもいいところであることが分かります。
ただし、そこが金玉ヤローだらけなわけではありません。
だらけなのは、セノーテにおけるサイドマウントダイバーです。
金玉ヤロー界隈は恐らく世界で最もサイドマウントがポピュラーなエリア。
ケイブダイバーの80%以上はサイドマウントダイバーで、私も全ダイビングがサイドマウントでした。
そんなわけで、今回もサイドマウントについてお話させていただきたくなりました。
いずれにしろ、私がサイドマウントに関する私見を述べると、賛同してくださる方がいらっしゃる一方で、非難もGoGo。
GoGoを要約すると、レクリエーショナルダイビングで楽しくサイドマウントを使おうって盛り上がっている時に、関係ないケイブダイビングのサイドマウントの話なんて引き合いに出すな、とか、レクリエーショナルで楽しく潜ろうとしているのに文句ばっかつけて、じゃぁあなたはOWでサイドマウントを使うなって言うのか? といった類のご意見です。
そこで、今回は、この2点のご意見に焦点を当てて、レクリエーショナル・サイドマウントというコース、カリキュラムに関して、私の思うところを敬語中心でお話ししてみたいと思います。
と、最初に趣旨を説明しておいて、では改めて話をスタート。
サイドマウントを一般のダイビングで使うことの矛盾
現在、世間に流通しているサイドマウント器材の多くはケイブダイビングをベースとして開発されたか、あるいはそうした器材を参考にして作られていると思われます。
なぜなら、そもそも、サイドマウントはケイブダイビングの活動領域や活動の可能性を広げるために進化、洗練されていたダイビングスタイルだからです。
関連スキルも、ケイブ環境を想定。
レクリエーショナル・サイドマウントという斬新なカリキュラムが登場するまでは、OWにおけるサイドマウント講習は、あくまでテクニカルダイビングの1ジャンル、ケイブダイビング(一部では、レックダイビングも含まれる)でサイドマウントを使う際のファーストステップという位置付けでした。
コース内容も、あくまでケイブダイビングの際のサイドマウントシステムに対する理解を深め、サイドマウントをケイブで使うための基本スキルを身につけるためのもの。
最初からケイブの閉鎖環境に突入するのは、リスクが大きく効率も悪いので(例えばケイブ内では、水面での口頭のアドバイスや説明ができません)、結果、まず導入はOWで行いましょう、という考え方が基本だったのです。
当然、使われる器材はすべてケイブダイビングを想定したものでした。
その点は今も大きく変わってはいないと思います。
ハイリスクな特殊環境における実践重視の器材ですから、レクリエーショナル用の一般的な器材とはDNAに違いがあります。
例えば、BCの形状やタンクのセットの方法、体へのフィットに対する考え方などは、いわゆる一般的なBCとは同じではありません。
ディテールのひとつひとつにもすべて実践的な活動から導かれた理由と必然性があります。それらを正しく理解していることがサイドマウントの器材を正しく効率的に使いこなすための必要絶対条件になります。
具体的な例を挙げれば、BCは、ケイブ内での基本姿勢であるホリゾンタルポジション(水平姿勢)を重視したデザイン。
浮力の中心は、タンクの位置が一般的なバックマウントスタイルより下半身寄りとなること(重心も下半身寄りとなる)に合わせて下半身寄り。
浮力の中心をどこに設定するかが重要なので、ダイバーの体格や使用器材に合わせて浮力体の位置のみを調節できる構造を持つモノまであります。
BC内のガス排気も、水平姿勢を維持したまま行えることが重視されていて、立ち姿勢では排気が難しい種類のものも珍しくありません。
さらに、狭い空間を抜ける際は体を周囲にこすりつけながら進む可能性もあるので、割れる可能性のあるプラスチックのバックルやベルト類がゆるむ可能性を持つ長さ調節機能も基本、使われません。
したがって、サイドマウント用のBCは、体にぴったりとフィットしてずれたり動いたりしないよう、最初に各ユーザーの体に合わせてベルト類の長さがmm単位で決められます。
扱いやすさを重視してDリングのポジションを決め、インフレ―ターホースの長さ、配置なども細かく調整します。
言ってみればひとつひとつがセミオーダーメード。
基本、別ユーザーと共用はできません。
こうした一般のBCとは異なる哲学でデザインされた器材を正しく使いこなすには、ユーザーが(ユーザーの講習を担当するインストラクターが)どれくらい器材を正しく理解しているかが需要です。
加えて、レギュレーターのホースアレンジやフィン、その他の器材の選択に関しても、一般のレクリエーショナルダイビング用の器材選択や器材構成とは異なる、独自の視点を求められる要素がたくさんあります。
仮に一般的なレクリエーショナル用の器材と同じ感覚でサイドマウント用の器材を構成したら、使いにくいだけでなく、時として危険な状況を生む罠をそこに仕込むことにもなりかねません。
したがって、サイドマウントが何のために誕生し、どう活用され、どのように進化してきたかを知ることは、サイドマウントのための器材やスキルを理解するために重要で、サイドマウントダイビングのポテンシャルや想定される活用域を正しく理解する(想定されている活動領域、逆に想定されていない環境の両方を正しく把握する)上でも、非常に重要となるはずです。
そうした視点で今一度、オーシャンダイブ(一般的な海のファンダイビング)を楽しむためのレクリエーショナルダイビングとしてのサイドマウントを見直してみると、それが、ケイブで培われてきたサイドマウント用の器材やスキルをベースとしている一方で、それをケイブダイビングでは想定していないオーシャンの一般的なレクリエーショナルダイビングのフィールドで使用するという大きな矛盾の上に存在していることが分かると思います。
ですから、レクリエーショナル・サイドマウントというダイビングスタイルは、ベースになっているケイブでのサイドマウントダイビングを熟知した上で、オーシャンのレクリエーショナルダイビングに使える部分、メリットとして生かせる部分、そのままでは使えない部分、リスクとなる部分、付加的な要素が必要となる部分などを詳細に検討し、必要な修正や必要となる新規の内容を盛り込むことで初めて、新しいダイビングスタイルとしての提案が可能になる、と考えるのがまともな考え方であるはずです。
もちろん、本格的なオーシャンケイブをテーマとしたダイビングもありますが、それはレクリエーショナルダイビングではなく、あくまでテクニカルダイビングであって、オーシャンを想定したディープダイビングとケイブダイビングを合体させたダイビングとして対応されています。
したがって、インストラクターも、こうした背景は深いレベルで知っておくべきだと思います。
別にサイドマウントを使ってケイブを数多く潜る必要がある、と言っているわけではありませんが、少なくとも、ケイブダイビング用の器材、コンフィギュレーション、スキルについて正しく理解しているべきでしょう。
そこには一般のレクリエーショナルダイビング用の器材のセッティングや扱い方、注意のポイントとは異なる部分がたくさんあるからです。
具体例を挙げれば、BCは調整がセミオーダーメイド的にシビアであるだけでなく、切断の可能性があるバンジーコードを使ってタンクや浮力体をフィットさせるシステムが使われているタイプなら、それらが切れた場合のバックアップのバンジーコードの用意や、交換手順の確認、タンクをフックするボルトスナップも、壊れれば重大なトラブルの元になりますから、壊れた場合の対応を可能にしておかなければなりません。
これらも一般的なBCにはない要素です。
こうした特殊な器材を正しく扱うには一般的な器材に対して以上の、より高いレベルの知識や経験、柔軟な発想が必要です。
さらに、人に教えられるレベルで扱えるようになるためには豊富な経験も不可欠。
そこに、ダイバーレベルの講習を受講したらあっという間にインストラクターや、インストラクタートレーナーになれちゃいます、というような安易さを持ち込むことは完全な間違いなのです。
次回へ続く
レクリエーショナル・サイドマウントの正体(連載トップページへ)
- 日本のレクリエーショナル・サイドマウントダイビングは矛盾の上に成り立っている
- レジャーダイビング・サイドマウントは、リスクへの対応なしにビジネスを優先したコースでしかない
- サイドマウント天国のガイドは語る「オーシャンのレジャーダイビングではサイドマウントは使いません」