スマトラ沖地震と大津波の経験から 後編
過去からずっと地震を経験し、何度も大きな被害を受けてきた日本であっても、
その強さが予測を遥かに上回ってしまえば、備え有っても充分ではなく、
今回のように場所によっては壊滅的な被害を蒙ってしまいます。
2004年のスマトラ島沖地震が惹き起こした大津波によって、
タイでも多くの被害が出ましたが、まだ救われたのは、
地震そのものがタイの本土や近海で起きたのではない、ということです。
震源地に近いインドネシアのバンダアチェは、地震と津波の両方に襲われ、
今回の東北地方沿岸部のような壊滅的な状況に陥ってしまいました。
一方タイでは、津波被害を受けたエリア=海岸から有る程度の範囲、
とそれ以外の地域の差が大きく、少し内陸に入れば、
全く何事も無かったような普段通りの生活が続けられていたのでした。
にもかかわらず、津波被害によって危険視され、
あるいは人が沢山死んだから、というイメージによって、
被災した地域を訪れる観光客が激減してしまったのは、
経済のかなりの部分を観光に支えられている南タイのリゾートに対して、
もしかすると津波そのもの以上のダメージをもたらしたのでした。
もちろん、ホテルや店舗といったリゾートの施設が破壊されてしまった、
カオラックなどのエリアでは、まずハード面の復旧が先決でしたし、
まだ身元不明の犠牲者が沢山安置されているような状況では、
『観光に行こう』などとは考えられなくて当然です。
しかし問題なのは、 “現実は何がどう”あるのかを確かめようともせず、
闇雲に『タイは危ない』と考え、しかもその根拠の無い意見を言いふらす人が多かったことです。
例えば、『津波後には感染症が増える』、という説が出されたことがありました。
陸地に水の溜まった場所が増えて蚊が発生するから、というのが理由です。
それは全く否定できる説ではありませんが、津波とは全く関係の無い、
マレー半島の東側に位置するサムイ島にまで
「感染症が怖いから旅行をキャンセルする」という人が出てしまうのは、
根本をまるで理解していない、としか言いようが有りません。
今の日本は、続く余震、原発の事故、電力不足など、まだ様々な問題を抱えています。
ただ、何故スーパーやコンビニで、米やカップ麺などの買い占めに走るのか。
確かに流通や商品の供給能力は落ちています。
それでも食べる物は無くなるのでしょうか?
皆が買占めようとするから、品切れになり、品切れを恐れて買占めする、
という悪循環に陥っているのでは、とも思われます。
聞くところによると、肉や魚などの生鮮食品は売れ残っているということですから、
本当の食糧難ではないのでしょう。
携帯電話もPCも持たずにいる、あるいは停電などで使えずにいるなら別ですが、
このような災害時であっても、接続ができればインターネットが情報を流してくれる。
あるいはテレビがニュースを流してくれる。迅速で豊富な情報がいつも溢れています。
それは役に立つことではあるけれど、気をつけないと間違った情報を鵜呑みにしたり、
一部だけを見て全てをそうだと思い込むなど、情報の弊害も受けることになります。
例えばマスメディアは、悲惨な状況、インパクトの有る情報、
に偏って取り上げる傾向が有ります。視聴者や読者に興味を持たせ、
結果として番組の視聴率(新聞の購買数)を上げるのが、彼らの仕事だからです。
平常のままではニュースにならない。プーケットのように、
津波の後に比較的早く”普段通り”に戻った場所に取材に来た記者にも、
日本にいるデスクから「もっと凄い画は無いのか」と催促が入っていました。
インターネットの世界では、もっと単純に人を騙して躍らせてやろう、
という愉快犯的なデマも流されます。
流れる情報が本当に正しいのか、正しいとしても一面だけを見ているのではないか、
そこに気をつけないと、被災地(や社会全体)に対して
マイナスになる行動を取ってしまうかも知れません。
まだまだ不安定な社会状況だからこそ、
やるべきことはしっかり見極めていただきたいものです。
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■スマトラ沖地震と大津波の経験から 前編
PROFILE
増子均
Hitoshi Masuko
通称Marcy
日本ではニュース番組のディレクターとして水中取材などを手がけ、
趣味が高じてダイビングガイドに転職。
約15年前、当時ほとんど知られていなかったサムイ島に最初の日本人ガイドとして常駐して以来、タイ湾の海の情報を発信し続けてきた。
中層浮遊から動かずマクロまで好みの幅は広いが、ガイドの最大の仕事は安全に潜ることだと思う。昔取った杵柄?で写真やビデオ撮影にはそこそこ詳しい。
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