佐藤長明さんインタビュー「ダイバーにできること」
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(C)SATO NAGAAKI
香住の海で、ダンゴウオの魅力をたっぷり教えていただいた佐藤長明さんに、
写真集への思いや震災に関連することをお聞きしました。
Q. 今回、ダンゴウオの抱卵というサプライズがありましたが、
香住の海を潜っていかがでしたか?
A. 抱卵は環境があって始めて成立します。そういう意味では、
実際に潜って水中の環境を見たときから可能性を感じていました。
今まで稚魚が見られていて、産卵した後のメス(※編注:痩せ細りゲッソリ)や
抱卵のオスも見つかりました。
こうなると、1年中、この海ではダンゴウオが観察できると思います。
Q. ダンゴウオを探すコツを教えていただきたいのですが……
A. 1年中潜って観察することに尽きます(笑)。
皆さん、「意外なところに産卵するんですね〜」とおっしゃいますが、
生態や行動を熟知していれば、そんなに驚くようなことではないかもしれません。
Q. 写真集のテーマにダンゴウオを選んだきっかけは?
A. やはりご当地を代表・象徴する生物を通じて志津川の魅力を伝えたいと思ったからです。
他にも店名であるクチバシカジカなど、志津川ならではの生物はたくさんいますが、
わかりやすさや人気という観点もあったと思います。
Q. さて、話は変わり震災についてお聞かせください。
震災後、現地に戻ったときに、まずどのようなことを思いましたか?
A. ショップ所在地跡を訪れた時には言葉もありませんでしたが、
いい意味で踏ん切りとも、覚悟ともいえる思いが湧き上がったことも事実です。
そんなとき、瓦礫となったショップの前にできた水たまりに
ハゼの仲間が泳いでいるのを見つけました。
被害は水中生物に及んだことは間違いないものの、
自然生物の”生きる強さ”に励まされた一幕でした
Q. 志津川の海を潜れる見通しは?
A. 私の従事する仕事は、南三陸町という小さな過疎地の
観光業の一環を担っていたと思います。
ライフライン・レベルではすぐに復興することは難しく、インフラ整備も必須です。
お越しいただけるゲストの余暇を安全で楽しく提供する義務がある以上、
それ相応の年月が必要になるでしょう。
ファンダイビングを提供できる日がいつになるのかは想像がつきません。
Q. 多くの人が「私に何ができるのだろう?」と自問自答していますが、
ずばり「今、ダイバーにできることは?」
A. サンゴから流氷まで観察できる日本の海には、生涯かけて潜ったとしても
解明しきれないほどの魅力と知恵が詰まっていると確信しています。
そんな日本の海のいちエリアを担う一員であったと自負しているし、
復興に向けての私なりの形で尽力する覚悟です。
それが実現したときに、自粛ムードが加速し、
元気なダイバーがいなくなっていることほど悲しいことはありません。
皆様、それぞれに愛する海との距離感を保ちつつ、
見つめ続けていただけることが、私にとって何よりの励みとなるでしょう。
Q. お店の再開を含め、今後の予定を教えてください。
A. 志津川ですぐに再開はやはり難しいと言わざるをえない。
ありがたいことに、いろいろな方から声をかけていただいているのですが、
今の段階では「いずれどこかでオープンしたい」ということしか言えない状態です。
でも、「ウエットスーツは似合わない」とよく言われます(笑)。
津波に飲み込まれ、跡形もなくなってしまった「グラントスカルピン」跡地。
津波時、佐藤さんは撮影のためご夫婦でカナダに滞在中で難を逃れた。
現在は、佐藤さんのご両親共々、奥さまの実家がある北海道に一時身を寄せている
「グラントスカルピン再オープン!」というニュースをお届けできる日が、
1日でも早く来ることを願うばかりです。