「みんなでダイビング小説というジャンルを作っていきましょう」
ダイビング小説「シューボコ」作者 × 3日連続ロング・インタビュー
一色伸幸 氏
作者プロフィール
第3回
「みんなでダイビング小説
というジャンルを作っていきましょう」
■聞き手/編集長テラ ■撮影/石丸智仁
人との出会いが一色さんをダイビングに駆り立て、ドラゴンレディとも再会。ハイペースで潜る期間を経てダイビングに対するスタンスも徐々に変化し、今度は映画とは違ったモチベーションでダイビング小説を書くことに……。
○第1回 今だから言える『彼女が水着にきがえたら』
○第2回 ダイビングのきっかけは、人との出会いとドラゴンレディとの再会
―連載中の小説「シューボコ」は、日本初のダイビング小説として注目されていますが、
なぜダイビングをテーマにしようと思ったのでしょうか?
ダイビングを通じて本当にずいぶん大勢の方たちと知り合って、お世話になったし、すごくいいお話をいっぱい聞けてね。そこは物書きは乞食なので、せっかくそうやって仕入れたものをアウトプットしようと思ったというのがまずひとつ。
あと、ダイビングって目的がないじゃない? 『海猿』だって、あれはダイビングではなく人命救助の話だし、ダイビングで宝探しをするという映画もあるけど、あれも宝探しの話だからね。同じように、ダイビング小説というのも、ひとつだけ『沈む魚』が思い浮かぶけど、あれも一種のミステリーで、その場所として海の中を選んでいるところがある。
もっと普通にダイビングを題材にした小説がないので、それを切り開いてみたいというのがある。読むと潜りたくなるような小説が書きたかった。
―それが、”人”に焦点を当てた小説だったんですね。なぜ、人がテーマなのでしょうか?
普通に暮らしていると仕事関係の友達ばかりになっちゃって、どこかで利害が絡み合ったり、お互い仕事の情報交換になっちゃったり、嫌なところがあるじゃない。
それがダイビングだと、会社の重役さんであったり、看護婦さんであったり、いろいろな背景の人たちがまったく利害関係なく、その日の海のことだけを話題にして過ごすというのがすごく新鮮だった。合間にちょっと仕事のことを話したりもするんだけど、あくまでダイビングが中心でね。
そして、そこで会った人たちがおもしろかった。
ダイビング雑誌を始め、いろんなメディアがダイビングの魅力を一生懸命伝えようとしている。でも、できることはポイント紹介だったり写真の紹介だったり、生物の生態だったり、となってくる。
でも、人のおもしろさっていうのは、例えばインタビューしてもそれは表側しか出てこない。「この間潜りに行って、来てた看護師とやっちゃった」という話はできないわけじゃない。やっぱりメディアに出れば表側のことしか言えない。
僕にとって、生物や写真よりおもしろい人間関係のことはフィクションでしか語れない。だからそこを描いてみたいなと。そうすれば水中写真だったり、海の紹介記事とはまた別の魅力を出せるのかなと思う。
ーフィクションとのことですが、どの程度、起こった出来事、出会ったダイバーたちが
小説にフィードバックされるのですか?
半分くらいはモデルがいて、そのモデルをフィーチャーし、置かれたシチュエーションをもっと物語的に極端にした感じかな。
例えば、後に出てくる「セブの女王」という話も、実際にショップツアーをはたから見てすごくおもしろいと思ったからできた話。カッコいいイントラに引率された、女子と言っているおばちゃんもおもしろいし、すごくいい女のイントラに引率された明らかに狙っているおじさんたちもおもしろい(笑)。
―小説に登場する”人”はもちろんダイバーですが、
ダイバーという人種はどんな傾向があると思いますか?
これはダイバーに限らないことだとも思うんだけど、基本的に女の人は社交性が高い。女の人と一緒になって、嫌な思いをしたことは一度もない。
男の子もあんまりないんだけど、オジサンたちにはたまに困った人がいる。こんにちはと挨拶しても返ってこなかったりとか。
なぜだろう?と考えると「東京でひたすら愛想をよくしなくちゃならなくて、海に言ったら誰とも口をききたくない」なんて推理もあるんだけど、これは女性の場合と同じようにダイビングに限らず、男性は社会性を引きずってくる方がたまにいる。例えば、社会的に地位の高い方は、海でも特別扱いされてないと納得しない。男って名刺交換しないと心を開けないような、女性よりずっと不自由な一面を持っているんだよね。
女の人は隣合った人とすぐに仲良くなったり、あんまり会社の名前とか言わない。そんなことに価値持ってないんだよ。
でも、男って「何のお仕事していますか?」くらいまでならいいんだけど、例えば「テレビ局です」と答えると「どちらの局ですか?」といった返しになってしまう。すごく男の不自由さが海はフィーチャーされる感じがするなぁ。
海の上に行けば、イントラだろうがオジサンだろうが若い女の子だろうが、転覆したらみんな溺れる。行ってみれば単なる小さい存在になるわけじゃない。それなのに社会性が反映されるのがおもしろい。
―ちなみに、一色さんがお仕事を聞かれたときはなんと答えていますか?
モノを書いていますと。作品なんかを興味本位で聞かれると面倒だから「たいしたもんじゃありません」って答える(笑)。もちろん、きちんとコミュニケーションを取って仲良くなれば、もったいぶるもんでもないし、きちんと答えますけどね。
―『彼女が水着にきがえたら』の脚本を書いたというとダイバーに驚かれませんか?
最近の人はあまり知らないので、むしろスタッフの方が驚く。ベテランさんだと、それでダイビングを始めたって人もいる。
―人と人が出てくれば”出会い”が生まれる。さて、恋愛の場としてダイビングはどうですか?
何でもダイビングに結びつけようとするんだから(笑)。でも、まあ、恋愛はしやすい環境だと思う。どこでも出会いがあればそういうきっかけにはなるからね。それに、感動を共有できるわけだけし。
でも、君は潜りすぎているから忘れてしまったかもしれないけど、100本も潜っていない人なんて、周りのことなんか見てないよ。というか見えてないよ。ボートに素敵な人がいてもそれすら見えていない。
―恋愛に限らず『シューボコ』の各和は、ダイビングを舞台に、
いろんなシチュエーション、人々が出てきます。
まさに、読めば潜りたくなるような話ばかり。
しかし、物語の根底には‘主人公の死’があり、大きな柱となっています。なぜでしょうか?
結局、自分のことしか書けないんだよね。自分が死ぬときに何を思い出すかなということを思ったら、仕事のことより
も、あの海であんなことがおもしろかったな、あんな人がいたな、ということのような気がした。
同じように、主人公が死に直面したときに、海の体験というのを彼は遺したいと思った。それは、仕事でも家庭でもなかった部分。それらが白黒だとするとカラーの部分。
やっぱりどこか自分のことなんだよね。
―小説は、どういう人に読んで欲しいですか?
まずは、基本、ダイビングをやっている人に一緒におもしろがりましょうと。
だから、逆に読んでいる人の中で「こんな経験ある」というのをフィードバックできたら一番おもしろい。まずはダイビングをやっている人に読んでもらいたいし、その人たちが楽しめるようにしたい。
そして、そこからダイビングをやっていない人にも広げられればと。ダイビングの魅力ってなかなか説明しにくいけど、人がテーマの物語なら伝わると思う。
―ダイビングを知らない人だと専門用語が出てきたりして伝わりづらいということはありませんか?
それは大丈夫。
山岳小説というのは立派なジャンルとしてあるけれど、僕らは細かい山岳用語はわからない。でも、細かいことがわからなくても、今は危機に瀕しているのだなとか、今はすごくうまくいっているんだなとか物語としては伝わる。
BCという言葉を知らなくても、BCの具合が悪いと書けば、読んでいる人は、何かピンチなんだなとわかるじゃないですか。『救命病棟24時』という医療ものを書いたときもそうだった。専門的な医療用語を知らなくても、緊迫した手術の様子は伝わる。だから、わからせるというのはあまり興味がないんですよ。
だから、ダイバーだろうがノンダイバーだろが、経験あろうがなかろうが、誰でも楽しめると思う。ただ、すごくベテランの人から見ると、津川君みたいなダイビングを始めて夢中になり始めた人の目線てのは参考になるかもしれないよね。潜りすぎている人って何が楽しいかわからなくなっているところがあるからね。
―例えば、魚を見せなきゃ恐怖症のガイドさんのような(笑)
そう。魚のガイド0でもいいって時もいっぱいあるんだけど、やった気がしないんでしょうね。潜り始めたころ、ガイドが興奮してクダゴンべを見せてくれた。まあ、綺麗な魚だと思ったけど、別にレアもんだとか知らなかった。僕はクダゴンベよりハリセンボン見ているほうがおもしろいもん。
―最後に、読者の方々にひと言お願いします。
読んでいる人がおもしろがってくだされば、最終的に電子書籍なり水中写真をふんだんに配した出版なりビジネスにしていきたい。
『シューボコ』は、僕が書き、皆さんが読み、フィードバックしてもらって一緒に作っていきたい。そして、「とってもおもしろかった」「もっと読んでみたい」と言っもらえれば、僕は来年もぜひやりたい。
ただ、無料じゃできないので(笑)、いずれ電子書籍なり出版なりする『シューボコ』をぜひ買っていただきたい。それで、もうからなくても、採算があえば来年も再来年もやっていきたい。
三年、三作も続ければダイビング小説が認知されるし、そうすれば映像化も見えてくる。そのために、みんなでダイビング小説というジャンルを作っていきましょう。
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■作者からのごあいさつ
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