地球にとって、人は片利共生かパラサイトか

プロフェッサー・パパもんの「我潜る。故に我あり」

アメリカの水中写真サイトに「WET PIXEL On Line」というものがある。
すばらしい写真が満載のサイトだ。

このサイトにはテーマを決めた週間写真コンテスト「Photo of the Week (POTW)」という人気コーナーがあるが、
2011年5月23日に締め切られたテーマ設定は「片利共生(Commensalism)」だった。

「片利共生」これはどういう意味だろうか。

ダイバーなら誰もが知っていることだけど、
クマノミはイソギンチャクと共生している。いや共生していると言われている。

共生(symbiosis)とは、異なった種類の生物が密接な関係で
一緒に生活している現象を指す生物学上の言葉なんだけど、
その「一緒に生活している生物」たちの利益・不利益の有無に基準を置いて
区別をつけようとするなかの一つの関係のあり方が片利共生といわれるのだ。

共生のあり方には4とおりがある。
つまり相利共生(両方に+)、片利共生(片方にのみ+)、
片害共生(片方にのみ-)、寄生(常に片方に+で片方に-)の四つがそれだ。

このコンテストの3位を獲得しているのはハナビラクマノミだが
クマノミとイソギンチャクの関係は本当に「片利」なのだろうか。

この共生関係の中で、クマノミがどのような利益を得ているかは比較的に明瞭だ。
イソギンチャクはクラゲやサンゴと同じく、
触手に無数にある刺胞と呼ばれる毒液発射器官で餌となる魚などを刺して、
麻痺したところを捕獲する。
しかしクマノミは、その体表を覆う粘液の化学組成がイソギンチャク類の粘液の化学組成に似ており、
イソギンチャクの刺胞毒が効かないので、イソギンチャクに身を隠し、
恐ろしい食肉魚から身を守ることができる。

だけどイソギンチャクの方は何も得をしていないのだろうか。

諸説があって定かではないようだけど、
たとえば、クマノミは大きすぎる餌を捕獲した場合、
その一部をストックするという習性があるようで、
イソギンチャクはクマノミが食べ残したその食物にありついているんだとする説や、
クマノミの攻撃的性格に目を付けて、イソギンチャクの触手をかじる
チョウチョウオのような天敵からイソギンチャクを守っているという説、
触手にたまった余分な刺胞をクマノミが自分の粘液に張り付けて「掃除役」をしている説、
クマノミが守ってくれているからリラックスしてイソギンチャクが成長できるとする説などがあるみたいだ。

だけど、これらの説のどれもつじつまの合わない部分がある。

例えばクマノミ自身がイソギンチャクの触手を囓っていた、
あるいはクマノミがイソギンチャクから逆に餌を奪っていたという報告例もあるらしい。

そういうことで、この両者の関係は「相利共生」ではなく「片利共生」であると主張する人も少なくない。

しかしパパもんは思う。何が自分の利益になっているか、
害になっているかなんて、そんなに簡単に言えることじゃないのではなかろうか。

例えば一時期「パラサイト(=寄生)・シングル」だとか「パラサイト現象」という、
結婚をしぶり大金を消費しながら両親のもとに居候をきめこむ若者を揶揄する表現がはやったことがある。
(これは同種の生物同士の話だから少し的はずれな用語法でもある。)

しかしこの論法で行くと、我が家では稼ぎ手はパパもん一人だから、
女房や子どもたちはパパもんに「寄生」していると言えるのだろうか?
あるいは子どもたちや女房を養っているからには、
パパもんに何か得になることがなければならないのか。

世の中にはそんな世知辛い考え方をする人もいるのだろうけど、
パパもんはそのように感じたことなど一度もない。

そもそも近代の西欧では「万人の万人に対する闘争」(トマス・ホッブズ)、
つまり食うか、食われるかの関係であるとか、
自由社会の原理と称される「競争」原理が生物界の法則であるかのごとく考える見方が支配的だった。

しかしその後、「共生」こそが普遍的な関係であって、
生態系を完成させているのはこのような形式であるということが
徐々にではあるが認められるようになってきている。
(その意味では社会科学は遅れているね。)

生態系は持ちつ持たれつの関係にあるのであって、何も「余分な」ものはない。
“冗長性”といって、ある種が絶滅しても、他の種がそれを補完するような機能も備わっている。

一番いただけないのは、そういう生態系のなかにあって、
ある特定の種を自分に害をなすものとしてことさらに「敵視」し、
冗長性が機能する以上に、次々とその「有害な」生物を絶滅させようとする人間の愚かさだろう。

仮に自分に益するところがほとんどなくったって、
クマノミを懐深く抱え込んでいるイソギンチャクに人間も学んだ方がいいのではなかろうか。

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