プロダイバーが知っておくべきこと 〜労災と潜水士〜
先日のやどかり仙人さんの記事「ここが変だよ!?潜水士」の中の一文、
“労災を適用するには、潜水士資格が条件になります”に対して、
「いやいや、そんなことはないですよ」というご指摘。取材した結果をご報告します。
ポイントは、ダイビングの業務に関して2つの法律があるということ。
まず、大きなくくりとして給料を払って人を雇う場合、
労働者災害補償保険法で、事業主は「労災保険に加入しなければならない」。
簡単に言えば、仕事で怪我したり病気になったりしたら事業主は補償しなければならず、
きちんと補償されるように、事業主は保険への加入が義務づけられている。
さらに、労働災害が起きないよう、
各事業で必要と思われる免許の取得などを義務づけているのが労働安全衛生法で、
その中で、レジャー・作業潜水を問わず、ダイビングに絞った場合、
事業主は「潜水士資格のない労働者に潜水業務をさせてはならない」。
つまり、従業員が潜水士でなくても事業主は労災保険に加入する義務があり、
労災事故が起きたときに従業員は給付申請をすることができるが、
そもそも事業主が潜水士資格のない者を雇うことを想定してない。
しかし実際は、作業潜水ではほぼあり得ないが(仕事が来ない)、
レジャーダイビングでは結構よくある話というのが現状。
やどかり仙人さんも、
「事業者は潜水士資格がない者に潜水業務をさせてはならないが(=業務の資格条件)、
潜水士資格なしで潜水業務をした事故などでの労災は適用できる(=業務上の事故をカバーする労災の条件でない)。
確かに、これを短絡的に解釈すると、潜水士は労災の条件でない。
ただし、業務をする資格のない従業員が労災を申請するという奇妙な矛盾が生じる 。馬鹿な話だ」
と2つの法律と現実が抱える矛盾を指摘する。
ちなみに、潜水士資格のない従業員にタンクを使った水中での業務(ガイドなど)をさせると、
労働安全衛生法違反という事で事業者には罰則が適用される。
その上で事故などおこしたら、労災保険料等を割増で取られる(そもそも労災隠しは犯罪 )。
当たり前の結論だが、
「他人を雇うのであれば、労基署に労災の適用事業所としての届出を出し、
もし、潜水士免許がなければ早く取らせる事」に尽きる。
※ただ、潜水士が無いからといって、 今日明日に労働基準監督署から罰せられるとは思えない。
しかし、慌てる必要はないが、無視はできない。
※労災保険の後には雇用保険の加入や健康診断が待っており、
費用がかかるので事業主は嫌がる。
悩ましいところだが、雇用保険加入義務のないパートで対応するなどの手はある。
土日だけ来るサラリーマン兼業インストラクターなど、雇用保険の加入義務はない。
今回お話を聞いた社労士の斎藤さんは、自らも体育会でダイビングを始め、
潜水士歴35年・社労士歴19年・三宅やNHKの水中撮影でバイトした、元学生ダイバー。
法律と現実の狭間に立ち、イントラやガイドなど夢と現実の狭間で生きるダイバーをよく知る立場から、
最後に提言をいただいた。
「全体としては、ダイビング業界の不備というより、小規模事業であって、
運営していく上で特別な許認可が必要のない業種によくあることではないでしょうか。
美容・飲食業なども一緒です、調理師や美容師の免許もありますが、
これ等の免許は、従業員自身のスキル向上には直結しません。
これに近い考えですが、ダイビングショップやサービスの場合は、
同時に自分自身の安全確保も重要です。潜水士免許だけで安全を確保できるわけもなく、
ましてやスキルの向上を図れるわけでもありません。
より上を目指すなら、スタート台と考える割り切りも必要でしょう」
「また、海が好きでダイビング事業を始める人は多いと思います。
しかし、経営は海が好きなだけではやっていけません。
税務、労務、事業主として避けては通れない事、
より効率的に儲けを確保する方策、色々あります。
簡単な例では、開業する時、個人事業にするか?会社を作るか?
どちらが得か?そこから迷う人が多いですね。
帳簿も完全に人任せでなく、ある程度の仕組みを知って経営にあたる。
事業を伸ばすためには必要だと思います。」
■監修/城南労務管理事務所・斉藤賢一
http://crp1.co.jp/