知床の感動が変えた視聴率と私の進路……
こんにちは。須賀潮美です。
今回は前回の続き、知床特集の2回目です。
「ニュース・ステーション」2回目の放送は、
知床半島の南側、太平洋に面した羅臼を取り上げた。
半島を挟み、山を一つ越えるだけで海の表情はがらりと変わった。
オホーツク側は氷で閉ざされていたのが、
羅臼側は流氷の数も少なく、海面に点在する程度だ。
流氷は多くの恵みも北の海から運ぶ。
漁船で沖を目指すと、遠くカムチャツカ半島から食べ物を求めて南下してきた
オオワシが氷の上で身体を休めている。
流氷が少ないとはいえ、海面はシャーベット状の細かい氷でおおわれている。
氷で埋め尽くされた海に飛び込むのはやはり抵抗がある。
漁船から思い切ってエントリーすると、細かい氷が舞い上がった。
光を浴びてガラス細工のようにきらめく氷は、なんと美しいことか。
思わず冷たさも忘れて、氷が舞う様子をリポートした。
海底を見ると、コンブやアマモ、スガモなどの海藻が広がり、
見上げれば流氷が雲のように浮く。まるで草原の上を飛んでいるようで気持ちいい。
作家の立松和平さんは、凍てつく船上でモニターを見ながら、
船の真下に広がる世界を私と会話を交わしながら、自身の言葉で語っていく。
後に立松さんはその時のことをこう書いている。
「ほんの少数のダイバーしか見たことのなかった世界が、確かにそこにはあった。
流氷の下は発見に満ちていたのだ。
このすぐ下の世界なのに何とも不思議きわまりなく、ぼくやスタッフの驚きを、
そのまま映像と音声で表現できた。ぼく自身にも大きな発見だった。感動だった」
立松さん、私、スタッフの感動はテレビを通じて視聴者に伝わった。
流氷の鮮烈な映像は、都会で働き1日を終えたサラリーマンの心を癒し、
低迷していた視聴率は、知床を特集した2本が放送される間、跳ね上がった。
その結果を受け、日本の海、川、湖を巡り、
辺境に暮らす人との出会いと自然を伝えるシリーズが始まることになり、
卒業を間際に控えていた私は、就職するか(いちおう就職先は決まっていた)、
水中リポーターになるか選択を迫られた。
「シリーズになったとはいえ、1回で終わってしまうかもしれない。
先の保証などまったくない。それでもやってみるか」と問いかける番組ディレクターの言葉に、
1秒後には「やります!」と大きくうなずいていた。