タンクがいらなくなる? リブリーザー時代で高まる期待

この記事は約6分で読めます。

リブリーザーダイビングの本格スタート

風の便りでは、今年の話題の目玉は、PADIのリクリエーションダイビングのリブリーザーダイビングへの本格的なスタートと聞いております。空気以外のガスブレンドどころか、ナイトロックスの普及すらよちよち歩きの、お寒い事情の日本の国内から、なんとリブリーザーをリクリエーションダイビングに使ってしまえという、欧米諸国の柔軟さというか、大胆さをため息まじりで見守っております。

もちろん日本国内にも、先端的なダイバーのみなさんがおられて、いろいろな制約の中で、リブリーザーの高度のテクノロジーを駆使しておられます。しかしながら、操作の面でも理論の面でも、長期のトレーニングが必要だし、リブリーザーの器材そのものが高額なこと、さらには大深度の減圧ダイビングに使われることが多く、どうしてもシリアスな、テクニカルダイビング用器材のイメージがぬぐえませんな。ヤドカリ爺はテックダイビングのハイポキシックだの、ヘリオックスだのなんて難しいお話はちんぷんかんぷんであります。

とは言うものの、ヤドカリ爺なども、海に入れば重量ゼロ設計とはいいながら、特に小柄な女性ダイバーなどが、大きなタンクの重さに歯を食いしばっておられるのを見ると、小さなタンクの循環式呼吸装置なら、こんな苦労をせずにすむのにと、ひそかにこのタイプの呼吸装置が早く普及したらと念じておりました。理論的には大幅にコンパクトにできるという将来性からすれば、究極のリクリエーション用の呼吸装置はリブリーザーだと、素人考えながら、感じております。

リブリーザー時代の幕開け!?

エレクトロニクスでガスをコントロールするエレクトロラングなんて初期型のリブリーザーのニュースを40年も昔に見た記憶がありますが、その後リクリエーションの世界には姿を見せるには、かなりの時間がかかったようであります。ま、いってみれば、アマチュアのダイバーの手に負える代物じゃないよって、ところだったんですね。

ところがデアリマス。1990年代から、テクニカルダイビング・ダイビングの領域に踏み出していくスポーツダイバーが増えてきて、リクリエーションダイビングとテクニカルダイビングの垣根というか境目がはっきりしなくなってきました。空気を使うノーストップダイビングの世界にだけ、リクリエーションダイビングが閉じこもってばかりいられなくなってきたというところでしょう。

世界最大のリクリエーションダイビングの指導団体PADIが、いわばテクニカルダイビング専用と思われていたリブリーザーを、リクリエーションダイビングでの使用に踏み出したわけでありますな。その意味では、リクリエーション・リブリーザー・ダイビング時代の夜明け宣言といったところでしょうか。とまで言うとチョトばかり、持ち上げすぎとお叱りもありそうですが、ともあれリクリエーションダイビングのリブリーザーコースが始まったわけであります。

リクリエーション・ダイバーでも使えるリブリーザー

どうして、なぜリクリエーションにリブリーザーを!? テック・ダイビング専用じゃなかったのと思う方が、やどかり爺だけでなく、このダイビング・ドット・コミュのビューアーのみなさんの中にも多かろうと思います。

たぶんこれはかのPADIにとっても大問題ですな。世間さまが、リブリーザーがシリアスなテック志向のダイバー専用と思っていたんじゃ、はなからっ勝負になりません。今までのイメージを一新する必要があったようです。

大胆なやり方です。

リブリーザーはガスの混合比を変えたり、ガスの選択を変えたりで、最大100mといった深度でも使用が可能なのですが、テクニカルダイビングでリブリーザーを使うには、操作を学ぶ以前にまずテクニカルダイビングを学ぶ必要があります。当然トレーニングは大幅に複雑化して長くかかります。

そこでPADIはリクリエーションダイビングとテクニカルダイビングをずばり分けて、それぞれのトレーニングレベルによって、最大深度や使用するリブリーザー、呼吸ガスなどを決めてしまったのです。

もう1つのユニークなところはリブリーザーをタイプRとタイプTの2つのカテゴリーに分けてしまったところです。タイプRはリクリエーションダイビング向きモデル、TはテクニカルのTでテクニカルダイビング対応の機種を意味します。

すごい大胆な発想と思ったのは、テックダイバーでもなければ、テックダイバーになろうと思っていないリクリエーションダイバーにリブリーザーを使わせるという発想です。これがPADIリブリーザー・ダイバー・コースとアドヴァンスド・リブリーザー・コースです。全自動式のCCRを使うことで、面倒な操作をはぶき、トラブルが起きたときには、付属の小型のスクーバシステムの空気を使って浮上する。つまりこれまでのスクーバと、基本的に同じダイビングをしようとするところです。それぞれ18mと30mの最大深度が決まっております。

議論や批判の先にある希望

しかしながら。あくまでも基本的にはでありまして、リブリーザーにはダイバーの呼気のCO2を吸収する化学薬剤の取り扱いとか交換、使用後の丁寧な手入れなど、使いっぱなしでも少々のことじゃトラブルのない、スクーバとまるで違います。どうしたって、酸素の取り扱い、CO2の吸収剤などの供給をしてくれるダイビングサービスなど環境づくりも必要ですな。現在のあの大きなリブリーザーのままでは、ちょっと万人向きとは言えそうもありませんが、すでにメーカーの中にはリクリエーション用のリブリーザーを発表しておるようです。

実現させるには、指導団体がコースをスタートさせ、メーカーがリクリエーション目的のリブリーザーを開発し、ガス充填や化学剤を供給するダイビングサービスがすべてそろってのことであります。これはなかなかの大事業です。いや実験プロジェクトもいえそうです。

このような新テクノロジーが登場するときには、必ず賛否両論、議論が起きます。新しいテクノロジーには必ずプラス面もマイナス面があります。たぶんこれまでのテック思考のダイバーや、団体からの議論の矢面に、PADIはしばらくの間立つことになるでしょうな。

ヤドカリ爺としては浅いところに使用が限定されるのなら、リブリーザーでなくとも、普通のスクーバでも、たっぷりとダイビングはできるとも思いますが、将来小学生のランドセルぐらいのリブリーザーが開発されれば、こりゃうれしいし、せっかくのコンピューター制御、深度によるガスミックスの自動コントロールで減圧症のリスクも下げられるかも知れんなどと、ニヤリともするのであります。

11月2〜5日に開催される、ダイビング業界の最大のトレーディングショー《DEMAショー》でも、リクリエーション・ダイビングでのリブリーザー、GO!!の大号令がかかるでしょう。いろいろと制約の多い日本のことです。すぐにはリブリーザーでだれもが潜れるとは思っておりませんが、否応無くその波は押し寄せてきそうであります。少なくとも海外に出かければ、あそこのリゾート、こちらのサービスで、リブリーザーがまもなく目にすることになるでしょう。

※10月13日20:30一部修正今年の《DEMA》ショーがすでに開催されていたような記載がありましたが、11月2〜5日開催予定です。お詫びして訂正いたします。http://www.dema.org/

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
FOLLOW