ひとつの海を潜る大切さ 〜至言シリーズ〜
ひとつの海を潜ると座標軸ができる
■水中写真家・中村宏治さん
「法政大学アクアダイビングクラブ」の機関誌『水平線』の中に、
水中写真家の中村宏治さんのインタビュー(聞き手/須賀潮美)がある。
中村さんは、フィッシュウオッチングと潜水訓練に先鞭をつけた益田一氏に師事し、
ダイビングを始めた最初の5年間は伊豆海洋公園にしか潜らなかった。
学生運動の激しい時期だったので、年間300日は伊豆海洋公園にいたという。
■益田一さんのことを書いた須賀次郎さんのブログが興味深いです→こちら
中村さんは、毎日同じところに潜っていてもちっとも飽きることなく、
それどころか、ひとつの海に潜ることによってすべての海が楽しめるようになるという。
「同じ場所に潜っていると、毎日出会う魚とそうじゃない魚がいることに気づく。
昨日見たあいつが今日はここにいた。シーズンになると2匹でいたとか、
同じ海を観察し続けることで、海の中で何が起きているのか、
いろんな推察ができるようになってくる。そういう見かたをし始めるとすごく面白い。
若いダイバーのみなさんは、ぜひ自分の基地となるフィールドを持ってほしい。
伊豆のように簡単に行かれる場所で、毎週、毎月のように潜っていると、
自分の海に対する座標軸ができる。1つの海で座標軸を作り、生物の知識やダイビングや水中写真の技術が身につくと、すべての海が楽しめるようになるからね」
座標軸を作るということはすべてのことに言える。
例えばダイビング器材。よく「どのメーカーのがいいですか?」と聞かれるが、
これもまずは器材を使いこむことみよって自分なりの器材の座標軸ができ、
「次はこういうのが欲しい」となる。なかなかいきなり最適な器材と言われても難しい。
フィッシュウオッチングでも、ひとつの場所で魚の基本を覚えておくと、
他のところで潜ったときに「ここにはこいつがいるのか〜」「こんなの初めて!」
と、どんな海でも楽しめるようになる。物語を感じられるようになる。
僕は始めのころは伊豆しか潜っていなかったので、強烈な伊豆座標軸ができていた。
なので、300本を超えて初めてマンタに出会ったときの感動は忘れない。
1本目でマンタと出会っても感動するだろうが、
良い悪いではなく、感動の質は違うだろう。
もちろん、スキルアップの面でも、ひとつの海に潜り続ける効用は大きい。
「ひとつの海に潜ると座標軸ができる」
週末、せっせと近場の海に潜ることの意味を教えてくれるけだし至言なのである。
ちなみに、当時、ダイビングは泳げなければダメという時代で、
僕も泳げることは大事だと思うのだが、
「大会前は1日1万m、2か月くらいで600㎞以上泳いでいた」という中村さんの言葉は、
あえて、至言にせずにスルーすることにします(笑)。
フリッパーレースで疲れ果てている、純粋無垢だったころ(大学1年生)の編集長テラ