差別語を含む魚の標準和名の改定

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前の日記でも軽く触れましたが、
差別語を含む魚の標準和名が改名されます。
僕は以前、魚の名前についての記事を書いたことがあり、
日本魚類学会標準和名検討委員会の委員長・瀬能先生にインタビューもしました。
確か3年前くらいだったと記憶しているのですが、
当時すでにこの差別語の名前の話についてかなりの時間を割いた記憶があるので、急に始まった話ではありません。
また、僕の実家が精肉店だったので差別問題には興味があったこともあり(わかる人にはわかると思いますが、精肉店っていろいろ差別問題に無関係ではないのです)、
改名の動向には注目していました。
最終的な発表を待ってからコメントしようとも思っていたのですが、
僕の意見が聞きたいというメッセも多かったので、
現時点で思うことを述べさせていただきます。
その前に、まずは概要から


「日本魚類学会(松浦啓一会長)は、“バカジャコ”“イザリウオ”など差別的な言葉を含んだ魚の標準和名を改名する。見聞きした人を精神的に傷つけたり、不快感を与えたりすることがある上、博物館や水族館などが別名への言い換えをバラバラに行う例も多く、混乱を解消すべきだと判断した。今月中に正式決定する。動植物や昆虫などにも差別語を含んだ標準和名が多いだけに、他学会にも影響を与えそうだ。改名するのは、日本魚類学会標準和名検討委員会が差別的と判断した“メクラ”“オシ”“ミツクチ”など九つの語を含む魚で、日本産の魚類約3900種のうち30種が対象。同様の言葉が“種”より上位の“属”や“科”などの分類単位に使われている例もあるため、計49の標準和名を同時に改名する。」(1月6日/読売新聞)
こうした問題で必ず出てくる対比意見は、
①「差別される側の苦痛を考慮せよ」と
②「言葉狩りじゃないのか」。
まず、差別をしようという意図を持ち、
差別用語を使って相手を傷つけることが悪いことぐらいは誰でもわかっています。
難しいのは“悪意がない”場合。
“ばかちょんカメラ”や“外人”なんて言葉は、
特に悪意なく普通に使っている人も意外と多いですよね。
マスコミ関係者なら当たり前の認識でしょうが、
まず、そもそも何が“差別語”かなんて基準はどこにもなく、言葉だけを使わないという姿勢は“言葉狩り”や”言論の不自由”を生むだけ。
そういう意味では僕の一番嫌いな意見は「差別と感じる人がいる限り、その言葉は無条件に使ってはならない。“知らなかった”は理由にはならない」。
しかし、これはけっこう多い意見でもあります。
いろいろなコミュを見ても「差別用語だっただなんて知らなかった。無知って怖いですね〜。使わないように気をつけよ」って意見があふれています。
ただ、反対に悪意がなければいいのかといえば、
もちろんそんなことはない。
やはり差別と感じる人がいる限りそれは配慮すべきは当然。
ただ怖いのは、誰かが言い始めた差別語を「言われる人の気持ち」一辺倒で、無条件に使わなくなることで、
大事なのは、文脈だったり、語源だったり、歴史上の事実関係だったり、総合的な判断をした上で使用することだと思います。非常にデリケートかつ曖昧なままでいいのだと思います。
なので、今回改名される魚の改名は僕は語源が重要だと最初は考えました。
以前、魚の言葉の由来を図書館にこもって調べたことがあるのですが、
今回差別語とされた魚名の中には、
差別の意図がなく生まれた名前もあります。
確かイザリウオにしても語源にはいくつか説があって、
その中のひとつに四肢の不自由な人が這う様子を描写する“いざる”という意味がありましたが、語源はハッキリしません。
しかも、イザリウオを差別語と認識して使用していた人なんてそれほどいるでしょうか?
また、ダイバーへの浸透&定着度は半端ではありません。
そういう意味では、差別語として始まった名前でないものまで改名されるというのは言葉狩りに近いのでは?
というのが第一印象だったのです。
(※)すみません、由来については正確ではないので、昔の記事を調べてこの箇所は後日、訂正するかもです。
しかし、日本魚類学会が発表した提案書の全文を見て、
今は改名を支持しています。
(全文はこちら↓)
http://www.fish-isj.jp/iin/standname/index.html
というのも、日本魚類学会は、差別が問題かどうかではなく、「標準和名としての倫理性、安定性および独自性の面から好ましくない」と言っているからです。
ここで「とにかく差別語はいかん!」とヒステリックに発表していれば、
僕の意見も違ったでしょう。
確かに安定性といわれれば変えた方がいいに決まっています。
つまり、若干意地悪な解釈をすれば、学会は差別問題に対する賛成意見も反対意見もどうでもいい。
「差別語が入っているといろいろ不都合」
ってのが本音ではないでしょうか。
非常に学者的で冷静な見解かと思われます。
また、最後に「なお、ここでいう標準和名とは、あくまでも和名の安定と普及を確保するための各分類学的単位に与えられる固有かつ学術的な名称を指し、旧名および通俗名を必要に応じて使用することを妨げるものではないと考えます」と結んでいます。
つまり、言論を妨げる気もないよ。イザリウオって呼びたければ呼べばってこと。
本音では標準和名以外の名前が乱立することは好ましくないはずですが、「ダイバーに普及しているし!」とか「言葉狩りじゃないのか!」に対する見事なエクスキューズ。
しかも、結局は標準和名に引っ張られて、
いずれみんなその言葉を使うようになることがわかっていて言っているところがまた憎い。
“ハナタツ”だって、当時は「みんなタツノオトシゴでい〜じゃん」などと思いましたが、
今ではまったく違和感ないですからね。
とりあえず頭のいい見事な提案書だと僕は思いますし、
この提案書に反対する理由は何もありません。
僕の意見は最初と今とで変わってしまっていますが、
ここにこそ文脈や背景が大事だというこが見てとれます。
皆さんはいかがお考えでしょうか?
聞いてみたいです。
さて、長くなってしまったので、続きは明日(たぶん)にします。
※明日は、この改名を受けてダイバーやダイビング雑誌がどう反応すべきかについて考えたいと思います。

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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