天職

古巣の会社で仕事をしていると、
接客用のスペースから聞き慣れた声が。
見ると、《スキューバプロショップ富戸》の店長、
村井ちゃん!
なぜ? と聞くと、現在9連休中で、
買い物帰りにフラリと寄ってみたという。
連休は終盤に差しかかっているとのことだったので、
連休中は何をしたのか聞いていた。


すると、「最初の二日間は富戸で潜ったよ」とのお答え。
普段、富戸でガイドをしまくっていても、
たまの休日もやっぱり富戸に潜りたいらしい。
しかも、奥さんに仕事とウソをついてまで
潜りたいというのだから、いかに富戸の海が好きかがわかる。
天職っていうのは、まさにこういうことなんだろう。
僕はこういうガイドさんと潜るのが好き。
僕も自分の仕事は天職だと感じているが、
やはり仕事とプライベートの境界線は曖昧。
ダイビングでいえば取材も遊びも、
そりゃ取り組む姿勢はかなり違うが、
楽しいことにはかわりない。どちらも楽しみ。
編集&ライティングと高校時代の文化祭も、
やっぱり取り組む姿勢はかなり違うが、
どちらも大した差はない。
どっちも同じようにがんばってしまう。
一時、“仕事とプライベートをきっちり分ける”
という考え方が流行り、
オンとオフの切り替えがきっちりできる人が
“できる人”とされた。
オンとオフの切り替えるスイッチがもともとないのに、
僕も一生懸命探した時期があった。
そんなときに、テレビか雑誌か忘れたが、
宮崎駿さんのインタビューを見てヒザを叩いた。
インタビュアーが「プライベートは何をしているのですか?」と尋ねると、宮崎さんは「そんなものはない」と答える。
インタビュアーが「多忙ですものね」と返すと、
「そうではない。仕事だとかプライベートだとかいう線引きは特にない。お金をもらうかもらわないかで分けられるものでもなく、いつだって楽しいものは楽しいし、大変なものは大変。ただそれだけ。『はい、今からプライベートです』と言われて、何が変わるものでもない」
というようなことをおっしゃっていた。
自分と比べるのはものすごくおこがましいが、
僕は思わず「だよね!」と声が出てしまった。
僕が社員時代、会社が終わって家に帰るのだって、
決して義務の時間を果たしたから帰るわけではなく、
単に疲れたから帰るという感覚に近かった。
僕の好きな人たちは皆同じ考え方。
カメラマンの村井ちゃんだって、写真が好きで、
仕事じゃなくてもカメラ持って嬉しそうに
パシャパシャ写真を撮っている。
もちろん、これは職種によるところがかなり大きく、
プライベートと仕事を分けるしかない仕事の方が多いし、
趣味と仕事をはっきりと分けたいという気持ちもわかる。
それだけにせっかくダイビングという夢のある仕事をしている人は幸せを感じて楽しんでやった方がいい。
逆に夢とか楽しいとかの部分がなくなったら、
あまりダイビングを仕事にする意味がない。
僕は大富豪になれる気はしないが、
全国各地、世界中を潜り歩ければとりあえず幸せ。
ここがダイビングという仕事が
ものすごく楽しく夢のある天職になるか、
ただの給与水準の低い肉体労働になるかの分かれ道な気がする。
たまの休みぐらい家で寝ていたいという
ガイドの気持ちはよくわかるが、
休みの日に喜々として潜ってしまう村井ちゃんを見ると、
何だかしみじみと素敵だな〜と思ってしまうのだった。

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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