トゥルーマンとエアーマンの歩み寄り

この記事は約4分で読めます。

熱海ロケの相棒・カメラマンは北さんこと北川暢男氏。
北さんは、水中カメラマン歴20年を越える大ベテランで、
銀塩カメラをマニュアルで撮らせたら、水中の世界で右に出る者はいない。
ひと言で言えば職人である。
職人であるが故に営業力のある有名カメラマンに隠れがちだが、
腕はピカイチ。だから好き。 
そんな北さんと僕は馬が合い、ロケはいつも楽しいものとなるのだが、
困ったこともよく起こる。

というのも、北さんは常に本質・真実を見つめる男。
嘘は言わないし、おべんちゃらなど絶対に言わない。 
対して僕は空気や乗りを重視するタイプの男。
相手が喜ぶことを言い、言わねばならないことを言い逃すタイプ。 
そんなトゥルーマンとエアーマンが一緒に行動すれば、
当然、不幸なことが起こる。 
ダイビング後の船上にてよくあるシーン。 
ガイドさんが嬉しそうに「どうでしたか?」と言う。
エアーマンの僕は「いや〜すごかった。こんなイサキの群れは久しぶりです!」と、
良かったところを見つけて感想を述べる。 
しかし、それを聞いたトゥルーマンは「そうかぁ? そうでもなかったぞ」と完全否定(笑)。 
エアーマンの関心はガイドの気持ちで、
トゥルーマンの関心は写真の出来なのだから仕方ない。
エアーマンは万人に受けいれられるが浅い関係になりがち。
トゥルーマンは時に誤解を与えてこじれるが、気に入られればとことんだ。 
しかし、この噛み合わない状況をお互い楽しんでいるのでいいのだが、
一度トゥルーマンにしてやられたことがある。 
四国のとある海に行ったときのこと。 
ガイドさんから「ハタンポの寿司がうまい」という話を聞き、
「食べたい!」と思うところまではトゥルーマンもエアーマンも同じ。 
しかし、時期外れでハタンポの仕入れが困難だと聞き、
エアーマンはすぐに諦めるが、
トゥルーマンはことあるごとに「一度食ってみて〜なぁ」とつぶやく。
本人は催促しているつもりはなく、本当に食べたいだけなのだ。 
すると、なんと、いろいろ手を回してガイドさんがハタンポを入手し、
寿司を作ってくれたのだ。 
喜んでトゥルーマンとエアーマンは口に寿司を放り込む。
ガイドさんは嬉しそうに顔を覗き込んで感想を待つ。
しかし、トゥルーマンは難しい顔をした後、「ん〜〜」と唸り出す。
ガイドさんの顔もだんだん曇り出す。 
エアーマンは「ん〜〜」の意味を理解している。
正直、味がかなり微妙なのだ。口に広がる強烈な臭み……。 
エアーマンの関心はいろいろ手を尽くしてくれたガイドの気持ちで、
トゥルーマンの関心はハタンポ寿司そのものである。 
エアーマンは思う。ヤバイ。
このままだとトゥルーマンが真実を口にしそうだ。
結果、エアーマンの口から出た言葉は、 
うまい! 
その後、どううまいのか一生懸命語るとガイドさんは笑顔に戻り、 
「おかわりもたくさんあるよ〜」 
し、しまった。
そんな途方の暮れるエアーマンにトゥルーマンが追い討ちのひと言。 
「そんなにうまけりゃ、俺のも全部あげる」 

あ、てめ、かなりの先輩だけど、このヤロ。 
結局エアーマンは“口に貯めてトイレで流す作戦”を駆使しつつ、
ハタンポ寿司を完食したのであった。 
同じようなことがウツボの姿煮や猪の毛付き焼肉でもあったが、
エアーマンは食べる前から常においしいことが決まっているのに対し、
トゥルーマンはマズけりゃとっとと星に帰ってしまうのである。 
そんなエアーマンとトゥルーマンに
今回の熱海ロケで新たな展開。 
夜、エアーマンはトゥルーマンに、
「相手の気持ちを盛り上げる会話ってのもある」ことを話し、
とりあえず否定するのを我慢をしてくれるように頼む。 
すると、効果がすぐに現れたのだ。 
昨日の昼食時。食堂のおばちゃんが食事後に
「小さいけど、ものすごく甘いから食べてみてよ」とミカンをサービス。
おばちゃんからもらい癖のあるエアーマン。
ひと口食べたら、そりゃ当然 
甘い! 
しかし、トゥルーマンの顔には「そうかぁ?」と書いてあり、
今にも口に出しそうな雰囲気。そこで、じっとトゥルーマンを見つめると、
トゥルーマンはエアーマンと目が合った途端、グッとこらえてニヤリっ。 
トゥルーマンとエアーマンが歩みよった小さな歴史的瞬間だった。
 

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

writer
PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
  • facebook
  • twitter
FOLLOW