【奄美ダイビングログvol.2】アマミホシゾラフグのミステリーサークルを追え

ダイビング経験のほとんどを伊豆で積み上げた根っからの伊豆ダイバーである筆者が、個人的な目線で奄美大島の海を紹介する「奄美ダイビングログ」。第2回目のテーマは、奄美大島の代表的な固有種である「アマミホシゾラフグ」だ。私が、国内で最も訪れたかった場所であり、出会いたかった生物だ。

(ダイビングショップ ネバーランド ふるたさん提供写真)

アマミホシゾラフグ(以下、フグ)は、1995年に「ミステリーサークル(以下、サークル)」と呼ばれる産卵巣(生き物が卵を産む場所)のみが発見され、2014年に新種として登録された比較的新しいフグだ。体長約10〜15cmのオスが子孫繁栄のために直径約2mのサークルを作ることで一躍有名になったフグ。その人気は日本だけにとどまらず、2015年米ニューヨーク州立大・国際生物種探査研究所が実施した「世界の新種トップ10」に選ばれており、世界中で注目を集めているといっても過言ではない。

そこで、今回はゼログラヴィティ奄美大島さんにご協力いただきながら、フグのサークルができるまでを追っていこうと思う。どんな場所に、どのような過程で作り上げるのか、筆者自身も非常に興味深いものだ。

まずは、なぜフグが子孫繁栄のためにこのような複雑で不思議な幾何学模様の産卵巣を作成するのかについて見ていこう。作られたサークルで繁殖行動を行うのはいうまでもないが、写真から見ても分かるとおり、中心の円に向かって放射線状の溝が何本も作成されている。これは、どの角度から海水の流れが来ても、中心部に生み落とされる卵へ新鮮な海水が供給されることを意図しているという。(※1)さらには、この行為はメスへの求愛行動にもなるため、出来の悪いサークルを作るなんてもってのほか。メスのハートを射抜くため、砂の質を変えたり、貝殻で装飾したりなどといった細部までこだわりを魅せる。

(※1)参考:https://www.spf.org/opri/newsletter/363_1.html

(装飾のために貝殻を運ぶアマミホシゾラフグ ゼログラヴィティ奄美大島提供写真)

フグのサークルが観察できるのは繁殖期である4月下旬から7月中旬にかけての約3ヶ月間。現地ガイドによると、4月から5月の期間はサークルを作るペースが遅く、フグが最も活発に動き出す6月がベストシーズンだという。とはいえ、まだ謎も多く、確実に見られるといった保証はない。

フグがサークルを作成するのには、どうやら潮回り(※1)が大きく関係しているとのこと。現地のダイビングショップのブログから推測すると、フグは産卵に合わせ、大潮が始まる約1週間前から産卵巣を作り始め(※2)、潮が大きく動き始める中潮から大潮までの期間に完成を目指すことが多いそう。(※3)

私たちも7月上旬に迎える大潮に向けて産卵巣が作成されるはずだと予想し、フグがサークルを作るであろう深度27〜30mの砂地を探した。予想は的中!すでにうっすら幾何学模様が確認できる状態の産卵巣を発見。私たちが観察している中でもフグはせっせとサークル作りの励んでいた。この産卵巣が確認されたのは2021年6月29日、引き続き、今回発見した個体を対象に経過観察を進めていこうと思う。

(※2)参考:ガイド会ブログ
(※3)参考:https://amami-umikaze.net/amamidiving-fundiving/amamihoshizorafugu.html

(2021年6月29日に発見したアマミホシゾラフグ ゼログラヴィティ奄美大島提供写真)

(体を器用に振るわせて溝を作成する ゼログラヴィティ奄美大島提供写真)

写真からでも分かるように、砂地にうっすらと模様が確認できる程度。フグは体を器用に震わせ、正円に近いサークルを作り上げる。自分自身の子孫繁栄がかかっているフグのこだわりはピカイチ。サークルに必要のない海藻や石は口を使い、円の外へと排除する姿も見られた。

次の日(2021年6月30日)も同様に同じ個体の観察を続ける。前日の写真と比較しても分かるとおり、だんだんと中心から放射線状に描かれた溝が深くなっていき、サークルが完成に近づいていくのが確認できる。

(2021年6月29日に撮影したサークル ゼログラヴィティ奄美大島提供写真)

(2021年6月30日に撮影したサークル ゼログラヴィティ奄美大島提供写真)

7月1日のサークル。溝の凹凸だけでなく、中心部に向かい傾斜も急になってきているのを確認。これも、新鮮な海水を取り入れるための工夫なのだろう。

(2021年7月1日に撮影したサークル ゼログラヴィティ奄美大島提供写真)

(横から見ても砂の持ち上がり方が以前までとは違うことが分かる ゼログラヴィティ奄美大島提供写真)

7月2日のサークル。放射線状の溝も深くなり、幾何学模様がはっきり砂地に浮かび上がってきた。あとは円の中心にも似たような模様が描かれれば完成となり、メスを待つだけだ。もしかしたら、カップルが成立した2匹が寄り添うシーンも夢ではないと胸が高鳴る。

産卵する光景を観察できるかもしれないため、次の日(2021年7月3日)は早朝から海に出た。時刻は6時30分、眠い目を擦りながらもフグの元へ向かったが、時すでに遅し。サークルの中心部分の砂が異様に盛り上がり、オスがそこを守るように泳いでいた。産卵が終わるとフグのオスは中心部の模様を消し孵化する4〜5日の期間、卵を守る習性がある。つまり、昨日の間にメスと出会い産卵、オスのみで卵保護をしている状態だと推測がつく。

(2021年7月3日撮影 ゼログラヴィティ奄美大島提供写真)

今回は産卵シーンまでは見届けることができなかったものの、本来の目的である「アマミホシゾラフグのミステリーサークルができるまで」をしっかりと観察することができた。今シーズンのフグの産卵はもう終わりに近づいている。今年の夏に誕生した命たちが、これから奄美の海を元気に冒険できることを願い、そして彼らが安心して繁殖できる環境を今後も守っていきたいと改めて考えさせられた時間となった。

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PROFILE
静岡県西伊豆町出身。

ドルフィントレーナー専門学校を卒業後、ダイビングインストラクターや操舵手といった海に関わる職歴を持つ。

現在は、ライターとして「地球に暮らす全ての生き物がHAPPYな未来を」と願い、記事を書く。
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